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乙女ゲームで何度死んでも「無礼討ち」バッドエンドが繰り返される~正解ルートなのに斬られまくるの何でっ!? 【短編まとめ版】

作者: 悠村ウゾ

─── シーン16 FINAL・学園ダンスホール 1回目───


 きらめくシャンデリアの下。

 ダンスホールでは、貴族の令嬢令息がたちが、華麗に踊り舞っている。


 そんな場所で、私は突然に〝覚醒〟した。


「な、何なのここ……いや、ちょっと待って」

 

 この景色、見覚えがある。

 やりまくってた〝とあるゲーム〟のスチルで何度も見たから間違いない。


 ……ということはっ、私って!

 

 近くを歩いていた給仕から、ピカピカのお盆をふんだくって自分を映す。

 

「ひぃいいっ! やっぱりっ……私『運シャン』のアンジェラリーナになってるぅっ!」


 ブラック会社の事務OL、アラサー地味顔が、丸顔でブロンドツインテの貴族女子に。

 なかなか、かわいらし───いや、問題は顔じゃない。


 30連勤の帰り道、やってられっかって歩きながら缶チューハイ500ml缶を一気にキメて。

 急激に酔って橋から落ちたとこまで覚えてる。

 

 ということは転生。理解が早いのは上等。


 だけど……よりによってこの、スマホ史上最凶の鬼畜死にゲー

『運命はきらめくシャンデリアの下で』

 ───略して『運シャン』のヒロインになるとは。

 

 きょろきょろして右前方数メートル。見つけてしまいました。

 金髪ゆるふわパーマのイケメン。攻略対象、スワロゥス第一王子殿下。

 リアルになってもホレボレする、端正なお顔だち。

 

 「……ふふ、やっぱり、やってみたいよね」


 ふと、試したくなった。ゲームのイベントを。


 だって見てよこの、ピンクドレスのフリフリ質感っ。

 白くてかわいいお手手。肌、きめこまかぁ~。

 こんな現実そのものでゲームを楽しめるなんて、贅沢すぎる。


 幸いにも私は、知り尽くしているから。

 このゲームの〝ク〇仕様〟なバッドエンドに繋がらない、正解を。


 だから今、逃す手など無いっ!

 このゲームのファイナル、学園の卒業舞踏会において。

 推しのダンスパートナーとなるビッグチャンスをっ。


 後ろ手にお尻を突き出し、ぴょんぴょんっとかわいらしく近づいていく。

 何、いい年して恥ずかしくないのかって。

 (アンジェ)は今、16歳なんだからっ。


 ああ、胸のドキドキが止まらないっ。

 実績で集めたスチル、何度見たかわからないよ王子さま(スワちゃん)

 もっともっとぉっ、近くでお顔を見せてほしい。


 王子殿下、射程内にロックオン。

 ワンステップで彼の前に踏み込んで……

 お顔はにっこにこのきゅるるん、上目遣い。

 パーフェクトの正解パターンで、甘ったるく声をかけた。


「でぇ~・んっ・か」


 刹那。

 右隣にいた側近(黒髪イケメン)が、すかさず腰の剣をぬき、振りかぶった。

 

「無礼者っ!」

「げぎゃぁ───っ!?」

 

 ギラリ、一刀両断。

 血、ぶしゃぁー。


 ひと断ちで、天国から地獄へ。

 痛い。めっちゃくちゃ痛い。


 ああ、シャンデリアが、シャンデリアがあ……どんどん、暗くなっていく……

 

 消えゆく記憶の中で、私は確信した。

 そうだ。これぞまさしく『運シャン』。

 

 たったひとつしかない、王子への正解アプローチ。

 それをシーンごとに見つけないと、必ずこの側近に、ぶった斬られてしまうのだ。

 理不尽極まりない、死に覚えの乙女ゲー。


 だけど……何で。

 正解のはずなのに……

 何を……まちがぇ…………───

 

 

- * - * - * - * - * - * - * - * - * - * - * - * - * -



─── シーン01・シャンデルデ学園 朝の廊下 1回目 ───


 生き返った、らしい。

 

 気が付けば、ゲームの別の場所にいた。

 ここもよく知っている。学園の廊下。

 王子との、最初の出会いがあるところだ。

 

 両腕をあげると……エンジ色のジャケットの裾が。

 学園の制服だ。

 そして教室の窓に映った私の顔、アンジェラリーナ。

 はい、アンジェかわいい。ツインテかわいい。

 

