3ー⑨
その後もアザレアは執拗な程に近付いて来たので彼女から逃げる日々を過ごしてやっと決着の場の一つでもある卒業式があと数日後に迫った頃。
アズライルは父王のノイリエスから呼び出されるとそこは人が四人ほど入れそうな小さな個室で巻き戻る前にエーデルオーク家の仕来りについて聞いた部屋だった。
中に入ると完全に人払いをされた状態でノイリエスの様子もいつもより緊張していた事でアズライルもなんとなく話の予想をすると『いよいよか…』と気を引き締めていた。
「アズライル…これから先はディスティニー嬢をそばに置くのはやめなさい。
もうじきお前も卒業するし、そろそろ話すべきだと思うから全てを話そう」
真剣な表情のノイリエスからこう切り出された話は以前にディスティニーと二人で読んだ神話の話と酷似していた。
そしてノイリエスの話で何故エーデルオーク家でなければいけないのかも理解した。
それは神聖な力を宿す木が元からこの地に根付いてこの地を魔物の脅威から守っていたので、この地に住まわせて貰っていたあの一族はずっと邪な人間の手により危害を与えられないように大切に守り続けてきたからだった。
「父様、私とティニーは既にそれを知ってますけどその前にティニーがいる前でもその話をするべきだと思うのでこの場に呼んでも宜しいでしょうか」
「わかった」
この日もディスティニーはアズライルに捕まり部屋で待機させられていた。
すぐにやって来たディスティニーは部屋に入ると妙に重たい雰囲気を察して少しだけ顔が強張り緊張していた。
「父様、私とティニーは何度もやり直していてその記憶があります…」
「なんと…」
アズライルは静かに切り出すとノイリエスは信じられないとその目が語っていたが、アズライルはまずは強ばる表情のディスティニーを優先して安心させるために肩を抱き寄せると話を続けた。
この時にエーデルオーク家に伝わる話もすると信憑性は更に高くなりノイリエスも信じるしかなかった。
「俄に信じ難いが隠された真実を知っていてその話の内容も確かに合っている。
わかった。お前達があの者とそのような約束をしたなら様子を見よう。
侯爵にもその時が来るまでは待つように私から話しておこう。
しかし…そうか…それならディスティニー嬢はこれからどうしたい?」
「…叶うなら今後もアズライル様と共に…」
「父様、私はティニーと一緒にいられるなら立場はどうでもいいですけどこの際ですから彼女の家に入ってもいいと思ってます。
その時はずっと一緒にいないと寂しいので侯爵に丸投げするつもりです」
話が一段落つくとアズライルが嬉しそうに遠慮なく暴走を始めていてノイリエスは困った顔になっていた。
ディスティニーはこの時に自分の父親が戸惑う姿が容易に想像出来た。
「それは侯爵に申し訳ないだろう?」
(陛下がまともで良かった)
ディスティニーはアズライルの暴走で止められるとしたらもしかしたらこの人かもしれないと少しだけ思った。
しかしアズライルはノイリエスの話に『何言ってるの?』と言う目になっていた。
「出来ればあの家からティニーを離したいけどアイツとの約束はティニーがこの世を去る時までの期限があるので一応はエーデルオークの近くにいる事にします。
どうせならアイツの場所に何時でも行ける許可を下さい。
この際だし思いっきり自慢してやろうかと…ついでにティニーを笑顔に出来るのは私だけだ!そう言って悔しがらせてやりますよ」
「それはやめなさい。不安定になると困るからね?」
ノイリエスとディスティニーは本当にやりそうなアズライルに青ざめた。
「だって精霊ならまだわかりますけど、人ですよ?無理にも程がある。
そのせいでティニーはずっと一人で苦しんだのですから許せません。
愛しい人がずっと苦しめられるなんて父様は耐えられます?
私には無理!これは断言出来ますよ。
だからせめてもの意趣返しくらいはしてやりたいです」
その目は本気で、ノイリエスは絶対に会わせてはならないと確信した。
「…そんなことは許さん。不安定になればエーデルオークも怒るんだぞ。
そんな事になればあの神話の通りになるから良く考えなさい」
「それは既に体験済みですから考えなくてもいいんですよ。
この真相を知った時からずっと感じてましたけど…あれは求めた子供が勝手に国から出たからって話なので状況が違います。
そもそもの話ですけど長生きなユグドラシルは心が狭すぎですよ!
