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仲介  作者: あ行
3/7

3何

「仲介、一日だけこの子を預かれ。」

「お断りします。」

 雑用は二人のあいだに立って、言葉を眺めている。

「くはは、わしに背くとはなぁ。いい度胸じゃないか。これは長の命令だ。な、一日だけじゃ。いいだろう?」

「……わかりました。」

 長が出て行った瞬間、雑用をギッと睨む。

「長はなんでこいつに執着してるんだ。」

 長は素足で廊下を歩きながら、聞こえてないはずの会話に返事をした。

「くはは、なんでじゃろうなぁ。」

――――――――――

「…………。お前はここで待っとけ。取引の邪魔だ。」

「何で。僕、なにも言わない。」

 あのなぁ、と大きく口を開けて八重齒を光らせた。

「言う言わない関係ないんだ。大人しく待っとけ。」

 去ろうとしたら、すぐ後ろに付いてきやがった。後でどうなっても知らない。

「…………。」

――――――――――

 コンコンと黒い木の机に相手は指差した。何か不満のようだ。

「酒、参拾(さんじゅう)升、何が駄目なんですか。」

 ゴンゴンと長い不潔な爪を机に叩いた。お香の匂いがする。

「……おぉ。何かお氣に触ったようで……。じゃあこの値打ちでどうでしょう。」

 最初の金額は見せかけだ。わざと高く見積ったのである。

 バンッ

「ぐっ!!」

 頬を殴られた。急なことに対処はできない。雑用はそのまま動かずにじっとしている。じっとしていたのだ。

「いたた……警察沙汰になっちまいますよ……?いいんですか?」

 ゴンっ

 また殴られる。反撃か?いや、

「……、」

 このまま殴り死ぬのもいい。

「仲介!」

 雑用が叫ぶ。何もしないと自分で言ってたのに。約束を破りやがった。

「ほら、ここに来ても良いことなんて無かっただろう?」 

 頭に血を流しながら、こちらに顔を向けた。布に血が染み付いている。

「……、」

 雑用は止める(すべ)もなく、唯呆然と見ているだけだった。

「やあやあ、酒屋さん、なにをしてるのですかい。」

「……おさ、」

 仲介はバタッとその場に倒れる。

「わしの大事な道具に、手を出さないでくれないか。」

 仲介の肩を寄せた。仲介はかろうじて立っている。お香の匂いと血の匂いが混ざりって、氣持ち惡い。

「仲介、死のうとするな。」

 ぼそっと喉仏が動く。雑用は長に駆け寄った。頼りのある背中。

「お宅さんの酒屋はもう閉店だ。ごめん游ばせながら、こちらで色々していてなぁ。」

 あの世のような、血の滲んだ声が部屋に響いた。

「 お前なんか地獄に堕ちるといい。 」

―――――――――――― 

「…………、あ、」

 天井が、

「起きたか。」

「雑用、なぜ私の部屋にいるんだ。出て行け。」

 言葉を吐きながら体を起こした。

「長に頼まれた。かわよい仲介を見ておくれと。」

「はぁ、冗談はよしとくれよ。」

 さりげなく、目を隠している面を触った。心の隅で安堵する。

「大丈夫?」

 幼い目で顔を覗かれた。他人に心配されるなんて、いつぶりだろう。

「…………。やめろ、覗くな。」

「……、せっかく心配してるのに。」

「ああ?」

「ごめんなさい。」

 雑用ごときに何がわかる。人のこころも分からない、ちっぽけな存在なのに。

「あとね、長が――――」

 あぁ、あの時なんで長が来たんだよ。もう少しで終わるとこだったのに。

「話聞いてる?」

 雑用が頭に入る。

「あぁ、聞いてる聞いてる。」

「じゃあ良いってこと?」

「あぁ、いいいい。」

 雑用は「やった。」っと小さな手を握って笑った。

 雑用ごときが。

仲介と雑用の部屋は近い

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