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3ー⑦


 アズライルの作戦が功を奏して父王のノイリエスがディスティニーに対して何も出来ない日々が続いていた。

 その溺愛ぶりは相変わらずで周囲に呆れられながら温かい目で見守られていて、アズライルはこの状況を上手く利用して好きなだけディスティニーとベッタベタで甘く充実した日々を過ごしていると運命の入学式を迎える時期が近付いていてとても嫌そうにしていた。


「あぁ…ティニーが減る…行きたくない…」

「え?また私が減るの?」


 いつぞやの彼を思い出してしまうと彼女も思わず遠い目になった。


「減るよねぇ…私だけのティニーなのに…クラスが別れたら離れるよね?これは許せないよ…」

「え?今まで別でしたよね?」


 巻き戻り前はずっとアズライル達とは別の教室だったのでそれで特に問題もなかったディスティニーは今回も特に何も思ってなかったが今のアズライルはそれが不満でならなかった。


「ティニーはまだわかってないなぁ…私は四六時中一緒に居られるチャンスがなくなったって話をしてるんだけど」


(あれ?…という事は私も久しぶりに一人の時間が出来て…あ、ちょっとやりたいことがあったから今の内かなぁ…)


 彼の話を聞きながら彼女はその裏に気付くと少しだけ自由時間が出来た事に気付いた。


「なに?凄く嬉しそうだね?絶対に休み時間には行くからね!」

「え?」


(嘘でしょ?ちょっと魔法の実践とかしたかったのに…)


 早速一人行動を阻止されて困った。


「何をするつもりなのかはわからないけど絶対に一人にはさせないからね!」

「…わかりました」


 そして入学式の翌日からアズライルが警戒しているアザレアが近付いて来た。

 前回と同様にアザレアはあからさまな態度だったのでアズライルが警戒してディスティニーの肩を抱き寄せるとアザレアは一瞬だけディスティニーを睨んでいた。


(まさか…記憶を持ってるのか?)


 アズライルは意外な人物が記憶を持っている可能性に気付くと更に警戒を強める事にした。

 そして前回の記憶で無闇矢鱈にディスティニーを攻撃していた理由もこれなら…と頷けてアザレアには気を引き締めて対応する事にした。


「アズライル殿下、ご機嫌よう」


 アザレアはディスティニーを無視して嬉しそうな笑みを浮かべてアズライルに寄り添おうとしたが逆に彼は一歩下がり睨んだ。


「君は誰かな?私は婚約者を蔑ろにする人には近付いて欲しくないのだが」

「あ、ごめんなさい。えっと婚約者のディスティニー様よね。ご機嫌よう」

「ご機嫌よう。貴女はアザレア・ウィロー男爵令嬢様でしたかしら。

 初めましてね。私はエーデルオーク侯爵家のディスティニーですわ。

 貴女のためにお話ししますけど…もう少し淑女らしく楚々とした言動を心掛けた方が心象も宜しいかと」

「…気を付けますわ」


 第一印象が悪いと感じたアザレアは慌ててディスティニーを見て挨拶をしたが、それは(わざ)とらしくてアズライルの心象を更に悪くした。

 一方ディスティニーは慣れてるので淡々としていて挨拶ついでにアザレアが今後は出来るだけ周囲の顰蹙を買わない方法を教えるとアザレアが逆恨みして腹立たしそうに睨んでいたがアズライルの視線に気付くとすぐに居住まいを正した。


「私達は行くところがある。もう用事は済んだね?彼女の話す通りあまり馴れ馴れしいのもよくないから気を付けなさい」


 その後はディスティニーを連れてすぐに移動して逃げ切った。

 アザレアはその後フルスコルにも近付いていて彼とは仲良くなっていた。


「あまり節操の無い女性をそばに置くなよ?」


 その日はフルスコルを呼び出してアザレアの事を注意すると彼は目を吊り上げた。


「そんなの兄様には関係ない!」

「では状態異常を解除してもそれが言えるなら認めてもいい」

「え?兄様は何を言ってるの?」


 冷静な態度で話された内容の意図がわからずフルスコルは勢いを削がれてキョトンとした。

 そしてアズライルが宮廷魔法士を呼び出すとすぐに異常があるのかを検査させると魅了と判断されてその場で解除することになった。


「どうだ?先程の私の言葉をもう一度思い出して今はどんな気分なんだ?」


 言われてみてフルスコルは自分の変化に気付いたのか困った顔をしながら動揺していた。


「えっと…どんな気分と言われたら何かもやっとしたものが取れたような?」

「アザレア嬢をそばに置くのはよく考えた方がいいと思うけど?」

「…確かにそんな気がする。いつ魔法を掛けたのかわからないけど…なんだかこの先は危険な事に巻き込まれそうで嫌な予感がするよ」


(まぁまぁだな…だが悪くもないか…)


 彼女のせいで何度も魔物の群れに放り込まれた事が記憶の奥底に未だ残っているのか只の直感なのかは知る由もないがフルスコルの勘の良さにアズライルは感心した。

 その後のフルスコルは念のために魅了の対策をしてからアザレアの狙いを観察してみることにした。




*****




 アザレアは以前の状態ならなんでも言う事を聞いてくれていたフルスコルが肝心のオネダリの時には必ずつれない態度で然り気なく逃げている気がして違和感を感じていた。


(まさか気付かれた?いいえ…そんな筈はない…だって前はこんなこと無かったもの。

 まさかディスティニーとアズライルが仲良くなった事で何かが崩れたとか?

