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2ー④


 沈黙が続く中ディスティニーは時間の無駄になる事を避けたくて仕方なく口を開くことにした。


「貴方は今回アザレア様を避けてるようですがそれは何故ですか?」

「あぁそれね。それは前の記憶を思い出して今と比べて感覚的に少し気になってこれまでを振り返ると漠然としていた感覚でも妙な違和感に気付いたから不思議に思って試しに距離を置いてみたんだ。

 君が気付いていたのかはわからないけど以前の記憶の私は君に何かあれば国が滅ぶと思って警戒していたのにアザレア嬢をそばに置くだけで自分の意思とは反対に何故か彼女の事ばかり考えていたけど魔物の恐怖を思い出した時に我に返ってまた彼女と話すと頭の中が彼女の事で一杯になっていてその感情の変化があまりにも自然だったから気付けば君を追放まで追い込んでたから今度こそは魔物の襲撃を阻止したくて状況を正しく把握しようと思ってとりあえず彼女とは多少の距離感を保ちながら自分の気持を確かめようとしてたんだよ」

「…そうですか…」


 話題が変わった事に安堵したアズライルは素直に口を開くと彼女は何か思うところがあったのかまた黙り込んだので彼はその間に改めて彼女を観察してみた。

 抱きしめた感覚は髪は柔らかくまっすぐでちゃんと食べてるのか心配になるほど細く華奢でいつか倒れてしまうのではと思える程に儚げな印象があった。

 それを周囲に悟らせないのは普段の彼女の毅然とした態度がそうさせているのだとすると虚勢も張ってるような気がした。

 これは彼の好みのど真ん中で顔も彼の好みでこれに気付いてしまうと何か憑き物が剥がれ落ちた気がして彼女に惹かれ始めていた。


「君は…こんなに可憐で可愛い女性だったのか…」

「??」


 アズライルがポソリと呟くとそれまで思考に耽っていた彼女はゆっくりと彼を見上げた。

 その目は『何を言ってるんだコイツ』と雄弁に語っていたが今の彼からするとなんだかそれも可愛く思えてしまいつい悪戯心が湧いて頬に口付けを落として反応が見たくなった。


「!?」


 一瞬で恋に堕ちた彼はまだ自覚のないまま今自分の腕の中で目を見開いて驚き固まる少女が本当に可愛くて仕方がなくなってしまい先程とは違う別の理由で離したくなくなっていた。


「こうして抱きしめながら改めて見ると君はとても可愛いね。

 ティニー…なんだかこう呼びたくなってしまうほど君のことを愛おしく感じたよ」

「…気持ち悪い冗談はやめてください。先程も申し上げましたけど貴方は私を殺した張本人ですから本当はこうして話すのも嫌なんです」

「ごめんね。今まで本当にどうかしてたよ。もう過去には戻れないけど今は以前と状況が違うからか君の事がとても気になってるんだ」

「本当に気持ち悪いので今まで通りにしっかり余所見してください」


 ジトリと睨みながら話している姿を見ながら彼は実は照れていて悟られないように虚勢を張ってるのだと彼女にとってとてつもなく迷惑な勘違いをしていた。

 更に彼の脳内では彼女の態度がまるで小型犬が大型犬に必死に威嚇しているように思えてしまい思わず微笑ましくなっていて少し視点を変えるだけで彼女がとても可愛くて自然と頭を撫でていた。


「そうだねぇ。余所見をして君の方が可愛いとわかったんだ」

「調子が狂うのでやめてください」

「あぁ本当に可愛いなぁ…」

「…」


 ピシャリと話す時の様子はまるで必死に威嚇する猫だった。


(え?なにこれ。本当に血迷ってるよね…どうしよう…なんか変態に近付いてるような?)


 彼が突然妙な言動を始めたので彼女は初めての展開に困惑して対応に困っていた。


「なるほどねぇ君は猫だね。それならこれからもちゃんと私が飼い主にならないとねぇ」

「先程から一体何を話してるんですか?前回まで散々人を馬鹿にしてきた貴方達を私がすぐに許すと思うのかしら。

 頭がおめでたい人なのは知ってたけど…ここまでだとは思わなかったわね」


 それは厭味ったらしい口調だったのだが今の彼目線では彼女がこれを本気で話しているのがわかると更に可愛く思えてしまい既に癖になりそうだった。


「はいはい。ティニーは本当に可愛いねぇ。私がご主人様だからこれからは仲良くしようねぇ」

「…いい加減にして!」


 彼の中で彼女の言動の全てが可愛くて小さなペットを相手にしてるような気分だったので何を言われてもやはりただ可愛いだけだった。


「はぁ…可愛いなぁ…こんなに可愛かったなんて勿体ないなぁ…あぁ今までの俺殴りてぇ。

 国外追放かぁ…アザレア嬢を放ってすぐに追い掛けて俺も一緒に行けたら良かったのになぁ…そしたら二人きり…まぁティニーと一緒ならそれも悪くないか。うん。今の俺なら余裕でなんとかするし寧ろ望むところかな」


