2ー①
これから主に王子達側の視点になります。
やっと章の設定方法がわかったので今更ですがエピソードタイトルを変更しました。ここからは元々同じ題名に番号振ってたので番号のみにしてます。
「も、もう…やめてくれ…」
アズライルは涙を流しながら目を覚ますと再び馴染みのベッドに横になっていて見慣れた天井は自分の寝室なのだとわかった。
どこも痛くはないが嫌な夢を見た証拠にまたもや寝間着は冷や汗で濡れていて激しい動悸と荒い呼吸は夢の中の嫌な感覚を呼び起こすには十分だった。
既に二度も同じような…夢にしては現実味のある疑似体験のような夢を見た事で流石に夢だからと楽観視が出来なくなるとこれは只の夢ではない事に気付いたがただそれだけで夢の破滅を回避する方法については分からずじまいだった。
「兄様…」
フルスコルも似た様子で目覚めると妙に現実味のある夢の恐怖に耐えきれず寝間着姿で息を荒げて青ざめながらアズライルの部屋を訪ねていた。
「まさか…同じ夢を…」
「…」
これが双子の直感と言うものなのだろうか…アズライルが半信半疑で破滅の夢なのかを尋ねてみるとフルスコルは泣きそうな顔をしながら無言で頷いた。
二人は忘れる前に急いでメモをとりながら夢の確認をするとやはりディスティニーが全ての引き金のような気がしてまずは情報集めをする事にした。
夢の通りならと二人は婚約の話の時期を割り出してディスティニーの対応を間違えないようにするにはまず彼女の本音を聞かなければならない。
二人はその日に向けて夢を頼りに自分達の行いを振り返る事にして対策してみることにした。
ある程度は聞きたいことも纏まった頃にまた同じように彼女が婚約者として現れたのでこれが固定されているのは確定した。
注意深く様子を見てわかったことはこの時から既にその顔には感情がなく偽りの微笑みを張り付けていた。
「一つ聞きたい。君はこの婚約について不満はないのかな」
挨拶をすませて席に着いてお茶を一口飲むとディスティニーは彼の話に一瞬だけ僅かに驚いた表情になったがすぐに腹立たしげに一瞬だけ睨むとその後は少しだけ瞼を伏せてすぐに無表情に戻った。
この時ディスティニーが彼の前で初めてわかりやすく表情を崩していてその様子を見たアズライルは驚いたが出来るだけそれが顔に出ないように気を付けた。
「…いえ」
「…そうか…少し意地悪だったようだね。これからは婚約者として宜しく頼む」
「…はい…宜しくお願い致します」
少し間を空けて答える彼女をみてアズライルは一臣下として国王の決定をここで否定する発言は出来ないのだと察して納得した。
それは夢の記憶で彼がこの婚約の白紙について父王に尋ねた時に言葉を濁して躱されたことを思い出したからだった。
自分でも無理なのに拒否権のない彼女にこれを尋ねるのは酷なことだったのだと今更ながらに気付くと掛ける言葉を間違えた事で気不味くなりお茶を飲みながら別の会話を探すが気の利いた話題というものが何も思いつかず困った。
その後は何も話さずただ空気が重いまま時間だけが過ぎていた。
「どうだった?」
「彼女は初めから嫌そうにしてたんだ…やはりこれには何かある」
「どうするの?」
「そこなんだよなぁ…」
顔合わせが終わり部屋に戻るとアズライルの部屋ではフルスコルが不安そうな表情をしながら待っていた。
話をしながらまずはこの婚約をなんとかしないことには先に進めないという結論に至っても打開策を考えるとなると情報が少なすぎて迂闊に動けないので暫くは出来るだけディスティニーを遠巻きにしつつ周りの様子も注意深く観察することにした。
「最近は婚約者とはどうなんだ?」
「どうと言われましても変わりませんよ」
「優しくしてあげなさい」
「はい」
(父様は何を隠してるのですか?と聞きたいけど教えてくれなさそうだよなぁ…)
出来るだけディスティニーとの接触を控えているとアズライルはまた父王に呼び出されて同じような問答を繰り返しながら肝心な事についての説明は何もしてくれない態度に不満と不信感が募っていた。
日々は無情に過ぎて行くなかでアズライルは自衛手段として父王に何を言われてもディスティニーとは顔を会わす機会を極力少なくすることにして逃げまくっていた。