そんなに人が好きならこの城を壊してあいつが日の光を浴びてのびのび出来るような環境で街の者と触れ合えるような場を作ればいいだけの話ではないですか。
あんな地下の暗く湿った場所にいるからあいつも孤独を感じて陰湿になったんじゃないの?
俺でもあんな場所なら無理だしずっと閉じ込められたら精神的にどうにかなってますよ」
(あれ?何?こんなに嬉しい気持ち…)
アズライルの話にディスティニーもなんだか希望が湧いてきた気がしたが、なんとなくそれが自分の感情ではない気がして不思議だった。
「あ、あの…」
父子が喧嘩腰になりかけた時、ディスティニーが遠慮がちに口を開くと二人は注目した。
「ティニー?どうしたの?絶対に父様には渡さないから安心してね」
優しく話し掛けられたディスティニーは困った顔をしてそうではない…とゆっくり首を振った。
「アズライル…まずは彼女の話を聞いてあげないのかい?」
「確かにそうですね」
呆れながらノイリエスが促すとアズライルも同意して話を聞く姿勢になったのでディスティニーは少し俯いて深呼吸して内容を整理すると顔を上げた。
「今アズライル様が城を壊してユグドラシルにも日の光を当ててのびのびと出来る環境を作ればいいと仰った時になんだかとても嬉しかったんです。
私も初めての事で少し自信がないのですけど…これは恐らくですがユグドラシルの感情だと思います。
普段は何も思わないのですが私が彼の求める者なら何かの力で繋がっているのだと思います。
陛下、これは無茶なお願い事だとは思いますけどあの方はそれを望んでいるようです。
どうか少しでも聞き入れて頂けないでしょうか」
「ふむ…」
話を聞きながらノイリエスは困った顔をした。
それは城を立て替えるなら街も作り替えなければならず莫大な費用がかかる。
しかし、この国は世界樹のために作られた国でその世界樹が望むなら叶えてやるのはこの国の存在意義でもある。
ノイリエスが難しい顔になるとディスティニーも不安そうな表情になり、アズライルは彼女の肩を抱き寄せると優しく頭を撫でながら再びノイリエスに視線を向けた。
「父様、神話やエーデルオーク家の話を纏めるとユグドラシルがあんな場所でずっと一人でいるから孤独を感じたのではないでしょうか。
もしユグドラシルが人のそばにいたいなら街はそのままにして城だけ立て替えてしまえばいいと思う。
幸いこの王都は森に囲まれてますが平地ですよね。
今もティニーを通して聞いてるならユグドラシルに尋ねてみては?」
確かにこの城を作ったのは世界樹がまだ人に盗まれやすい程に小さかったから作られたというのが理由だった。
それから時は経ち、今はしっかりと根付いていて人に抵抗する力も持っている筈。
それならば親離れという言い方はおかしいがそういう時期に来ているのだとするとアズライルの言うことは正論で、世界樹が今後も更に大きく成長するとなるとどちらにせよ確かに城は邪魔になるのでこの話は遅かれ早かれ向き合わなくてはならない問題だった。
ノイリエスとしては世界樹が今はまだそこまで大きくなかったように思えて失念していたが相手は意思を持った世界樹。
この先どこまでも成長するのにここで遮るのは世界樹の成長にも良くないような気がしてこれから必要なのは自然界の魔素もだが陽の光のような気もした。
「わかった。お前の言うことも一理ある。
だが勝手に決める事も出来ないからまずは尋ねてみよう」
ノイリエスは悩みに悩んだ末に突然実行に移るのは良くないと判断して慎重ではあるが重い腰を上げて前向きに検討をする決断したことでディスティニーもホッとしながらも明るい未来が見えた気がするとなんとなくでも胸が踊るような感覚がしていて今までの重い気持ちが少しだけ軽くなっていた。
ここまで読んで下さって有り難うございます。
いよいよか…悲恋っぽくしていくか迷いながらあまり長くするのも違う氣がしたのでもうすぐ終局です。
世界樹はどう出る?素直に聞く耳を持つのか…それとも…長く生きる世界樹の年齢は人間で言うと大体思春期くらいでしょうか。
反抗期となるかどうか…温かく見守って下さると幸いです。




