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仲介  作者: あ行
9/14

9食

胃表現注意

「仲介、持ってきた。」

 雨。

 襖越しに声をかけられた。無視だ無視無視。

「開けるよ。」

「……。」

 襖を開けられると、後ろにもう一人ポツンといた。

「あ、仲介さん。」

「げ、陽だまり野郎。」

「はは。」

「これ朝食。食べよ。」

「いらん。前も言っただろ。」

「だって、」

「"長が"だろ。もういい。小説の邪魔だ。お前らは登場人物ではない。」

 しっしっと払いのける。しかし、グイグイと容赦なく部屋に入ってきた。

「食べよ。」

「もう……。いらんと言うとるのに。」

 敬語はその場から空氣のように離れて行った。

「いただきます。」

「……、」

 仲介は怪訝そうな顔でご飯を見ていた。僕にはキラキラと輝いて見えるのに。

「美味しい。ほら仲介も。あーん。」

「いらん。やめろ、それ。」

 それ、とあーん、を指差す。

「今日は天ぷらだからお前にやるよ。」

 と、天ぷらを皿ごとあげた。青い皿。

「それじゃ、味噌汁とご飯しかなくなるよ。」

「いいんだ。もう私の好き勝手やらせてくれ。」

「僕、いらない。その天ぷらは仲介のだよ。」

 と、まじまじ天ぷらを見ながら言う。

「噓つけ。凮邪の時に、食べたいって言っていたのはお前だろ。」

「仲介は優しいね。」

「……、」

 手が止まる。優しいなんて言われたこと無い。己れはそんな優しくしていない。長のような人にはなれないんだ。

「……うん、美味しい。」

 もぐもぐと頬袋に詰め込んで、幸せそうに食べている。

 羨ましい。

「……。」

 己れもあんな風に食べれたら。

 白米を口に運ぶ。

「…………。」

 やっぱり分からない。そんなに進んで食べるほど美味しくない。

「やっぱ、お前にやる。」

「…………。じゃあ、お芋さん食べたい。あと大葉も。それ以外は仲介が食べて。」

「……分かったよ。」

 サクッ

 天ぷらを一口。レンコンの天ぷら。

 レンコン特有のなめらかな歯応えだ。次には味がした。レンコンの味。最後は灰汁のような後味だ。舌がイガイガする。どうもこれがあまり好まない。

「ね。仲介。美味しいでしょう?」

「……、美味しくない。レンコンは苦手だ。」

「……美味しいのに。」

 雑用が小言を言っている間に味噌汁を一口。

「……、」

 これはなんだか美味しかった。

「ねぇ、仲介。僕にも取引させてよ。」

「駄目だ。」

「えぇ……。」

 梅を食べた。これも美味しい。

「そんなにやりたいなら、長に聞けよ。」

「あ、そうか。そうしよ。」

 雑用の笑顔を見ながら、白米を食べた。さっきとは打って変わって、甘い。

「取引って大変?」

「大変……って考えたことなかったな。まぁ、雑用より大変なんじゃないか。」

「もう……!雑用は雑用なりの悩みがあるんだから。」

 ぷっくり怒った雑用を眺めながら、漬け物を食べた。しょっぱくて美味しい。

「ほぅ。例えば?」

「例えばって……、うぅーん。食べ物が質素なことかな。」

「ふっ、お前は食に関して執着心がすごいな。私と眞逆だ。」

 天ぷらを食べた。

「そうだね。雑用にも鯛とか出てきたらいいのに。」

「ははは。そんなの夢のまた夢だな。鯛なんて、長ぐらいしか食ってないだろ。」

「ふふっ、いつか食べたいなぁ。」

 美味しい。

「「ご馳走様」でした。」

――――――――

 朝食を食べ終えた後、小説を読んだ。雑用は膳を片付けに行っている。

「……う、」

 胃が。

 やはり体がもたぬか。詰め込み過ぎた。喉の奥まで押し上げる。やめてくれ。

「やめてくれ。」

 己れが何したって言うんだ。これは天罰かもしれない。

 胃酸が食道から逆流して、喉が焼ける。火傷のようにヒリヒリと痛む。けど、どうしようもないんだ。

 もうやめてくれ。やめてくれ。己れは唯、普通に食事をしたいだけなんだ。嗚呼、

「情け無い情け無い。」

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