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仲介  作者: あ行
27/37

27紐

「こうやって……こうして……」

 雑用が何やら紐で游んでいる。私は氣にせず、小説を読んだ。

「……できた。」

 今日晴れであった。

「仲介。見て。」

「なんだそれは。」

「ごむごむ。」

 とまるっこい言葉を言いながら、紐を手の間から縦横している。

「へぇ。」

 また、奇麗な文字を見つめた。この作家の文が好きだ。

「……。」

 雑用はもの惜しそうな顔で仲介を見つめた。しかし急に興味がなくなったのか、またあやとりを再開した。

「仲介。」

「なんだ。」

 音が入る。無視できない音。あやとりをしながら、小説を読みがら、喋舌(しゃべ)った。

「仲介はさ、いつ風呂に入ってるの。」

「……。さぁ。」

「入ってないの。」

 仲介は不貞腐れた口をした。

「ぶわ……!」

 仲介の手が画面いっぱいに映る。

「入ってる。」

「いつ?」

「何故、そうやすやすと聞いてくるんだ。私がいつ入っていてもいいだろう。」

「一緒に入りたいから。」

「……、」

 下心はないみたいだ。私の目を覗いて見下すような盗み心はない眼差しだ。

「……夜。」

「の?」

「深夜……、」

 小さい声だ。

「え、その時間って開いてないよね?」

「あぁ。長が特別に用意してくれているんだ。」

 特別というとなんだか嫌な心持ちがした。だが時すでに遅しでもう言ってしまった。

「へぇ。」

 雑用はただ納得している。外道な奴じゃなくてよかった。

「一緒に入ろ。」

「嫌だ。」

「なんで。」

「…………、」

 雑用には見れない眼を横に移す。無意識にまくっていた袖を下ろした。

「ただ単に、お前と入りたくないだけ。」

「え、」

     空白。

「……、」

 言い過ぎたかもしれない。けどこれでいい。ただの雑用ごときにこのような感情はいらない。いらない……。

「…………、」

 雑用は泣きそうな顔をしている。

「前につけられた傷が酷いからだ。」

「……、」

 雑用はまだ悲しい顔をしていた。

「そんな傷見たら、ぞっとするぞ?」

 からかうように語尾を上げたが、表情は相手の顔をうかがうような、固い表情である。

「……分かった。」

 私の顔で判断したのか、笑わずにただその言葉に返事をした。

「…………。」

――――――――――――

 深夜。ふーっとキセルを吹かす。いつもの最上階で夜凮を樂しんでいた。

 まだお風呂には入ってない。

「……。」

 雑用はいない。後ろの部屋にも客はいない。一人だ。

「…………。」

 地面を見つめる。あの時、あの時、長が助けなかったら私は死んでいたのだろうか。自分は謎にいざと言うところで、運が良い。

「お前、空は好きか。」

「……?!」

 声のする方へ振り返ると、客がいた。頰がほてっている。これは酒で赫くなったのではないと、何故か確信した。

「好きか?スキか?なぁ、すきなんだろ?」

「え、っと。」

「答えろ。いつぅつ、よぉっつ、みいぃつ、」

 謎のカウントダウンが始まる。何をする氣だ。

「好きです。好き。」

「そおぉぉかぁあ!!」

 靜かな夜にそのような大声を出されると、他の客が起きてしまう。

「じゃあ、俺と一緒に死のぉおう!」

「ぐっ……!!」

 いきなり首に赫い紐をかけられた。相手の吐息が耳元で囁かれる。

 氣持惡さと怒りが腹の奧底から込み上げてきた。

「大丈夫だぁ!お前がいけば、俺も跡を追うからなぁ!」

 頭に血が昇る。じんじんと心臓が脈を打つたび、私は苦しくなった。

 私は死を受け止めようとして、抵抗も何もしなかった。

「苦しいだろぉ?!そうだよなあ。」

「……く、っ、」

 いしきがとおのいて

――――――――――

「仲介。」

「……、」

 長だ。

「良かった。」

 長の目が緩む。キキョウのような(かす)かな光。

「……後もう少し時間が空くと、手遅れだったぞ。」

「見廻りの子が仲介を見つけてくれたんだ。」

 無薬は長を見つめた。

「おさ、お凮呂……入りたい。」

「……、」

 きょとんとした目で私を見た。小供のようだ。

「くはは。いいじゃろう。許可してやろう。軀に氣を付けてな。ほんとに大丈夫なんじゃな?」

「はい、大丈夫です。ありがとうございます。」

 仲介は寢たきりで半分の眼を開いていた。

――――――――――――

 ちゃぷん

「……。」

 湯に浸かる。いつもなら軀を洗って直ぐに出るのだが、今日はなんだか浸かりたくなった。そういう氣分だった。

「…………。」

 眞っ直ぐ壁の浮世絵を見ているのに、視界には肩の傷が映った。この傷はきっと治らない。痣になって一生このままだ。

 首筋を触る。

「仲介。」

「………………。なんだ。何故ここにいると分かった。」

 雑用は肩からかけ湯をして、お凮呂に入った。

「本日二回目。」

 ちゃぷん

 幼い聲が浴場に注ぐ。

 風呂の水位はさほど変わらない。一寸、上がっただけだ。

「仲介がなかなか帰らないから、長に聞いた。」

「……。」

 長め。

 雑用は水の中、ちょっと浮いていた。水面に仲介の目が反射する。

「聞いたよ。」

「なんだ。」

 仲介は凮呂の時でも、面をしていた。暑くないのか。それ程の何か嫌なことがあるのだろう。

「また客に殺されかけたんでしょう。」

「あぁ。」

「良かった。大丈夫で。けど、なんでだろうね。仲介だけ。」

 肩の傷が目に入る。それは殘酷なものであった。しかしこの傷は触れないでおこう。きっとその方が幸せだから。

「不幸体質だから。」

 ザバーっ

「もう上がるの?」

「うん。のぼせた。」

――――――――――――

 部屋に戻るため、長い廊下を歩いていた。髪はまだ乾いていない。

「仲介、考えてみたんだけどね。僕たち、運命の紐で結ばれているかもしれない。」

 仲介の胸はトキメかない。

「ひも?糸じゃなくて?」

「うん。糸以上だよ。」

 もう(しめ)ってはいない素足で木の上を歩く。

「しゃらくせぇ。」

「しゃらくさくないよ。」

「どこで知ったんだ。そんな言葉。」

「仲介の小説から。」

「……。ふぅん。」

「だからね。仲介。」

 雑用は私の先を行き、私の眼を見た。

「まだ生きててね。」

没会話です。(八月いっぱいぐらいには終わるかな?って感じです。)

「仲介の小説から。」

「……。あんま勝手に見んな。」

「なんでよ。」

「お前にはまだ早い。」

「早くないよ。僕、文字読めるよ。」

「早い。」

「早くない。」

「いいや、早いさ。」

「馬鹿。」

「あぁ?」

「仲介、優しくない。」

「言っただろう。私は優しくないさ。」

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