2、何度目かのやり直し
完結後に誤字脱字の訂正をしております。
「え?私があの第一王子殿下と本当に婚約するのですか…」
それからのディスティニーは何度も時が戻り今回も再び戻った事には慣れたのだがいつもは婚約の数年前に巻き戻っていたのに今回は何故か婚約の話が決まった説明を受けている状態で前回までの記憶が戻っていて逃げられない婚約の話に戸惑っていた。
「そうだぞディスティニー。これからはしっかりとお仕え出来るよう精進しなさい」
「そうですよ。この話は神聖な木の守護者として名高いエーデルオーク家にとって名誉な事なのですよ」
(ここで試しに嫌だと話してもいつも通り却下なのかな…やはり格上だから無理なの?
しかし…毎回思うけど…この何も脈絡もない状態でこれはちょっと…)
今回も前回迄と同様に両親に突然呼ばれてまたもやお茶会等も参加してない状況でこんな話をされてしまうとディスティニーは困惑して本音を口にすることが出来なかった。
「…はい。謹んで精進致します」
(本当はすっごく逃げたい程に嫌なんだけど…察してくれないかな?)
毎度の事ながら同じ台詞を口にしながらディスティニーはこの時も憂鬱で堪らなかった。
しかし目の前の両親は彼女の気持ちとは全く逆の反応でこれまでの記憶通り期待の眼差しを向けていたので彼女は今回も何も言えず内心では溜め息を吐きながら本心を飲み込む事しか出来なかった。
相手のアズライル殿下はやはりこのイグドラル王国の第一王子のアズライル・イグドラルで間違いはなかった。
双子の弟のフルスコル・イグドラルとはこの時も二人が似ている特徴を斜め上に活かした悪戯をしながら周りの人間を困らせていた。
そんな人の婚約者には何度もなりたくなかったが既に決まったものは仕方ない。
彼女はこの日から恥をかかないために教育が厳しいものへと変わっていた。
これも前回までの夢のような記憶と同じでディスティニーとしてはこれをただの白昼夢くらいの軽い気持ちで受け止めたかったが何度も同じ事が起こる夢を見続けた上に現実でもここまで酷似してくると流石に無視も出来なくなっていて何かしらの対策を講じる必要性を感じていた。
そして顔合わせの日になり案の定彼は不機嫌そうにしていて最悪の雰囲気で終わった。
その後は王子妃の教育のために登城する事になりそこでは各分野の教師達からのチェックが入り出来なければまたもや容赦のない罵詈雑言や時には罰として背中に定規等を入れられたが耐えた。
この時には既に周りは敵ばかりだと悟っていて何も期待しなくなり次第に心も体も傷だらけになると諦めよりも怒りが湧き上がっていて抑えるのに苦労していた。
そこに更に追い打ちをかけたのは相変わらず婚約者の存在とその弟だった。
弟の方も兄同様に隙あらば何かと嫌みを言ってきてディスティニーをキレさせていたが彼女はその怒りを無表情に変えて王子達を無視し続ける事にした。
その成果もあったのかディスティニーの心は今回も涙すらも忘れる程に疲れてしまい面倒臭くなると目が死ぬのも早かった。
*****
いい加減にして欲しいと思いながらストレスを溜める日々を過ごしていると今回も例外なく面倒な貴族の義務で学校に入らければならなくなりディスティニーは淑女学校に逃げようとすると両親は手早く共学の王立学園への手続きを済ませていた。
(あぁ…肩の荷が重すぎるよぉ…相手も嫌がってるのに婚約者でいる必要があるのかなぁ…)
学園が終わるとこの日も王子妃教育が待っていて登城する馬車の中から窓を見て街を行き交う人々の笑顔をぼんやりと見ながらやるせない思いが溢れて虚しい気持ちが募っていた。
こんなときも更に虚しさに追い打ちをかけて苦しめるのはやはり婚約者のアズライルとその弟のフルスコルだった。
この二人は学内で一人の少女に夢中になるとディスティニーの目の前で見せ付けるように寄り添いこの時も当然ながらやりたい放題となっていてディスティニーはこの阿呆な王子達を野放し出来ないこの状況に苛立つと思いっきりストレスが溜まりやり直し覚悟で攻撃魔法をぶつけたくなっていた。
「第一王子殿下。他の者も見ておりますので今後の言動にはご注意を。
ウィロー男爵令嬢様。これは貴女のためにもなりますので殿下とは程よい距離感を」
「そ、そんな酷いですぅ…私はただお友達になりたかっただけなのにぃ」
「…」
これは言ってみればお近付きになりたいと言っていて意図的に行動してるんですよと言う意思表示なのだがアザレアと言う少女は阿呆なのかそれに全く気付いておらずデスティニーは白けた目を向けながら望み通りこのまま放置するか悩んだ。
「アザレア嬢…可哀想に…デスティニーお前は配慮が足りないんじゃないのか」
(…いや…何言ってるの?それはお前達なんだけど本当に理解出来ないのかな?