 いや、問題は顔じゃない。

 どうやら早速〝始まった〟ようだ。

 

「きゃあーっ、王子殿下ぁ───っ」

「やあみんな、おはよう」


 きらっきらの笑顔をふりまき、挨拶をするスワロゥス王子殿下。

 本来なら「ああ、スワちゃん……」と両手を合わせて拝むところだけども。


 ぶっわ───って、全身の毛穴という毛穴から冷や汗が噴き出し、光速ダッシュで教室へ滑り込む私。

 

「……はあ、はあ。もうちょい猶予が欲しいんだけどっ」

 

 さあ、どうする私。

 本来なら、

 

 「教室から慌てて出たところでドンして、尻餅をつきながら『ぅ、う……ぐすん。痛いよぉ~』と目を潤ませる」

 

 っていう、あざとさ全開の正解をたたき出すところだけど。

 

 このゲームは〝ヒロインのアクションをテキストで手入力する〟回答方式。

 AIが内容を判断して、正答にあるアクションの95%に達してたらクリアっていう。

 スマホゲーのクセに、めちゃくちゃシビアで面倒くさい仕様なのよね。

 

 かといって何もしないと、突然心臓発作を起こしてゲームオーバー。

 デス オア ダイな選択しかないの。涙目。

 つまり、何もアクションせずにスルーすることは不可能。 

 

 心臓ばっくばく、冷や汗だっらだら。

 こわい、こわすぎる。

 だけど、やるしかない。私は前を向いていくっ。

 「実績:死亡回数 3281回」。

 ユーザーランキングでトップになるほど、このゲームを極めまくった私を、なめるんじゃないわよっ。

 

 

 取り巻きの女生徒たちのきゃいきゃいという声が近づいてくる。

 あざといのがダメなのなら、正攻法でいく。

 礼儀正しく、さりげなく。それでいて目を見ながら、響くように挨拶の言葉を投げかける。


 ぃよっし。整った。いざ、出陣。

 教室を出て、前方5m。王子殿下が居る。

 

 慎ましやかに目を上げる。

 ふっと、目があった。今だっ。

 

「おはようございます、殿下。今日もご機嫌麗しゅ───」


 スッと、殿下の背後から黒い影が。

 出た、側近。

「氷の騎士」オルフォス、登場。


「無礼者っ!」

「ぐバぁああああ───っ!」


 白無垢の壁に、真っすぐ延びる血しぶき。


 ああ、また、死んだ。

 挨拶した、だけなのに……

 

 てかさ。

 なんで……

 何で既に、抜刀してんのぉ……───



- * - * - * - * - * - * - * - * - * - * - * - * - * -



─── シーン04・学園図書室 2回目 ───


 はい、また復活。

 死亡回数、現時点で全9回。シーン移動は5回。

 さっきと同じ図書室で再開。

 

 ここまでで気づいたことを、脳内にメモっておく。


 まず、斬られる痛みと恐怖が、数を追うごとに和らいでいること。

 百回斬られれば英雄? ちょっと自分で何を言ってるのかわかんないんだけど。

 とにかく、微妙ながら救済措置はあるみたい。


 あと、死んでから飛ばされるシーンは順不同。

 中庭とか下校時間の校門とか、時系列関係なし。


 この図書室みたいに、連続して同じところをやり直すこともあるんだけど……実は斬られる痛みより、怒りのほうが勝ってくる。


 パスタ作ってさあ食べよ、って思ったら急に目の前でゴミ箱入れられて、もっかい同じもの作れって。はあ? ってなるでしょ。まさにそれ。


 

 薄明りの中、本棚の谷間に立っている。静謐(せいひつ)と、ほんのりのカビ臭さ。

 雰囲気づくりにはいいけどさ、暗くて……本を探すのにまったく向いてないよね。

 

 二つ向こうの本棚で、殿下は本を読んでいらっしゃる。

 そこへ私はさりげなく近づき、隣で本を取ろうとして落とす。

 本の角が頭に当たって(ていうか当てて)「いたたた……ドジだなあ私」ってやるのが正解なんだけど。

 それやって、さっき斬られたから。


 本が並んでるのに斬る? 頭おかしいんじゃないのあいつ(オルフォス)


「……ふぅ。落ち着け、私。まだまだ、くじけちゃいない。必ず、勝利(クリア)をもぎ取るっ」


 意を決して、殿下のいる本棚へ。

 適当な本を一冊胸に抱き、知的な感じを装うインテリジェント作戦、開始。

 

 殿下……本を読んでいらっしゃる。

 ああん、ぴしっとした背筋に、長いおみ足の片膝だけくっと曲げた色気ブースト過ぎな立ち姿。

 細い指先がページに触れるのを見るたび、もうっ。


 意を決し……ゲームの解説で出てた本のタイトルを投げかけてみる。

 どんな話か突っ込まれたら終わり。乗るか反るか。


「それ……『千夜奇譚』ですよね。わたしもそれ、大好きなんです」

「へえ。こんな古典物語に授業以外で興味を持つ子、初めてだよ」


 

 ……ふぉおおおおおおおっ!?