「最近の様子はどう?」
フルスコルもディスティニーを出来るだけ避けていたがこれでは埒が明かない気がしていて困りながらアズライル達の様子を尋ねていた。
「そうだなぁ…相変わらずではあるかなぁ…でも今は夢とは違ってもっと接点を減らすように気を付けてるよ。
流石に全く会わないとなると父様に何か尋ねられた時に不利になるから完全に会わないって事は出来ないけど…軽く顔を出すくらいにして出来るだけ早くに切り上げたりしてる」
「そっか…あれがただの夢であればいいのになぁ…」
「そうだね…ただの夢であってほしいけど…まだまだ油断は出来ないよなぁ…」
この時のアズライルはなんとなく父王達に見張られている気がしたので流石に全く会わないと言う事は出来ないと感じていてなんとか体裁を保つために夢では週に一度だったお茶の日をを月に一度だけにしてその時だけ城で会うようにしてみるとディスティニーに変化が起きていた。
(ん?あれは…ディスティニー嬢…)
アズライルと会わない日に登城して帰宅する馬車に乗り込む時に偶々ディスティニーがホッとした表情をしていたのを見かけたので隠れて様子を見てみることにした。
その表情はこれまで見たことがない程に疲れきっていて今にも消えそうでとても儚く危うげな気がして頭から離れなくなった。
それから彼女が城に来る時にはそれとなく気付かれないように注意しながら様子を見ているとディスティニーはアズライル達に嫌悪してる事がわかった。
それは城で行われる社交の場での事だった。
この日は貴族達が王族に一年の挨拶をする場だった。
アズライル達が会場に入りダンスの時にディスティニーをエスコートするのだがこの時の表情は無表情で何を考えてるのかすら読ませないと言っているようだった。
その後はある程度の挨拶を済ませるとディスティニーは然り気なくアズライルから離れてバルコニーに向かい一人になった時に彼も密かに付いて行くと彼女が溜め息と共に口をついた言葉を聞いてしまった。
「…なんで白紙にしてくれないのかなぁ…何故いきなり決まったのかなぁ…もう嫌…疲れた…手っ取り早く誰かと交代してほしいなぁ…」
小さな声だったが泣いてるようにも聞こえてアズライルは嫌な予感しかなかった。
「…どうせなら…このまま…全てが終わってくれないかなぁ…」
溜め息と共に出てきた小さな呟きを拾ったアズライルは眉を寄せて焦っていた。
(このままではまた…なんとかしなければ…)
もう繰り返したくないのだが既にディスティニーの心はどうにもならないほどまで疲れきっていたのを知ると彼はなんとかして彼女に寄り添う努力をしようとしたがここで初めて彼女の好きな物すらわからない事に気付いて全く解決策が思い付かず頭を抱えた。
「ディスティニー嬢は何が好きなのだろうか…思えば君の事を何も知らなくて…」
この日はディスティニーが登城してアズライルとお茶をする日だった。
彼は出来るだけ彼女が自分に興味を持ってくれるように話し掛けても彼女からは相変わらず何も期待してなさそうな目を向けられていた。
「…特に何も…」
「そうか…」
(普通は婚約者に対してここまではないと思うのだけど…一体どうすれば…)
言葉も表情からも読み取れるものがなくて彼もここまで手強いとは思っておらず困った。
それから再び無言となり居心地の悪い雰囲気で時だけが過ぎていった。
「…では失礼致します」
「…ああ、気を付けて…」
この日も何もなくお開きとなった。
(あぁ悪戯に時だけが無駄に過ぎて行く…どうすれば…せめて原因さえわかれば…)
どうやっても時だけが過ぎて行くこの状況に対して次第に焦りが生じるのも仕方ない事だった。
しかし下手に苛立ちを彼女に向けると夢の通りになる可能性があるので慎重にならざるをえない…これもまた彼を追い詰めていた。
(くそっ…そもそもこの話さえなければ…)
試しに父王に彼女との事を話してみると『アズライルは婚約者なのだから寄り添う努力をしなさい』とだけでやはり夢の通り詳細は話して貰えず白紙は出来ない事を告げられた。
(彼女に一体何かあるんだ?それさえわかれば…何故口を噤む必要があるんだ?)
