3ー⑫
「父様!」
「!?」
多少の騒動はあったが無事にパーティーが終わると城に戻って執務をしていたノイリエスは一区切りついたのでそろそろ終えようとした頃。
先触れもなく突然婚約者を抱えて勢いよく現れた息子にノイリエスは驚きビクリとした。
「アズライル?何事だ?」
「何も言わずにこれにサインだけ下さい!」
抱えていたディスティニーを一度下ろして特に説明もなく一枚の書類を机に置いた。
「アズライル…これは…」
「父様、今後はティニーと一緒に彼方に住んでフルスコルを支える事にしましたので宜しくお願いします。
今必要な事は何も言わずにこれにサインだけをお願いしますね。
その後の私の婿養子等の件についてですけど色々と調整があるでしょうし私個人としてはティニーと一緒ならどちらでも構いませんのでその辺りは侯爵と話して下さいね」
妙な圧と共に暴走を止めない息子の後ろでその婚約者は申し訳なさそうにしているのを見てノイリエスはなんとなく察した。
「アズライル…ディスティニー嬢が困ってるんじゃないのか?」
「それはあり得ません!それにここまで婚約を白紙にしなかったのは父様ですから今更文句は受け付けませんし、例え早めに白紙にしようとしたとしても徹底して根回しして阻止したと思います。
まぁそんな話は既に過去ですからもう些末な事でよね。
私は愛する人と時を共にするためだけに全力を出して既に根回しは済みましたけど、今日はあの呪い返しの後に念のために私の部屋でティニーを匿ってから父様に報告に上がっている僅かな間でもアザレア嬢と仲良くしていた私の側近が現れて彼女の首を絞めましたから暫くは心配で少しでも離れたり目を離すなんて恐ろしいですし、とてもではありませんが精神が持たないのは自分が一番よくわかってます。
今日の事でわかりましたけどこれから先の事を考えるとティニーはずっと狙われかねませんから彼女を守るためならアイツに話して暫く国外に逃げようとも思ってますが、エーデルオーク家に入れば神聖な木の守りがあるので迂闊に手を出せない筈ですから守りやすくなると思い踏んでます。
ですので私はこれからあの領地に向かい彼等の様子を探りながら彼女を守り一緒に生きて行くことにしました。
そのための手段ですので早くサインください」
尤もな理由ではあるが、このやり方はどうにも問題があるように思えた。
ノイリエスが少し渋っているとアズライルは更に続ける事にした。
「父様が認めなくても神殿には既に登録してるのでなんとでもなりますよ」
「は…?」
とても良い笑顔で先手を打ってきたことをとどめの言葉にするとノイリエスは唖然とした。
そして『もうどうでもいい、なるようになれ』と自棄糞になりながらサインをするとすぐに笑顔で回収された。
「これでやっと完全にティニーは私の妻ですね…やっとだ…あぁ長かったなぁ…」
安堵したその表情は本当に心の底からの思いなのがわかる程だった。
「ティニー、これから侯爵に伝えて領地で二人きりの甘い時間を過ごそうねぇ」
「甘いのはちょっと…でも本当に許してくれるのかなぁ?」
ディスティニーが不安そうにするとアズライルは自信に満ち溢れた表情でこれだけでも彼女は自分の父親が疲れていそうな未来が予想出来てしまった。
「許すも何も既にそれしか道はないし、私はティニーが逃げないように道は全て潰して外堀はしっかり埋める事にして実行してきたんだ。
その成果が今に出てるしティニーはもう私と離れる事は出来ないから私も一緒に彼方で住むなら侯爵も安心するんじゃないかな?」
アズライルの徹底ぶりは確かに相手を追い詰めるには有効ではあるがやり方がぶっ飛んでいてノイリエスとディスティニーは目が合うとお互いに困った顔になりそれに気付いたアズライルが素早く嫉妬した。
「ティニー?父様は見なくていいから私を見なさい。
もう他の人を見る必要もないから安心してもっと頼ろうねぇ」
「…アズライル、過保護も息が詰まると言ったのはお前だぞ?程々にしなさいね」
「わかってますよ。今日からティニーと一緒にいますから何かある時だけ呼んで下さいね。
出来る事なら一生呼ばないで下さいね。
ではこれは受理されたと言うことで処理させますから戻りますねぇ」
アズライルは人の話を全く聞かずにディスティニーを抱えると消えた。
「…」
二人が消えてからノイリエスは一気に疲れが出て椅子に凭れて息を吐いた。
その後のアズライルは素早く書類を提出して処理させるとエーデルオーク家に向かった。
「お義父様!只今戻りました」
婚姻成立の証明書を見せるとエドマンドはディスティニーの予想通り既に疲れた顔をして少し窶れていた。
その後は婿入りか婿養子かを話し合い、エーデルオーク家には一人しか子供が居ないのでそこを考慮した上での手続き等、これからの事を話して納得させると次は領地で住む場所などを話し合った。
「……はい。承知いたしました…」
