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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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三日月の夜に君は笑う

作者: あおぴく
掲載日:2026/04/10

 彼女…三日月深夜はクラスの中心のような存在だ。


 消しゴムを忘れたら

「仕方ないですなぁ…はいこれ。大事に使うんだよ?」

 と消しゴムを貸してくれる。


 誰かが転んでしまったら

「大丈夫?一緒に保健室行こっか。」

 と手を差しのべる。


 運動会で負けても、先生に怒られても、テストでひどい点数を取ったとしても、彼女は切り替える。笑って皆を元気付ける。


 優しくて、明るくて、人懐こくって、誰とでも仲良くなれる。


 クラスの全員三日月深夜を好いている。


 だがそんな彼女にも、耐え難いような過去がある。


 ───


 三日月深夜が生まれた家は、なんの変哲もない幸せな家庭だった。


 母はいつも深夜のことを思ってくれた。

 父も休暇の時には一緒に遊んでくれる。


 でも…それは長くは続かなかった。


 彼女が5歳の頃、父が有給を取り息抜きとして、家族3人で旅行に行っていた。海水浴…と言う体で海辺の浅いところで水を掛け合ったり、少し有名な神社にお参りに行ったり。


「おかーさんはなにお願いした~?」

「そうねぇ…深夜がすくすく育ちますように~ってお願いしたわよ?」

「そーなんだー!ありがと~!」

「ふふ…深夜はなんてお願いした?」

「えっとね~?おとーさんとおかーさんがずーっと元気でいますように~ってお願いした~!」

「ありがと!」

「いやぁ…深夜は優しいんだな~!お父さんもうれしいよ!」

「えへへ~そっか~!」


 この頃は、何も考えずにいれた。お母さんと一緒に遊んで、お父さんにたかいたかいしてもらって。幸せをいっぱいに噛み締めていた。


 ───


 そうして旅行の日の夜のホテルでそれは起こった。

 かすかな揺れ。


「おかーさん、なんか揺れてない?」

「あらそうね…深夜。机の下に隠れてなさい?」

「わかった~」


 そう会話した次の瞬間。

 ドカン!と揺れが大きくなった。

 テレビのニュースでは震度7と表示されている。父が大きな声で深夜に呼び掛ける。


「深夜!机の下から出るな!」


 そうして地震が収まると母と父が深夜の手を引き部屋の外に出た。


「深夜!建物の外に行くわよ!絶対に下がらないで!」

「わ…分かった…!」


 そうして階段を下りエントランス。扉の外まであと一歩と言う時に、


 ドン!


 と背中を強く押され、転んだ。そして真後ろで轟音が鳴り響く。


「うわっ!」


 振り向くと、建物が丸ごと潰れている。隣を見ても誰も居ない。


「え…お母さん…?お父さん…?」


 後ろには、建物の瓦礫しか残っていなかった。

 彼女は、状況をしばらく理解できずに居た。


 ───


 彼女の日常が壊れた。

 そう彼女自身が理解したのは、事件の一週間ほど後だった。一週間の間に様々なことが起きた。


 身柄を保護され孤児院に住むことになり…旅行先の自治体の幼稚園に通うことになった。

 慣れないことが沢山あった。けれども彼女は5歳の凄まじい吸収力を駆使して順応した。


 彼女なりにうまくやれていたけれど…また彼女に困難が襲った。


 いつも通り孤児院に帰った時。


「お前ってさ。変な見た目してるよな~」

「なんか変な感じ~」


 そう同じグループの子に言われた。彼女はなんてことないように思っていたけれど、それは何かが始まる合図だった。

 とある日。


「ねーねー目閉じて~?」

「ん、良いよ?」

「どーん!!!」

 背中を強く押され、少しの浮遊感に襲われる。

「きゃっ!」

 目を開けると、そこには土があった。上を見ると、クスクス笑っている男子が二人。

「へへ~引っ掛かった~!」

「ねーねーここから出して~?」

「出しませ~ん!!!」

「え?」

 そうして視界から二人は消えてった。二人が笑う声だけが聞こえた。出るのには結局30分くらいかかった。

 でもまだこれは可愛い方だった。


 そうしてまたとある日。落とし穴を作った二人組が遊んでいるところに行き、

「なにしてるの~?」

 無邪気に声をかけた。だがそれが気に触ったようで睨まれ、

「はぁ?お前は関係ないだろ!」

「でもまぜて~?」

「うるせぇ!」

 べちん!