たとえ夢でも魔物が襲ってくる恐怖を思い出すとアズライルは再び身震いをした。
*****
そしてとうとう鬼門とも言える貴族学校に通う日々が始まると今回も当然ながらアザレアがいた。
この時のフルスコルは夢の記憶と同様に彼女に近付いたがアズライルは様子を見ることにして出来るだけ近付く事を避けて彼女の事はフルスコルに任せることにした。
これは今までの夢の記憶を振り返った時に漠然とした感覚ではあるが彼女がディスティニーに絡むと妙な事になるような気がしていたのと夢の中で父王が最後に口にした意味深な一言も一歩退かせる要因となっていた。
それは『自分の尻は自分で拭え』と言う内容で更に『犯した罪』とまで言われた事が妙に引っ掛かっていたのだ。
自分達は特に何もしていない時の夢の中でもこれを言われた事で引っ掛かっていた。
そして前もそうだったがその前の記憶でも毎回アザレアと仲良くなってからディスティニーは「淑女の範囲で…」とアザレアに注意すると彼女は注意されたことに傷付いたのだと態度で示して涙を流したのでアズライル達はそれに絆されて腹立たしくなるとアザレアを庇いディスティニーに対しては辛く当たっていたのを思い出した。
しかし冷静になると確かにこれから王子の婚約者になるならいつまでも泣いてばかりではアザレアが恥をかくのはわかりきっていた。
ここでアズライルは以前の夢の記憶で自分が何を思ったのかを思い出した。
『王子の自分がそばにいれば誰も何も言えないし特に問題はない』
しかしこの思い込みが原因でディスティニーが離れた途端に誰も注意する者は居なくなり好きなように振る舞えたがその代償で完全に学内での信用を失う事態となった。
当時のディスティニーに対しての周りの反応は『普通に注意しただけで王子に不敬だと言われた可哀想な婚約者』という評価で社交の場でもこの噂は流れていてこの事を知られたアズライル達は父王に『再教育の必要があるようだ』と叱られていた。
前の夢ではアザレアに促される形ではあったがディスティニーの口から白紙の話まで出た。
その表情は相変わらず無表情だったが何か決定打になるものを探してたいたのかアザレアが何か仕掛けるのを待っていてこれを上手く利用していたようにも思えてこれもまた妙に引っ掛かっていた。
(初めからこの婚約が嫌ならずっと我慢してたって事か?)
やっとこの思考に至ったが既に学校は始まっており時は有限で刻一刻と破滅の時は迫っていてそれはすぐそこまで近付いていた。
そしてフルスコルとアザレアがいる様子を見ながらふと気付いた。
(あれ?アザレア嬢と王子であるフルスコルが一緒にいてもディスティニー嬢は全く現れない…?)
ここで初めてアズライルはディスティニーが注意したのは婚約者のいる自分がいたから仕方なく注意しに来ていたのだと理解した。
(フルスコルは婚約者がいないから放置って事か?これは意外とわかりやすいな…)
少し考えればわかることなのだが彼にとってこれは今ままでの記憶も含めて初めての発見だった。
「アズライル様ぁごきげんよう」
聞く人が違えばゾワッとして逃げ出しそうな甘ったるい話し方でアザレアが近付いてきた。
「アザレア嬢ごきげんよう。あまり距離を詰めようとするのはやめてくれないかな」
「え?なぜですの?」
その様子は自分が受け入れられて当然だと言ってるような様子で本気で不思議そうにしたので彼も困った。
「婚約者がいるから外聞が悪いと困るんだ」
「…そうなのですね…わかりましたわ…」
このような様子でアザレアは夢の通りアズライルにも近付こうとしたが彼は迷いながらもたとえ夢だったとしても念のために心臓に悪い恐怖を何度も繰り返す切っ掛けを作りたくなくて夢とは違い一応距離を置く選択をすると彼女は何故か不思議そうにした。
ただそれだけなのだがなんとなくでも違和感を覚えたアズライルは帰城してからフルスコルを自分の部屋に呼び出して話を聞いてみる事にした。