アズライルの有無を言わさない圧と勢いに負けて精神的に疲れきったエドマンドは承諾を口にするので精一杯だった。
「よしっ!ではティニーは今日からずっと私と一緒にいられるからもう逃げないように!」
「…はい」
ディスティニーはアズライルが更に甘々になりそうな未来しかないようなを気がするとなんだか胃もたれで疲れてしまい考えるのをやめた。
*****
「ねぇ、アズ?」
「ん?」
無事にある程度の事が片付いた後の二人はディスティニーの部屋にいてアズライルは城から届いた部屋着に着替えると、すぐにディスティニーを抱えてソファーで寛いでいた。
「本当にこのままでいいの?貴方は王太子の教育を真剣に受けてたよね。
私もそばで見てそれを知ってるからなんとなく…」
『もう未練はないのか…』言葉にはしながったがそう聞かれた気がしたアズライルの微笑みは甘さを増した。
「大丈夫。私…いや、もう俺でいいよね…俺はずっと伝え続けてるけどあの時からずっとティニーだけを見てきたんだ。
だからティニーがそばにいるなら他は特に未練も無いし、もし王太子という目立つ立場でなければ君を守れないならそうしてるけど…もうその立場はいらない。
本音を話せばティニーと四六時中こうしてた方が俺は幸せなんだよ。
妻になったティニーを俺が常に溺愛していられる環境がここにあったからあの場所には未練も後悔もないし今後は二人で長く生きて仲良しの姿をアイツに見せ付けてやればいいんだよ」
アズライルの話にディスティニーは今までを思い返して自然と視界が滲むと溢れる雫はとめどなく流れて頬を伝い落ちていた。
慌てて涙を拭うがなかなか止まる気配はなく困っているディスティニーを見てアズライルは自分の肩に彼女の頭を寄せると優しく頭を撫でていた。
「今までよく耐えたね。もう大丈夫だよ。
これからも俺がいる。俺が一番近くで君を守るよ。
ティニー、君はもう前に進めるんだ。
今の君にはずっと求めていた未来があるんだよ。
ディスティニー嬢、改めて聞くよ。
今後は俺と共に未来を歩んでくれますか」
「はい…私もアズライル様と共に未来を歩みたいです…」
「有り難う。ティニー愛してる」
「アズ、有り難う…」
この日のディスティニーは泣き疲れて眠るまで涙が止まる事はなかった。
*****
それから一年、二年と時は過ぎても魔物の襲撃もなく平和で穏やかな日々が過ぎていた。
城から出て自由になった世界樹は日の光を浴びて更に高く大きく成長し続けると街の人達の様子を見ながら鳥や風と戯れ、神聖な力を宿す木は世界樹の心からの喜びを感じて幸せな時を過ごすと、いつしか二つの神聖な木の神聖力は高まり良い意味で共鳴を始めてそれは人々にも影響を与え、悪さをする者には息苦しい国となり入れても居心地が悪く、息苦しくて出て行くので自然といなくなっていた。
「…凄いな…この国がまるでお伽噺にある太古の神聖国のようになってる」
「ええ、素敵ねぇ…常に空には祝福の虹が掛かっているし…私もお伽噺くらいにしか思ってなかったけど…あの時に貴方がユグドラシルにも自由を…と動いてくれたお陰ね、改めて本当に有り難う」
「ティニー、惚れ直した?」
アズライルがふふっと優しく微笑みながら隣に立つ彼女を見ると彼女は照れたように頬を染めていた。
「…いつでも惚れ直してるわよ。
アズ、私とユグドラシルに素敵な未来を与えてくれて本当に有り難う。
多分だけど彼が求めた愛し子は私で最後だと思う」
「うん、そうだと願いたいなぁ…でもまだまだあいつの所には行かせてあげないよ。
私はいつまでもティニーと一緒にいたいから覚えていてね」
「アズがそばに置いてくれる間は私も離れるつもりはないわよ。
アズ…いつも守ってくれて本当に感謝してるの。有り難う」
二人は神聖な力を宿す木のある聖域の森の近くに侯爵家の離宮を建てるとそこでのんびりと過ごしていた。
初めはベッタベタのアズライルに疲れていたディスティニーもこれからは警戒する事は何も無いことを実感して気持ちにも変化が現れると少しずつ余裕が生まれていて彼の甘さも少しずつ受け入れるようになり、次第に慣れて心から穏やかで幸せな時を過ごせるようになっていた。
ディスティニーの変化にすぐに気付いたアズライルもやっと一緒に未来を歩めている実感が湧いて安堵するともう彼女に迫る脅威は去ったのだと思えて肩の力を抜くと少しだけ過保護が収まっていた。
これが良かったのか彼女が自然と頼ってくれるようになると丁度良い関係で幸せに過ごした。
ここまでお付き合いくださった皆様、本当に有り難うございました。
なんとか本編が終わりました…若干ダラダラしてる部分もありましたが…これにお付き合って下さった皆様は本当に優しいなぁと思い感謝しております。
しかし実は後一話だけ番外編があったりします。
そこでは今までの設定で描けなかった部分の完全回収でハッピーエンドとなりますので気が向いたら読んで頂けると幸いです。有り難うございました。