あぁ本当に面倒臭いなぁ…いつまでこんな事を…あと親しくないのに呼び捨てやめろ。
そもそも今の状況を考えずにこれって…頼むから人の目があるのも理解できない阿呆にしか見えないからそこのところを理解して!
本当に面倒だから私にこれ以上あなた達の阿呆な行動の注意をさせないで!時間の無駄なの!)
ディスティニーとしてはこの国の貴族としてはかなりまともな指摘をした筈なのだがアザレアと言う少女は泣き真似を披露して自身の正当性を訴えると王子二人はそうさせたディスティニーに対し嫌そうな顔を向けていた。
「君って兄様の婚約者なのに本当に愛想がないよね…」
(あーまたか…この二人…本当に王子教育は受けたのか?…頭大丈夫かな…)
この時のディスティニーの目は既に茶番に飽きて死んでいて出来れば王子達には関わりたくなくなっていた。
「その目は嫉妬か?やはりアザレア嬢の方がお前よりも愛嬌があっていいね。
お前はこの先も私の仕事だけを手伝う存在だから相手はアザレア嬢でもいいだろ」
(え?嫉妬?これは軽蔑ですけど…何?そこまで阿呆なの?あとお前呼びは気持ち悪いからやめろ!
その前に…この人達って本当に王子なの?王子以前の問題にすら気付かないって…それなら…ってその前に私は都合の良い道具かぁ…そんなところは頭が回るんだね…そうかぁこれならもういいと思う私の判断は間違えてない筈。
こんな後継者しか居ないならこの国ももう終わってるよねぇ…)
あまりにも勝手な言い分が毎回続くので既にどうでも良くなっていた。
「そうだね。兄様の言う通り君には愛想と言うものが無くて腹立たしいからこの婚約なんて破棄すればいいよ」
(素晴らしい意見だから私としても是非ともそうしてほしい)
二人は嘲笑うようにディスティニーを貶していたが彼女の中ではこの婚約が決まった時から早く破棄すればいいのにとずっと願っていたので『何を今更…』だったが折角の機会なのでこのまま破棄して逃げたくなっていた。
「お二人共そんな事を仰るとディスティニー様に悪いですわ」
(うん、君は安定の気持ち悪さだね!)
アザレアはディスティニーを気遣うような言葉を口にするがそれが上辺だけなのがわかるほどにその目は優越感に浸っていた。
「アザレア嬢はなんて優しいんだ」
「本当だね。誰かさんとは大違いだ」
「…」
(阿呆だな…こんな人達の尻拭い…本当に嫌だなぁ…君達に魅力ないのわからないのかな?
ああ、そうか…無知故の所業だからこそここまで…なるほどねぇ…やはり荷が重すぎて私には無理だわ…)
変わらず「ははは…」と馬鹿にした笑いを向けられていたディスティニーもこの時は既に本気でどうでもよくなっていたので彼等の反応を無視して密かに周囲を観察していた。
(…うーん…人目のある場所で一応はここまで言わせたし…彼等も人目のある場所で堂々と破棄の話を口にしたからもういいよね?
とりあえず私は私の立場の仕事をして周りにはちゃんと示したし…よし、そうしよう!)
「承知致しました。では婚約の白紙をお願いします。
証人はここにいる皆様という事で言い逃れは許されませんので陛下にも早めに『婚約の白紙を…』と宜しくお願い致します。
ご希望通りわたくしも今後は一切の口出しは致しませんのでどうぞご自由になさってくださいませ」
そしてディスティニーは彼等の希望通りに見切りをつけて放置しておいた。
すると案の定と言ったところで二人の王子は予想通りの行動をしてくれるのですぐに「品性の欠片もない」と学内で密かに噂になったがディスティニーはこれを無視した。
*****
「お前のせいで私達の品性が落ちた!よって婚約破棄と国外追放を命ずる!」
この日は卒業式。
アズライルは卒業式後のパーティーで逆恨みの冤罪をかけて断罪した。
(お前達は元から品性の欠片もないだろ!)