 

 動いた、動いたぞシーンがっ。初勝利(クリア)、もぎ取ったりぃっ!

 

「君は確か……アンジェラリーナだっけ。〝先日の廊下〟では済まなかったね。あれから大丈夫だった?」

「え、あ、はいっ。お気遣い嬉しいですっ」


 なななんと。シーン01もクリアされた前提で進んでる。

 これは……ついに、この悶絶地獄ループから抜け出す光がっ。


「……っと。そろそろ行かないと。またね、アンジェ(﹅﹅﹅﹅)


 ほぁああ……いい声ぇ。しかも愛称呼びぃぃ。

 去り行く背中に光がさして、オーラがハンパない……


 推しのボイス余韻から、私はあらためて初クリアの達成感をかみしめた。


「ぃよっしゃあああああ───っ……ぁえ?」


 ゆらり、影が目の前に立ちはだかる。

 オルフォス! なんで。クリアじゃないの?


「え、ちょ、あの」


 剣光一閃。

 

「無礼者ぉっ!」

「ぎょぴゃぁぁぁぁ───っ!?」


 胸に抱えた本ごと、真っ二つ。

 切り裂かれ、血濡れたページが、図書室を舞う。


 やっぱり、痛いじゃないのよぉぉぉっ。


 ていうか。

 図書室では、お静かに…………


 

- * - * - * - * - * - * - * - * - * - * - * - * - * -



─── シーン15・??? 1回目 ───


 ここは、いったい……

 

 城下町のはずだけど、こんな綺麗な夕闇の空、背景であったっけ。

 

 ───! まさか。知らないってことは。

 確か前世でのプレイで……


<<よっし、シナリオコンプ率98%。あともう少しだけどちょっと休憩っ。さすがに疲れたわ>>


 残り2%の放置。

 その未確認イベが起こってしまったんじゃ。

 この期に及んで、そのツケが来るとは。 

 

 まあ、どうせ正解したって斬られるんだけどさ。


 

 とりあえず殿下(スワちゃん)を捜さないと。

 う~ん、でもスチルだけが頼りだから。

 町っていったってどの辺なのかわから───


 ───うん?

 あの並んだ屋台に、ランタンの灯り……

 ああっ、わかった!

 これ、ライバル悪役令嬢のバッカラが言ってた「夜祭り」。

 殿下がお忍びで行くかもって出たから必死でフラグ探したんだけど、どぉ~しても立たなかったやつっ。

 

 ランタンのオレンジ色が照り返す石畳を蹴って、あちこち探し回る。

 きっとここに殿下(スワちゃん)がいるはず。


 でもこの人混み……

 くっ、いやだけど、背の高いオルフォスを探すほうが早いかも───

 

「───! きゃっ」


 何かにつまづいて、盛大にこけた。

 いたた……ああ、膝をすりむいて、血が出てる。

 もおぉ、斬られる以外で何を痛い目見てるのよ、このバカ(アンジェ)っ。


「……おい。大丈夫か」

 

 何か上の方から、聞いたことがあるようなひっく~い声がする。

 おそるおそる顔を上げると……

 

 ほぇええええええ───っ! お、オルフォスっ!

 

 めちゃくそ怖い顔で見下ろしてるぅ。

 元々怖い顔が、ランタンの灯りを下から当てられて誰得な恐怖マシマシのアオリ画になってるゥゥ。

 

 ぃいいや、そりゃさっきこいつ見つけたほうが早そうなんて思ったけど!

