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仲介  作者: あ行
17/37

17毒

「……。」

「毒味ィ……してくださいよォ……、」

「嫌ダ!オマエがしロ!!」

「そんなこと……言われましてもォ……ねェ。仲介さん……」

「……。」

 ずっとこの会話を、雑用らは繰り返している。

 長の贈り物の毒味を誰がしようかとヤイヤイいがみ合っていた。

「…………。」

「もし毒が入ってたら、どうすんだヨーッ!まだ死にたくなーイッ!!」

「その役割がぼくらではァ……?ともかく、ぼくも嫌ですよ……。ほらァ、あなたにあーん……。」

「やめロ!!そんな愛いらなイ!」

「うゥ……愛を拒否られる氣持ち……少しは分かりましたァ……。」

「仲介!!コイツをどうにかしロ!」

「知らねぇ。これはお前らの責任だろう。私は長にここにいるよう、頼まれただけだ。」

 さっと私の方を見られた。嫌な予感がする。もしかして……。

「なァ、オマエ、仲介にコレを食べさせないカ。」

「いいです……。いい案ですねェェぇ……!賛成でぇェす……!」

「なにすんだ!」

「ヨイショ。」

 腕を拘束される。やっぱり雑用という者は変な奴しかいない。

「イケ!!暗いヤツ!!」

「ぼくは暗いヤツではありませんがァ…………、さっき、愛を拒否られた憂さ晴らしです……!ほら、あぁぁぁあん!!」

「やめろ!やめろ!んぐ!」

「ホラ、嚙み嚙みごっくン。」

 顎を勝手に動かされる。

「上手ですよォ……!仲介さん……!」

「おい、お前らなにしてる。」

「「!!」」

 長が部屋に入ってきた。二人は、海から陸へ放り投げられた魚のように驚いている。

「何もしてねーヨ!」

「そうですそうですゥ……!ぼくたち、っ、何もしてませんよォ……!」

「それじゃあ、毒味はしてないんかえ?」

「……!ちゃんとしましたよォ……!」

「そーだヨ!ナ、仲介。」

「ん、まあ。」

 本当に毒が入っていればチャンスが來るかもしれない。

「そうかい。なら、お前ら、もういいぞ。」

「はーイ。」

「あァ、一寸(ちょっと)待ってくださいよォ……!」

 雑用を見送りながら長は、手招きをした。

「わしの部屋へと、移動しようじゃないか。」

「分かりました。」

 なぜだ。なぜ私が長の部屋に。

「仲介、あいつらに舐められてないか。」

「多分……」

「くはは。そうじゃと思ったわい。」

 バン

「っ……!!」

「もっとシャンとせい。シャンと。」

「いきなり背中、叩かないでくださいよ……」

 仲介はわしを見上げて、自分の背中をさすっていた。

「くはは、ごめんなぁ。」

――――――――――――

「仲介、このお菓子。美味しんじゃ。ほれ、一つあげる。」

 と、小包されたわらび餅を差し出される。

「……、ありがとうございます。」

 ペリペリと包装を外している内に、長は回しつぎでお茶を注いでくれた。

「ほれ、お茶。」

「ありがとうございます。」

 典型的な言葉を吐いた。

 それでは、竹の串ですくい、一口。

「……甘い。」

 さっき食べた味だ。

「くはは。そうじゃろう。あまり砂糖は食えんから、ちゃんと味わうんじゃよ。」

 長はほうじ茶を飲んだ。

「仲介に食べさせたかったんだ。」

 長は湯呑みに映っている自分を見ていた。それは照れ隠しなのか、ただ単に見ているだけなのか、わからなかった。

「ちゃんと味わって食べます。」

「そうしい。」

 毒味って個包装されていたら、意味無いじゃないか。どれか一つにでも入っていたら、大慘事なのに。

「仲介。」

 もう、全て餅が胃の中に入った頃であろうか、長は私の名を呼んだ。

「なんですか。」

「くはは。そんな反抗するような態度するなよ。」

 長は朗らかに笑った。

「隣に來い。」

「……いやです。」

 長は悲しい顔をした。

「なぜそう、無薬も仲介もわしの隣に坐るのが嫌なんじゃ。」

「だって、なんだか緊張します。」

 おそらく、無薬は私と違う理由だ。

「緊張って……。わしはお前の小供時代も知っとるのに。」

「じゃあなぜ、隣に行かなくちゃならないんですか。」

 長は頬杖をつきながら、言葉を歩いた。

「仲介の目を見たい。」

「……!なんで、なんでですか。」

 変態。

「久しく見ていなかったからの。お前の眼は奇麗だ。」

「……、」

「それに、」

 息を吸った。

「こういう事は、生きているうちにしか出來んからな。」

「そういうのは、私が目を瞑った(死体になった)時に好き勝手してください。」

 長はまた悲しい顔をした。生き物がこんな悲しい表情をするなんて、思いもしなかった。

「やめろ。そんなこと言うな。悲しい。」

――――――――

 結局、その後、長の言われるがままに目を見せた。長は命の恩人だからしょうがない。

 自室へと戻ろうとした。

「……う、」

 あれ、調子がおかしい。

 その場に倒れる。立ってはいられない。

「……あれ、あれ、」

 餅に毒が入っていたのかもしれない。土産品だから、致死量の毒が注入されていてもおかしくはない。

「やっと、やっとだ。」

 指先がピリピリする。これを耐えれば。

 バタッ

「――、―い。仲介。倒れるな。起きろ。」

「……え、」

 無薬だ。よりによって死に際にこいつ。

一寸(ちょっと)待っとけ。バケツを持ってくる。それまで体を動かすな。」

――

「吐け。」

「……え、っ、はぁはぁ、」

 急にバケツを渡されて、吐けと言われても。

「何を食ったんだ、お前。」

「言わない……っ、」

 やれやれと無薬は呆れて、

「……!?!」

 己れの口に指を突っ込んだ。

「話は後で聞く。吐け。」

「……!……!」

 喉の奥に他人の指が詰まる。

「吾輩もこんなことはしたくない。……さっさと吐け。」

「ぅ、おぇ、」

 べちゃ

――

「まぁ、これくらい吐けば大丈夫だ。」

「待て……」

 無薬の袖を引っ張る。最後の力を振り絞る。

「……なんだ。」

「長にこのことは言うな。」

「なんでだ。」

 感謝も無しにこいつは何を言いやがる。

「長は命の恩人なんだ……迷惑をかけられたくない。長の土産品から毒が回った……」

「……、そうか。分かった。」

 無薬はバケツを持って去って行った。

「……あゝ、」

 体力が消耗し過ぎて疲れた。その場にうずくまる。

「いつになったら、いつになったら。」

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