 と音がなる。殴られた。思わず涙が出た。それを見てまた二人は笑う。

「ははっ!お前泣いてるじゃん!」

「おもしろ~!」

 そうして、二人が敵意を持っているのに初めて気づいた。


 距離を取ろうとしても、二人から詰めてくる。いじめはどんどん激しくなっていった。いじめられる度に泣き、面白がられ、もっとエスカレートしていく。大人にいっても二人はうそ泣きを使いその場をやりすごす。最高に卑怯だった。

 そうして自分の銀の髪も、黄緑の目も。全てが嫌いになった。


 ───


 そうして小学校に入学した。

 だがまたしても虐められた。階段を使う時、後ろから突き落とされたり、ほぼ1日中倉庫に閉じ込められたり。


 今度も先生に言った。

 だが…


「校長先生…私いじめられてるんです…助けて…」

「そうか…分かった。ここは私がなんとかする。」


 そう言い校長先生は校長室を出たが…かすかに声が聞こえた。


「これは対応したとしても…学校の評判が悪くなる…見て見ぬふりをするしかないな…」


 彼女はこの時、この世の真理を理解した。

 この世は自分勝手なやつが極めて多い。手を差しのべてくれる人はほぼ居ない。ならば自分で自分は守るしかない。いじめられないためには、仲間を作るしかない。でも、近所ではもういじめられっ子として定着している。

