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2ー⑤



 翌日からアズライルは自分自身に宣言した通りディスティニーを見付けてはやたらと付き纏っていて彼女の精神を削っていた。


「いい加減にしてくださ…」


 この時のディスティニーは珍しく声を荒げたことで普段から物静かに過ごしていたために喉が無理をしてしまい涙目になりながらむせていた。


「大丈夫か?」


(あぁ…少し声を荒らげただけでこんなに…やはり可愛いなぁ…放っておくなんて無理だよなぁ…ここはやはり…)


 慌てた様子で彼女の背中を擦りながら気遣う彼に対して彼女は涙目になりながら離れようとした。


「だ、大丈夫…」


(お願いします。貴方が離れた方が私は穏やかで健康になれるんですよ…)


 掠れた声は大丈夫ではなさそうだったが彼女は必死に拒絶を訴えていた。


「大丈夫には聞こえない。ほら行くぞ」


(このまま拐って世話していいかな?)


 平静を装い声を掛けると彼女は嫌そうにしていてそれもまた可愛く思えて惹かれていた。


「や、やめて!下ろして」


(こいつに捕まると嫌な予感しかないんだけど…ってその前にこれはかなり恥ずかしいんですけど!)


 彼女にしてみれば未知の生物と言うよりは未知の変態と化している目の前の婚約者に対して面倒臭さしかなかった。


「駄目だ。今は声を出すな。もし暴れるなら婚約者だし俺の部屋に連れて行く」

「…」


(部屋?今…俺の部屋って言った?嫌だぁー…なんなのこの人…面倒臭すぎるんだけど…)


 彼は彼女の訴えを無視して黙らせるとすぐに抱えて治癒室に急いでいた。

 それほどまでに彼女の顔色が悪かったのだが彼女は自分のことに気付いてなかった。


「あらあら喉が腫れてるわねぇ…無理はダメよぉ?気を付けなさいね?」


(無理と言うよりこの人なんとかして下さいませんか?とは言えないだろうなぁ…)


 治癒師はのんびりと穏やかな話し方で声を掛けると彼女はその声につられて思わず力が抜けてしまい首に手を当てて治療していたので俯けず眉尻を下げて目を逸らした。


「はぁい、終わり。もう大丈夫よぉ」


 にっこりと微笑みながら治療の終わりを告げると彼女は深く頭を下げた。


「有り難うございました」

「無理しないでちゃんと寝なさいね?」

「…はい」


 本当は婚約者の彼がいるから疲れが溜まりやすいのだと訴えたかったがその本人がまだいるので余計な事は言えないと思い飲み込むしかなかった。


「…とりあえず今は授業は休んで寝てなさいねぇ。貴女また無茶しそうな気がするからぁ」

「えっ?それは…ちょっと…」


(やめて!本当に嫌なんです…この変態はさっき自分の部屋に連れ込もうとしたんですよ!

 たとえ婚約者でもこんな面倒な奴は対応に困るから早く離れたいんです)


 ディスティニーが動揺すると治癒師は呆れた顔をした。


「そんなに疲れた顔をしてるのに戻りなさいなんて治癒師として言える筈がないでしょう?

 殿下に言伝てを頼むのも悪いからこの子を見張って貰えるかしら」

「わかった」

「い、いえ…それは…」


(え?嘘でしょ?原因置いて行くって…ムリムリムリムリ…やめてぇ…本当にやめて下さいぃ…確かに婚約者だから問題はないけど今回は本当にこの人が原因なんですよぉ)


 なんとか言葉を探していると治癒師は何か勘違いをしている表情になった事に気付いた彼女は嫌な予感がした。


「ここは治癒室なの。ここでは私の言う事は絶対なのよぉ?