彼女にしてみれば『今更何を…』という話でこれでやっと二人のお守りから解放されたのだと感じた。
「謹んでお受け致します」
(やっとかぁ…国外かぁ…ここにいるよりは遥かにいいかも)
疲れ切ったディスティニーの心はこの時に何も感じずただ受け止めて国外へと向かうことにした。
「デスティニーお前はなんてことを!」
「…お父様も見ての通りこの場の最高権力者である殿下よりこのようなご命令を受けましたので変更は出来ませんし今更ですわよ。
この際ですから学内での殿下方の素行も含めて調べてみてはいかがかしら。
以前に私が殿下方から言われたことは殿下方のやることに一切の口出しするなと言うことでした。
本日はそのご命令に従った結果で今もこの理不尽なご命令ですがたとえ婚約者でも未だ一臣下でしかないわたくしには覆しようがございませんわよね。
今の決定は此方の全ての皆様が証人となりましたので形式的にも撤回は無理ですのでわたくしは速やかにこの命令に従うしかありません。長居も出来ませんのでそろそろ失礼致します」
(はぁ…なんだか疲れたなぁ…早く国外に行かないとこの双子達の様子ではもたもたしてたらいきなり殺されそうだよねぇ…)
両親はあっさりと受け入れたディスティニーにかなり怒っていたが彼女の心は既に王子達のお守りで疲れきってしまっていて何も感じてなかった。
そんな事よりも追放された事でやっと肩の荷が下りて気持ちが軽くなると早くこの国を出て自由になりたかった。
その後の彼女は毎度おなじみの質素な馬車で国境まで連れて行かれてまたもや記憶と同じように金品を全て奪われて放り出されると放置された。
(うわぁ…流石は品性の欠片も全くない王子達の鬼畜な所業…やはりどこまでも安定の最低さだねぇ…もういいや…これで最後なら今度こそこの国の人に会わない所に行きたいなぁ…)
王子達はやはり考え無しで人に傅かれる存在はこうなると何も出来ない事を知らないのだろうと思い至るとこの鬼畜の所業にも呆れるだけだった。
そして意味のわからない冤罪で国を追い出された後はなんとか魔法で行ける所まで行ってみたのだが特に行く当てもないので彷徨う事になり道らしきものがあったのでとりあえず進んてみるとそこは魔物の森だった。
戻ろうとしても魔力が切れかけていたので休憩が必要となり森の手前で少し休んでいると魔物に襲われかけたので慌ててなんとか逃げている間に森の中に入っていた。
それから消息が完全に途絶えその行方は誰も知らない状態となった。
その後はディスティニーの気配が完全に消えるとエーデルオークは静かに禍々しい魔力を帯び始めて翌日の早朝にその魔力を放つとそれは国中に行き渡り人々の不安を掻き立てると空が真っ赤に染まり魔物が集まり始めた。
普段は国の守りのシールドと神聖な力を宿す木の加護により守られていた国はすぐに多くの魔物達が群れで跋扈することになり何も予兆がない状態の突然の出来事は人の手に負えずあっと言う間に国が滅亡の危機に陥った。
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空が急に変わった時にそれを見たノイリエスはまさかと思いこの時も息子達にディスティニーの事を尋ねると勝手な婚約破棄どころか本当に国外への追放までした上にその後は放置したことを知るとあまりにも酷い仕打ちに目眩を覚えて勝手な事しかしない問題児達に腹立たしくなると二人には勝手な行動の代償として討伐隊の指揮を任せて無理矢理に前線に送り込むと二人は何も出来ずに討伐隊の足を引っ張り呆気ない最後を迎えた。
それを知ったアザレアはまたもや自分だけ逃げようとしたがこの時もこの状況を作った一番の原因である彼女を逃がすというと選択肢は全くなく国王の命令でウィロー男爵家の周りを騎士達で囲ませると罪人として捕えた。
その後は前線に向かう前に魔法属性を調べて彼女の属性が光魔法である事を知るとすぐに最前線か死刑かを選ばせてどちらも嫌だと返事を伸ばそうとすると問答無用で最前線に送り込まれたが全く役に立たず戦力外で呆気なくやられてそのまま息絶えた。
その後も国中の兵士達がどんなに必死に奮闘しようとも魔物は一向に減らないどころか増え続けて最後には破滅を呼ぶと呼ばれるドラゴンまでもが出てきてしまうと何も抵抗出来ず国は呆気なく滅んだ。
その様子はこの国で昔語りとして語られている伝説の大災厄と同じ光景だった。
ここまで読んで下さって有り難う御座います。
大体の仕込みはここまでで出し切ったと思いますので主人公達はこれから隠された秘密に辿り着くために動き始めますので気長にお付き合い頂けると幸いです。宜しくお願いします。