2取
「なんでこんな奴、あやさなきゃならないんですか……!」
こんな奴と雑用に指をさして長を威嚇する。
「いいじゃないか。一匹増えたって、変わりゃあしないじゃろう。」
「雑用でしょう?己れは……」
「ふっ、自分で言ったじゃないか。仲介。身分なんか決めなくてもいいと。雑用、接客、料理・藥そして長のどこかにいなくてもいいと。」
ごもっともだ。己れがそうしたくて長に頼んだのだから。
「それに、」
と、扇子で顎を指された。
「貴方のことは知っている。」
「……うっ、」
余裕たっぷりに見つめてきた。威圧感が全身に漂う。
「まぁ、いいけど。今回は撤回だ。雑用、来い。」
袖を廻して去って行った。
「…………。」
取引の所へと移動する。
ベチっ
「いだっ!」
誰かが私の前で転んだ。この身なり、雑用か。さっきの雑用とは違う奴。無視して行こう。
「…………。」
「いった……誰ですか?こんな油を撒き散らしたのは。」
背後で声が聞こえた。
「大丈夫か。」
「……え、」
跪く私を見上げた。私に助けてもらえるなんて思ってもみなかったのだろう。
「だから、大丈夫かって。」
苛立ちの念が声に乗る。
「大丈夫……です。」
「そうか。」
雑用も見過ごせないなんて。まだまだ分かってない。
――――――――――――
「米は仁拾俵。……え?できない?そこを何とか。」
黒い影を着た取引相手が、コツコツと机を叩く。
「錢が足りないと。ははぁ、左様でございますか。私の長にも仁拾と言われてまして、それに」
三日月の目を付けた相手にぐいっと寄る。
「ちと頭が高いんじゃあないですか?私どもはあの有名な旅館でございます。これじゃあ、取引不成立だなぁ。」
見下ろした。相手は布を纏ってあたふたしている。
「はっはっは。分かってくれれば良いんです。こんな國の中、気張っていきやしょうや。」
ポンと肩に手を置く。もう貴方は私の支配下ですよと。
「…………。」
また自室へ戻ろうと廊下を歩いた。斜陽が吹き込む。
「やぁやぁ、仲介や。またあったのぉ。」
「お疲れ様です。」
なんだなんだ。また雑用を押し出してきたのか?
「くはは。そんな目で見るな。雑用はこの通りおらんぞ。この道を通っただけじゃ。」
目?隠してるはず……、
「くはは。ちゃーんと隠れとるぞ。それじゃあな。」
と、肩に手を置かれて去って行った。
「…………、」
部屋に入った。
「あれ、」
部屋を見渡す。何かが違う。いつもの、小説、キセル、湯呑み。
――七輪
七輪だけ位置がずれていた。
「あれー?こんなとこにズラしたっけ?まぁ、いいか。」
小説に手を伸ばす。感動する話を脳に食べさせて。
「――、―介、」
「ん、あれれ。またか……。」
襖に誰かいるようだ。またご飯がどうとかこうとか言ってるのだろう。
「あ、」
「ご飯の時間だよ。來て。」
長と一緒にいた雑用だ。世話を押し付けられそうになった奴。
「はぁ、そうか。」
ピシャ
「え、え、」
襖を閉じられた。長に怒られる。
ピシャ
「おい、勝手に開けるな雑用が。」
「僕が怒られるんだ。早く食べて。」
「いらん。お前が食べろ。」
「! いいの……ん、ん゙ん。早く!」
ぐいぐいと袖を引っ張ってくる。こうなるなら、地位ぐらい決めときゃ良かったかもな。
「分かった分かった。私に触るな。」
七輪が駄目なら他の方法も探しておこう。
雑用→子供
雑用 (敬語)→転んだ子
この部屋はメニーメニーモイスチャーね。