 彼は一人で納得したような表情になると彼女は嫌そうにしていた。


(あ…これ多分だけど無理なパターンだ…会話が通じてないし…そもそも殺人犯に心を許すほど出来た人間ではないからね!

 その前に時間の無駄だから忘れないうちに情報の整理しないと…)


 彼女は危険な妄想を始めた彼に対して面倒臭そうな目になるとこれ以上の相手は時間の無駄だと判断してまた自分の思考に入る事にした。

 今のアズライルは先程までと違いなんだか少し面白くなかったので今度は彼女の首を撫でてから顔を近付けた。


「いっ…痛いでしょ!」


 またチクリと首に痛みが走ると言葉にも忖度がなくなっていた。


「君が俺を無視するからでしょ?これは所有印だからね?」

「だから何を言ってるの?所有印なんて…」


 一体何をされたのかわからず不穏な単語を聞くたびに今はとにかく離れて確認したかった。


「ティニーはどう足掻いてもずっと私の婚約者なら既に私のものなんだよ。今後も勘違いされないためにちゃんと虫除けして周りに示す必要があるでしょ?」

「さっきから本当に何を言ってるの?虫とか所有印とか…意味がわかりません。それに今まで散々放っておいたんだしこれからも私に目を向けずに遠慮なく他をどうぞ。

 どうせ城でも会わないといけないなら私はこれからもそれで構わないからいい加減に離れてください!」

「それは出来ない相談だよ。こうして君を抱きしめたのは初めてだけど密着してると君が欲しくて堪らなくなった。

 閉じ込めた方がいいなら今日からそうしてあげるけど…もし嫌なら私からあまり離れない事をここで誓いなさいね」


(え?さっきから本当になんなの?本当に面倒臭いのだけど…この人もしかして殺人犯の次は変人になろうとしてない?

 いくら婚約者でもこれは…お願いだから妙な方向に能力を開花させないでほしいのだけど。

 でもなぁ余計な事で勝手に暴走しそうだし…あぁ本当に油断したなぁ…)


 今回は変わりすぎたアズライルの言動についていけないディスティニーは混乱していた。


「ほら、その可愛い唇を動かして呼び捨てで『アズライルから離れない』って誓いなさい。

 それか『アズライルから離れたくない』でもいいよ…あぁこれは素晴らしいね…是非とも後者を選んで欲しいかなぁ…」


 例え婚約者でもこれを相手するのがとてつもなく面倒臭かった。しかもこの短時間でなにやら本当に危険人物に成り果てようとしてる気がして彼女の目は遠くなった。


「とうとう血迷ったわね。私はそれを望まない事を誓います!」


 彼の様子を見てるとここで認めたら本当に面倒な事になる予感がして自分を守るためにも誓うわけにはいかなかった。


「それは私が許さない。宣言した通り今日はこのまま私と城に帰るよ。そしたら今までとは違うって信じられるだろうしより良い返事を聞かせてくれるよね?」


(え?何?この人の目が真剣なんだけど…その前に言葉が不穏だよ?気付いてるのかな?)