 なら、どうすれば良いか。


 ───


 小学四年生の頃、午前1時。

 三日月の夜だった。

 彼女は上着を羽織って、ドアに手を掛ける。孤児院を脱走する。

 この日のために貯金を続け、五万円は貯まった。計画をびっしり書いたメモも持っている。現在の時間を把握するための時計も持って、外に出た。


 午前1時16分。

 孤児院は脱走した子を追ってくることを理解していた彼女は、電車のキップを買ってできるだけ遠くに行くことにした。電車が出発した。彼女の長い長い旅が始まる。


 午前1時32分。

 乗換駅についた。ここから別の路線に乗り、とある特急に乗れる駅を目指す。


 午前2時18分。

 ついた。今の所持金は48720円。

 そうして乗り換える為の駅間を移動している間、後ろから声をかけられた。


「貴方、今一人?」

「へ…?あ…はい…」

「危ないじゃない…小さい子がこんな夜中に…」

「いや…全然大丈夫なので…」

「大丈夫って…取り敢えず今日はうちに泊まりなさい。」

「どうしてですか。」

「え?」

「私は知らない人ですよ?」

「知らない人だからよ。」

「私知ってます。優しい人ほど怪しいって。」

「そう。でも貴方…大人と子供じゃ正面から戦っても勝てる。不意打ちすれば確実。怪しい人ならどうして不意打ちして攫わない?」

「…そうですか…貴方が熱心なのは分かりました…仕方ない…泊まらせてもらいます…」


 押し負け、家に泊まることになった。

 その家は、まるで屋敷のようだった。そこには大広間があり、大きな階段が真正面に。入ってすぐに、メイドさんが出迎える。

「お帰りなさいませ奏様。」

「はいはい~」

「ところでそちらの方は…」

「こんな夜中に一人で歩いてたから保護したわ。今日は泊まらせる。」

「そうですか…」

 深夜は唖然とした。こんな豪邸見たことがないからだ。

「うえぇ…すご…」

「そう言えば貴方。名前は?」

「あ…三日月深夜です…」

「そう。私は音和奏。じゃあ案内するわね。」


 そうして廊下を進んでいく。絵画や生け花が廊下に飾られ、ところどころにドアがある。

「貴方の部屋はここよ。分かった?」

「はい…」

 ドアを開けるとそこには明らかに大きく高級なベッドが。

「えっ…なにこれ…」

「まぁそれもそうよね…じゃ私はもう遅いから寝るわね。」

「あ…はい…?」

 そうして奏が去っていく。仕方ないしやることもないのでベッドに横になってみる。それは体を優しく包み込んでくれて…すぐに眠りにつくことができた。


 ───


 彼女は、夢を見た。幼いころの、家族との夢。

 たかいたかいをしてもらって、海で遊んで、抱きしめてもらって。神社でお参りをした時のことも。


 でも、夢は終わってしまう物だ。彼女は目を覚ました。

 起き上がるとそこには奏が居た。


「あ。起きた。」

「あ…はい…こんにちは…」

「朝食を食べに行くわよ。」


 そうして手を引かれ、大きな食堂に着いた。


「そう言えば…申し訳ないのだけれど見させてもらったわ。持ち物。」

「え…?」

「中々に計画のレベルが高い。秒単位で管理している。」

「あ…えっと…ありがとうございます…?」

「じゃあここで提案をしましょう。」

「提案…」

「この屋敷に住ませてあげる。その代わりあなたもメイドとして働いてもらう。まぁ…まだ子供だからお手伝い程度だけれど。」


 深夜は唖然とした。自分が必要だと言われた経験など5歳ぶりだからだ。


「どうしてですか。」

「放っておけなかったのよ。昔の私も…同じだったから。」


 勿論断ろうとしたが…


「分かりました…じゃあその提案受けさせてください。」


 何故か、断れなかった。


「そう。じゃあ転校の手続きとかしないとよね。こちらでなんとかしておくわ。」

「ありがとうございます…」


 どうして断れなかったのだろう。自分でも分からないが、少しだけ…昔の母に近しいものを感じた。


「じゃあ…うん。お風呂にでも入ってきなさい。」

「そうですか…じゃあ…」

「分かったわ。六花~?」

「どうしましたお嬢様。」

「この子を浴室まで連れて行ってあげて。」

「了解しました。ではこちらに…」


 そうして浴室に着いた。お風呂はかなり大きくて自分1人じゃ持て余すほどだった。そうして自分の髪を洗っている時に少しだけ、考え事をした。


 どうして奏さんは自分の髪について言及しなかったのか?

 どうして奏さんは自分を必要としてくれたのか?


 彼女にとってそれは経験したことが無い優しさだった。


 ───


 そうして奏の屋敷で働くことになった。小さめのメイド服を身に着けて、六花さんにやることを教えてもらって掃除をしたり。

 奏はメイド服を


「中々似合ってるじゃないの。」


 と言ってくれた。

 六花さんはもし失敗したとしても、


「大丈夫。次失敗しなければ良いから。」


 と言ってくれた。

 この屋敷に居る全員が深夜を家族のようにかわいがってくれた。久しぶりに愛情を感じた。


「深夜~?」

「はいお嬢様!」

「元気ねぇ…じゃあそこの花瓶の水を入れ替えて頂戴。」

「分かりました!」


 この頃から段々と深夜は昔のように明るく元気になっていった。勿論これは環境が変わったこともあるが、彼女の昔の経験にもあった。「いじめられない為には、味方を作るしかない。」

 無意識にそれを意識しているのかもしれない。


 そしてとある日、


「貴方、その髪型って気に入ってる?」

「…?そうですね。」

「そう…ちょっとだけ…髪を弄らせてもらうわね。」


 そうして奏が深夜の髪を弄り…


「はい。ポニーテールにしてみたのだけれど…どうかしら。」

「…良い感じです!ありがとうございます!」


 そうして深夜は自分の髪が好きになった。


 ───


 そうして中学の入学式。館の鏡の前でポニーテールを作った。奏が見つけてくれた自分の魅せ方。自分は見た目が見た目なせいで目立ってしまう。

 ならば自分から目立ちに行けばいい。


 そうして入学式の次の日。最初の授業として自己紹介を一人一人する時間があった。そうして深夜の番になり、前に立つ。


「三日月深夜だよ~!みんなよろしく~!」

「髪銀色じゃん!」

「アニメのキャラみたい…!」

「それって地毛!?」

「地毛だよ~?私はレアキャラなのです!」


 そうして中学校…高校と明るいキャラとして学校では過ごし、奏の屋敷に帰るとメイドとして働いて…


「お嬢様っ!花瓶の水替えしてきま…」

 パリーン!

「あ。」

「深夜…?」

「すいません…」

「本当に…次は無いわよ?」

「でもお嬢様ってそれ何回も言ってるじゃないですか…」

「確かに…」


 忙しいし失敗することもあるけれど、そこに居れると言うことは彼女にとって、最大限の幸せだった。

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