 まさか単独でご対面になるとはっ。


 これは確実に死ん───あれ。


 オルフォスがしゃがみこみ、胸から白いポケットチーフを抜き取って、私の膝に巻き付けた。


「えっ……あ、あの」

「ケガをそのままにできんだろう。応急処置だ。 家に帰ったら捨てておけ」

 

 ぇえええええええっ。

 どっ、どういうこと。この(アンジェ)絶対殺すマンが、180度真逆の人間になってるんですけどっ。

 

「ちょっ……」

 

 私の躊躇など関係なく。

 とてもやさしい手つきで、くるくると。

 綺麗な指先が、ときおり私の膝まわりをかすめる。


 顔が、近───うっ、ぃやだやだヤダっ。

 ちょっとときめいちゃって。私チョロすぎじゃないっ!

 

 でも、そうだ。

 このオルフォスって、スチルでは常に王子殿下の横にいるだけなんだけど。

 顔はめちゃくちゃイイからファンが結構ついちゃって。公式でもきちんとプロフ作って対応してたよなあ。

 

 あ~あ。運営もさあ、最初からこんな風に普通の側近にしてくれてたらよかったのに。そしたら私も、こんなに苦しまずに済ん───いやいや。それじゃこのゲームの意味が無いし。


 ふふ……ほんとは私、こいつに斬られるためにずーっとゲームをやってたのかもしれない。なんってね。



 オルフォスは手際よく巻き終えると立ち上がり、私に手を差し伸べた。


「殿下を捜しているのだろう。連れて行ってやる」


 すっごく、やさしいお顔。

 ランタンの灯りが頬を照らして、いつもの氷の騎士が、あったかい表情に。

 何で、こんな……

 

 ───っ! 待って。


 確かこのシーンに来るまでも、幾つかクリアっぽく動いていくパターンがあったけど。

 後のシーンになるにつれ殿下の台詞が、どんどん私との距離が縮まったものになって。〝前シーンクリア〟を反映した内容になってた。

 

 つまりこのオルフォスの超軟化した態度と、私の知識からして。

 FINALシーン、学園の卒業舞踏会の、直前イベなのは間違いないっ。


 まさしくの下準備。

 3回死んだあの忌まわしきシーンを、今度こそクリアできる……?

 うふ、うひ、うふひふふふふひ……

 

「何をニヤニヤとしている」

「えっ、あっ、すいませんっ」


 いかんいかん、ついつい感極まってしまった。

 まだこのシーンがどう転ぶかわからない。痛みに歯ぁくいしばる用意はしておかないと。


 そっとオルフォスの手を取り立ち上がった、その時だった。


「オルフォス。何をやっている」

 

 王子殿下(スワちゃん)、満を持して登場。

 両手にべっこうみたいな色の飴細工を持っている。なんかカワイイ。


 オルフォスは一礼し、私のほうへと(うなが)した。


「アンジェラリーナ嬢が殿下をお探しでしたので、連れて参りました」


 イベントが始ってる?

 わからないんだけど、とりあえずニッコニコのきゅるるんで挨拶をした。


「殿下ぁ。お会いできてよかったですぅ」


 ん……あれれ?

 黙って私を見ている殿下。っていうかこれ、睨んでない?

 肩をわなわなと震わ、引きつった唇を開いた。


「見ていたぞアンジェ。貴様(﹅﹅)がスカートをたくし上げ、足をはだけ、いやらしく〝オル〟を誘惑していたのをっ」


 はへ?