「アザレア嬢ってディスティニー嬢に対して妙に挑発してないか?」
「えっ?兄様ってアザレア嬢が好きじゃないの?なんで?」
「なんでって…お前こそ何故そう思ったんだ?俺達ってタイプ違うよな?」
「確かにそうだけどアザレア嬢は別でしょ?」
何故か逆に驚かれてしまいアズライルは夢の中では確かに不思議と彼女に入れ込んでいたのに今回は何も思ってないことに気付いた。
「なんというかアザレア嬢を好きと言うか…なんだろうなぁ…前の夢の中まではのめり込んでたけど現実では夢の通りにしたくなくてフルスコルに任せてみようと思ったんだ。
それで距離を置いてたら特に何も思わないんだけど…フルスコルから見てこれは一体どういう事だと思う?夢では父様達が俺達やアザレア嬢に対して『身の程を弁えないならその身で償え』とか話してたのと関係あると思う?」
アズライルの話しでフルスコルも前回の記憶を思い出すと不思議な気持ちになった。
「確かにそんな事を話してたよね。父様ってやっぱり何を知っていて隠してるのかな?ディスティニー嬢の事も言葉を濁してたけどあの時は彼女の父親も慌てた様子で言葉を濁したよね?一体何を隠してるんだろう?」
フルスコルは思い出したついでに魔物の襲撃の時の恐怖を思い出して身震いすると一瞬で何かが吹っ切れた気がした。
「あれ?今なんだか……兄様にアザレア嬢の事を悪く言われて少し苛立ってたけど夢の事とかを話してる間にそれがなくなった…」
「え?どういうこと?」
「出来れば説明したいけどいきなりだったし何故なのかは僕にもわからないよ。
でもなんだか彼女の事をなんとも思わなくなった気がする…なんでかな?」
「それは俺もわからん。なんでだろうな?」
アズライルから詳細に話すように促されてもフルスコルは漠然と感じていただけなので感覚的な内容を上手く言葉に出来ずにいた。
そんなフルスコルを不思議に思いながらアズライルは今得られている情報を纏めてみる事にした。
(夢の内容では何かしらの理由でディスティニー嬢が関わっているのは確かだとは思うし恐らくこれは間違いないと思う。
これまでの夢を思い返して必ずと言っていい共通点は彼女と婚約して卒業式で彼女が消えた瞬間から破滅が始まっていた。
そしてアザレア嬢は異常とも思える程に不必要にディスティニー嬢を挑発していて現実でもアザレア嬢のそばにいたフルスコルは彼女に盲目的になってたけど夢の恐怖を思い出したからか元に戻った。
なんだか不可解な点が多いなぁ…ではアザレア嬢も何か知ってるとか…いや、知ってたら破滅の原因に手出ししない筈。
でもフルスコルの今の様子を見るとなんとなくでも彼女に近付くのは危険な気がするのは確定かなぁ…)
そして前とその前の夢の記憶を手繰り寄せると疑問がまた浮かび上がりそれは気付かなかっただけなのかは不明だが今までの記憶を全て合わせても全く記憶にない事だったが自分がそこまでアザレアに対して盲目的になっていたのかと思うとなんとなく学内での信用を失った事も納得出来たが認めたくなかった。
今ならアザレアの態度について振り返ってみると嫌な予感がしてきて念のために注意することにした。
更に彼女の行動について振り返りながらまたもや違和感に気付くとまた疑問が浮かび上がっていた。
「フルスコル、頼みがある…」
「……確かに…それは僕も興味あるかも」
アズライルの提案にフルスコルもその事は疑問に思っていたらしくすぐに納得して頷くと話を詰めることにした。
ここまで読んで下さって有り難う御座います。
悪夢って本当に怖いものは怖いので、ある意味で彼等は夢の恐怖体験を繰り返してるようなものだろうと想像しながら書いてます。
補足としてこの世界では巻戻りの魔法がまだ開発されてないので彼等はあくまでも予知夢のような感覚でいて実際に起こった事が巻戻っているのだとは気付いてません。
ここから本格的に登場人物達が巻き戻り阻止を目指して動き始めますので彼等の頑張りを見守って下さると幸いです。