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仲介  作者: あ行
1/7

1館

嘔吐注意

「やっと終わった。」

 腕組みをしながらぽつりと呟いた。目だけを布で隠している者が、自室へ戻ろうとする。

「…………。」

 ワイワイ

 皆、ガイガイワヤワヤと死に物狂いで働いている。働け働け。

 ここの旅館は高級店。そりゃもちろん、変な客がいる。透明人間、犬の耳が生えてるやつ、口が裂けてるやつ色々だ。

 人が減って靜かになる。すると、向こうから誰か來た。

「おや、仲介(ちゅうかい)じゃないか。」

 私は旅館(ここ)で扱う食料や消耗品などを交渉している。いわば仲介人だ。

「なんでしょうか、(おさ)。私になんか用ですか。」

「用なんぞ無いけれど。元氣か。」

 この奴はいつもヘラヘラ笑ってる。旅館のトップだとは思えない。

「えぇ。お蔭様で。」

「ふぅん。そうか。して、お前は親元に行きたいのか。」

 変なことを聞くな。親元とは、旅館を牛耳っているものである。そこに入るとここより地位が高くなり、裕福な暮らしができると謳っている。

「いいえ。私は親元に行くほど賢くありませんから。私には勿体無い。」

「ふぅん。」

 また興味の無さそうに、鼻から息を吐く。小學生のようだ。

「じゃ、またこうして話そうやないか。」

「えぇ。喜んで。」

 長い立ち話だった。それにしても、長が皆の部屋の間に來るなんて珍しい。

 そう思いながら、襖を開けた。

「……ふぅ。」

 オレンジ色の光が部屋に差し込む。

 仲介の部屋には、地べたに置かれた小説、脱ぎ捨てた着物、キセル、(ごみ)箱、そして何故か七輪があった。

「…………。」

 ぼっと手から火を出して、炭を燃やした。部屋の中はさぞかし暑かろう。

 仲介はそのまま小説を読んだ。

――――――――――

「……ん、あれ。」

 体を起き上がらせる。夜の光が四辺(あた)りを照らす。

「……。」

 七輪を見つめる。

「今回も無理だったか。」

「仲介さーん。」

 襖越しから誰かが呼んだ。「はぁい。」と返事をしながら着崩れた襟を正す。

「……あ、仲介さん。もー、なんでご飯時に來ないんですか!雑用がいつも呼ばされるんですよ!」

「あぁ、ごめんごめん。」

 幼い女の子だ。しかしたかが雑用。()れの身分も知らないで。

「早くきて食べてください。食器を洗うのが面倒になりますから。」

「分かった。今行くよ。」

――――――――――

「……、」

 食事を目の前にする。魚、米、野菜。味がしない。幸福感が掴めない。

「お、食べ切りましたね。じゃあお膳をお下げします。」

「あぁ。」

 氣持ち惡い。胃が。食道が。

「……おぇ、」

 べちゃ

 氣持ち惡い。食べ物が渦のように巻いて、食道どころか喉の所までつっかえている。何かの衝動でまた戻してしまう。

 情けない情けない。

「こんな人生、早く終わればいい。」

仲介(ちゅうかい)→仲介人

(おさ)→旅館のトップ

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