「殿下、恐れながら。彼女は転んでけがを」

「〝オル〟は黙っててっ」


 石畳に飴を叩きつける殿下。


 ぇええええ? 何その、ヒステリックな感じ。

 いったいぜんたい、どういう───


 殿下は腰の細剣(レイピア)をスラリと抜いた。


 私は混乱した。混乱しまくってのけぞった。

 しかし殿下は、容赦なく振りかぶった。


不埒者(ふらちもの)ぉっ!」

「のヴぉぉぉぉ───っ!」


 ランタンの光に、赤黒く映る私の血しぶき。


 ウソ……でしょ。

 まさかの、〝そっち(B L)〟展開、とは。


 でも、それはそれで、好物……で……す…………



- * - * - * - * - * - * - * - * - * - * - * - * - * -



 あれからさらに、いくつものシーンをループさせられている。


 わかる限り……どのシーンも〝クリアしたような〟ムーブには持っていけてはいる。はず。

 しかし毎回最後に、何だかわかんないままオルフォスに斬られて暗転するのだけは変わらない。


 淡々と、巡ってくるものに対処するだけ。プログラムの一部になったような気さえする。

 あの夜祭りのイベントも、何とかオルフォスに斬られるエンドで終えた。

〝本当の殿下〟を知りながら。


 殿下(スワちゃん)……

 確かに人気者で、きらめいて、この世界の頂点にいる人。そして、遠い。

〝そっち〟なのはいいとしても。全シーン、一度も手を繋いだことさえない。

 彼の、人としてのあたたかさを、何も感じたことが無いのだ。


 私の手を取ったのは、たった一回、あの夜祭りのオルフォスだけ。

 振り返ってみれば、あの時のオルフォスのやさしさが、このゲームで最も血の通ったシーンだった。


 斬って斬って、斬りまくって。

 私の血を奪い続けた彼が、唯一、ぬくもりをもって伝えてくれたこと。


「───っ! そうか、そういうことなんだっ」


 私はやっと、やぁっと気が付いた。

 このク〇仕様なループを抜け出す方法に。


 そうと決まれば、やるしかない。



- * - * - * - * - * - * - * - * - * - * - * - * - * -



─── シーン16 FINAL・学園ダンスホール 4回目───


 きらめくシャンデリアの下。

 ダンスホールでは、貴族の令嬢令息がたちが、華麗に踊り舞っている。


 すべては、ここから始まった。

 理不尽に、斬られ斬られて、ぶった斬られ続け。

 ここまで死ぬこと、42回。〝しに〟って、何の冗談だ。


 毎回同じ、ピンクのフリフリドレス。

 前世で10歳若くても、結婚式でさえも着ないであろうこの衣装。結構悪くなかった。ありがとう。

 


 もうイベントは始まっている。脳内の段取りは完璧だ。

 あとは度胸と気合だけ。


 スワロゥス王子殿下と、側近オルフォスが楽団の際で並んで立っている。

 私は今までのあざといパターンを全てやめ、ごく普通に近づいた。


「王子殿下、オルフォス様。ご挨拶をどうかお許しください」


 丁寧にカーテシーをキメつつ、ごく普通に貴族らしく。

 オルフォスは動かない。何より、二人を連ねて呼んだことに少し戸惑っているようだ。


「どうしたんだい〝アンジェ〟。ダンスのパートナーなら構わないよ。次の曲でどうだい」


 愛称が出ている。ここまでの積み重ねが生きている。

 よしよし。狙い通りだ。


「ありがとうございます。しかし私は、オルフォス様に少し御用が」

「……どういうことだ」


 オルフォスが怪訝(けげん)な顔をする。そして殿下も、爽やか笑顔の眉を少しピクリとさせたのを、私は見逃さない。


「オルフォス様、どうか王子殿下のお手を取っていただけませんか。ダンスのパートナーとして」

「なっ……何故」

「殿下がお待ちだからです。この学園最後の舞台で、最愛の人と想いを遂げあうために」


 二人とも、驚きの目を限界まで開いて私を見ている。


 そう。私は気づくのが遅かった。

 令嬢たちが誰も殿下をダンスにお誘いしなかったことに。

 そして唯一〝ヒロインだと勘違いした私〟が突撃して、斬られる。

 私は、二人の神聖な間柄を、単に邪魔していただけだったのだ。


 ひょっとしたらこれも、未コンプなシーン2%の内に入っていたのかもしれない。もしそうなら、これを以てフルコンプなはず。


 ほら、もう私そっちのけで見つめ合ってる。

 二人を見守ろうと、自分の顔がおのずと柔らかい笑みを浮かべていくのがわかる。


「ふふ。もう、じれったいですねっ」


 私はさっと二人の手を取り、つなぎ合わせた。

 抵抗はない。私になされるがまま、ついには両の手をがっしりと取り合った。


「さあ。次の曲が始りますわ。お二人の華麗なるステップを、どうか皆様にお披露目くださいませっ」


 私が促すまま、二人は(うなづき)き合う。

 バイオリンの合図とともに、弦楽器隊が一斉にワルツを奏でる。


 フロアの中央へ躍り出た二人。男性カップルによるステップは、それは力強くたおやかで、勇壮で優美で。


 ホールに居た他の貴族子女たちも、二人を囲むようにして、誰彼なく手を取り合い、一斉に踊りだす。シャンデリアのきらめきに彩られながら。


 ああ……何て圧倒的で、美しいエンディングの光景だろう。


 しかも二人とも、めっちゃ笑顔なんですけど。

 ちょっぴり妬けつつ。

 私は42回ぶった斬られまくったことも忘れ、この尊い光景を一等席で、ただただ見守り続けていた。


 



「だけど……このあと私、いったいどうなるんだろう」



~Fin~

 


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