 彼のかなり強引な手口と真剣な表情に彼女は引いていた。


「それは嫌だと言ってるでしょ!」

「転移、城、王子宮」


 ボソリと呟くとアズライルの魔法が発動して次の瞬間には彼の部屋に着いていた。


「何するのよ!離しなさい!」

「あぁ本当に可愛いなぁ…このまま閉じ込めて俺だけのものにしていい?」


 この時に「いい?」と彼から尋ねられた筈なのだが何故か彼女には「いいよね?」と聞こえてしまい慌てた。


「駄目に決まってるでしょ!この短時間で一体何があったのかはわからないけどいきなり態度が変わると不気味なのよ!兎に角!今は離しなさいよね!」


 ずっと抱きしめたまま離さない彼のせいで彼女は現在地を確認する事が出来なくて焦った。


「駄目だよ。君は誰がご主人様なのかを躾しないとわからないみたいだし君が私の好みだとわかった時点でもう後戻り出来ないよ?」

「嫌よ!回れ右して戻りなさい!」

「全く。強情だな…」

「…」


 強情なのも割と好きな事に初めて気付いた彼は暫く離さない事にして額に口付けを落としたりしてると急に大人しくなったと思った途端に腕の中でパチンと指を鳴らす音がした。


「なっ…」


 次の瞬間には図書館に戻っていた。それから彼はお腹にピリッとした何か不快な感覚を覚えてうっかり腕の力を緩めると彼女はその隙を逃さず離れた。


「こらっ!これからだったのに離れるな!」

「絶対に嫌!私は帰ります!」


(これからって何?本当にこの人大丈夫なの?それにこの人のこの変わりよう…まさかとは思うけど…ここに来る前に何か変な物を食べてないよね?そうでなければこれはあり得ないんだけど…まさか…アザレアさんが何かするために彼に食べさせてたとか…あり得る!間違いない筈!彼女なら何かしててもおかしくない!

 それならこれは状態異常だからこれ以上は妙な気を起こされても困るし今はとにかくこの危険人物から早く離れないと…)


 彼の様子がおかしいのは何か変な物を勧められるままに食べたからだと彼が知ればしっかりと訂正しそうな事を彼女は確信を持って信じていた。

 その後は本当はあまり魔法を使う所を見せたくなかったが今はとにかく逃げ切りたくて指を鳴らして消えた。


「まさかこんなに素早いとはねぇ…君はまるで兎のようだな。ああ可憐で可愛い私の…私だけのティニー……君の婚約者であることは私にとっての幸運だったよ。

 やり直しを阻止する意味もあるけどそれよりも可愛い君を逃がす選択肢は既に俺の中では消えてるから覚悟してね」


 その逃げ足の速さに驚きながらもなんだか楽しくなってきていた。


「あぁ本当に可愛かった…今度絵姿でも描かせよう…あ…どうせなら私も習って…やはりあれは描きたいよねぇ」


 うっとりとしながら彼は更に危険人物への階段を駆け上がっていた。


(あぁ、もうなんなの?いきなり急変し過ぎて対応に困るんだけど…あそこまで急に変わりすぎると気持ち悪くて鳥肌が収まってくれないし…その前に本当に変わりすぎだよね?

 もしかして妙な食べ物かと思ったけど呪いでも掛かってたりして?

 あの人ならそれもあり得るよね…あんな呪いを掛けて誰にメリットがあるのかしら?

 アザレアさんってあんなのが好みなの?人の事をあまり悪く言いたくないけど変な人よね。

 うーん…私はあそこまで盲目的になる相手は…自分も巻戻りの彼等みたいにバカップルになりそうで嫌だわ…ダメだわ…考えただけで頭が馬鹿になりそうで嫌になる…まぁ価値観が違うから放置するし別にいいけど…)


 今までとは全く違うこの状況について行けないディスティニーは帰宅すると思考が纏まらない上に鳥肌も収まらず混乱していた。


(あれ?でも待って…もしかして…このまま状態異常が続くとこれからあの阿呆に付き纏われるのかな?…うわぁ考えただけで凄く面倒なんだけど…そもそもなんで急に態度変えるのよ!しかも巻き戻っても婚約者だから今後はアレを相手しないといけないって…すっごく面倒臭いから嫌だなぁ。

 ああもう本当に面倒臭いんだけど誰かなんとかしてくれないかなぁ。でも彼との話で気になる事があるんだよねぇ…でもなぁ…もう二度と捕まりたくないしなぁ…一応は遠巻きに様子見だけして少しずつ暴けば…なんとかなってくれないかな?

 その前に私はペットじゃないのに何故にご主人様?そもそもの話で違うよね。あと躾ってなに?全く意味がわからないんだけど?それならお前が躾けられとけド阿呆!って言いたいかも…)


 この時の彼女は何度も巻き戻っていた結果、元からあまりなかった恋愛関係の辺りの感覚が完全に麻痺しかけていた事に気付いていなかった。

 この後も暫くの間は愚痴は止まらなかったが彼のお陰で図書館で調べ物をしていた時の感情を忘れて顔色が良くなっていたのである意味ではとても元気一杯になっていた。






ここまで読んで下さって有り難うございます。

アズライルの中で何かが急激に変化して変態に?本当に何か妙なものを…?

しかし彼の好みの婚約者に対して今までのあの態度…何かあるとしか思えない…この謎も解けるのでしょうか…書きながら頭の中でキャラクターが暴走中なのである程度のあらすじ立てても斜め上に行きそうな予感が…次もお付き合い下さると幸いです。

一部分かりづらい表現を修正致しました。

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