 休みなさいと言われたらそれなりに理由があるのだから大人しく休みなさいねぇ」

「…あの、授業もありますし…殿下には戻ってもらいませんか?」


(今のこの人は追放命令よりも危険なんですよぉ)


 なんとか彼と離れたくて頼もうとすると治癒師はちらりと彼を見て少し考える素振りを見せた後にふふっと笑った。


「そうねぇ…貴女が逃げ出さなければいいわよぉ」

「逃げ出しませんから…」

「状況次第よねぇ」

「そんなぁ…」


(酷い…あんまりだぁ…ここには敵しかいなかったなんて…)


 彼女がどんなに治癒師を説得しようとしてもその顔色を見れば全く説得力がないのだが、彼女はそれに全く気付いておらず力なくガックシと肩を落とすと治癒師は自分の目の前でベッドに横になるように促したので彼女は戸惑いつつもいつも世話になっているのであまり反抗も出来ず…仕方なく指示に従うとすぐに眠らされた。


「まったく…また倒れたらどうするのかしらねぇ」


 呆れた様子の治癒師の口から出た一言はアズライルをギョッとさせるには十分だった。


「それはどういう…」


 治癒師は婚約者である彼が驚く姿を不思議そうに見ながらこれまでに何度か倒れていることを話すと彼は今までどれだけ感心がなかったのかに気付かされてばつが悪そうに少しだけ目を逸らした。


「まぁ、いいわ。これからは貴方が気を付けてあげてね?」

「わかりました」


 治癒師が居なくなると二人だけになり静かに眠る彼女を見ながら複雑な気分になった。

 髪に触れると手触りが良く彼女のように指から擦り抜けていき頬に触れるときめ細かく肌触りがよかった。

 唇に触れてみると薄い印象だがふっくらしている感じがして気付けば愛しさのあまり口付けを落としてしまっていた。


「ティニー…君は一体何を隠してるんだろうか…出来れば私にも教えて欲しいな。

 今更だけど…早く君の魅力に気付くべきだったと思う。

 そしたら倒れるまで君を一人にはしなかったのに…婚約者って一番近い立場にいながら俺は本当に馬鹿だったって今更ながらに気付いたよ…本当にごめんね…」


 静かに話しかけてふと自分の所有印が気になり首を見ると消えていた。


「あぁやはりか…綺麗に消したらダメじゃないか。

 これは虫除けの守りなのに…君は気付いてなさそうだけど人気者なんだって前回に初めてわかったから付けたんだよ…これは可愛い君を守るためだからね」


 話し掛けながら再び所有印を付けた。

 治癒師に相談してこの日は婚約者である彼が責任を持ってこのまま家まで送る事を伝えると午後からは休ませる事にした。


「あぁ見れば見るほど可愛くて愛おしい…君とこんなに向き合ったのは初めてだけど君の表情がこんなに変わるなんて…可愛いなぁ…」


 連れて帰った先は彼の部屋だった。

 その理由は治癒師の話を聞きながら以前に見た彼女の疲れきった表情は見間違いではなかったのだとわかったからで彼女が何度も倒れるならこんなに顔色が悪くても邸の者は放置してるのだと思うと心配になりこれ以上の無理をさせないように見張るためというのが目的だった。

 そして自分のベッドに丁寧に寝かせると愛おしそうに髪に触れていた。


「君が逃げるならこのまま閉じ込めてしまいたいなぁ…このまま時が過ぎると(いず)れは夫婦だしそれもいいかもね」


 理由は一応人命救助のようなものなのでまだまともではあるのだが…彼の口から出るのはそれが吹き飛ぶほどに不穏な言葉なので彼女が起きていたら青ざめながら必死に抵抗して逃走を図りそうな事を優しい微笑みを浮かべて愛おしそうに話していたが婚約者という立場でなければ危険人物そのものだった。

 その後も彼女の寝顔を愛おしそうに見つめながら彼の口から出る危うい言葉は止まることがなかった。







ここまで読んでくださった皆様有り難うございます。

とうとうやらかしおったアズライル…しかしディスティニーは何度も倒れていると言うことで使用人達も止められない程にかなり無茶をしているので休ませるには確かに監視も必要なのだろうか…念のための補足として白紙に出来ない婚約なのでこれが前提での話となります。

まだ全ての謎が明かされてませんので気長にお付き合い下さると幸いです。

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