 ずっと固定されてた事なのに…こんなことは絶対に認めないから!)


 実は何故かアザレアも記憶を持っていて、その上で改善する所は改善して今度こそ王子達を手玉に取りディスティニーを追い出して贅沢する事を目標にしてきたのだった。

 しかし今回は何故かアズライルどころかフルスコルまでもが靡かなくなっていて困惑した。

 しかもたまに感じる違和感は何か探られてるような妙な視線だったので居心地が悪かった。

 相手が警戒してる限りは下手(へた)に動けないと感じたアザレアは仕方なく作戦を変える事にしてやり方を変えるとまたフルスコルは言いなりになってくれた。


「お前…またか…」


 この異変に(いち)速く気付いたのはやはり双子の兄のアズライルだった。

 また宮廷魔法士を呼ぶと今度は傀儡だと言われてアズライルはアザレアのやり口が少しずつわかってきた。


「あれ?アズライル?なんだか頭が痛くて…」


 フルスコルは頭痛が酷いのか頭に手を当てて辛そうにしていた。


「お前、今度は傀儡になってたぞ?」

「まさか、アザレア嬢?」

「それしか考えられないよな?」


 心当たりのある人物が一番犯人の可能性が高い話になるとフルスコルは次は何をされるのかわからず青ざめていてアズライルはその様子を見ながら神妙な面持ちで頷いた。


「僕を傀儡にしてまで彼女は一体何がしたかっんだろう?

 僕はこの先は兄様を支えるつもりだから彼女が婚約者になっても王妃にはなれないし、意味はない筈なんだけど…」


 フルスコルの話が本当なら…とアズライルは思案しながら眉を寄せた。


「…まさか…狙いはティニー…」


 弟のフルスコルがアザレアにその意思を明確に話していたなら傀儡にしてアズライルとディスティニーとの婚約を破棄させてディスティニーをフルスコルの婚約者に据える事も出来なくはない。

 しかし、それはあまりにもリスクが高いのでアズライルも流石に考えたくはなかった。

 かといって何もせずに後手に回る事は自分自身が許せない。

 こうなるとアズライルは徹底してアザレアの身辺を探る事にした。




*****




「陛下、少しお時間を宜しいでしょうか」


 その後のアズライルの決断は早かった。

 彼にとって全ては愛しいディスティニーとの未来のためだけにあった。

 彼女か死ねば全てが終わる。

 彼女が全てを捨てて一人で国を離れても全てが終わる。

 彼女が孤独になれば今度はユグドラシルがすぐに回収して二度とこの腕で抱きしめる事は出来ない。

 今回のアズライルは常に緊張状態にあったのだが学校に入ったことで更にアザレアと言う小賢しい敵まで出てくるとなれば手段を選ぶ暇などない。


『権力が好きなら権力で従わせるまで!』


 アズライルの導いた答えはシンプルだった。


「…わかった。此方でも注意しよう」


 案の定ディスティニーの名を出すとノイリエスは顔色を変えてすぐに動く。

 どうやらまだ生け贄の事は有効らしくアズライルの周りには敵しか居ないのだと改めて再確認も出来た。


「ティニー、これから暫くはまた城で生活しようね。侯爵には既に話を通してあるからね」


 また自分の預かり知らぬ所で何かが起きたらしいと感じたディスティニーはアズライルにばかり迷惑を掛けているのが心苦しくなっていた。

 そんな不安を感じ取ったアズライルは彼女を優しく抱きしめると頭を撫でた。


「ティニーは何も気にしなくていいからね。

 これは大切な君を手放したくなくて私が勝手にやってることだからね」

「でも…」

「もし私の事を心配するなら私との未来を考えてくれないかな。

 ずっと話してるけど私は何があってもティニーを手放す事はしないからね」


 いつもそうだがここまで言われるとディスティニーは何も言えなくなった。


「何も出来なくてごめんなさい…」


 俯きながら寂しそうに話すとアズライルは蟀谷(こめかみ)に軽く口付けを落とした。


「ティニー…私はティニーがいるから頑張れるんだよ。

 君がそばにいてくれるならそれだけで私は嬉しいし力が湧いてくる。

 もし何も出来ないと思うならそばにいてくれないかな?そしてこうして抱きしめさせて欲しんだ」

「わかった…有り難う…」


 出来るだけアズライルには無理をさせたくはなくても状況がそうさせてしまうならディスティニーも出来るだけそばにいたくなっていた。

 その後もアザレアはやはり執拗だった。

 しかしアズライルとディスティニーは指輪で守られていたので問題はなく、フルスコルはノイリエスが王族直属の宮廷魔法士の中から呪いなどに特化した者を選び監視を付けていて異変があればすぐに治していて特に大きな問題はなかったのだが、あまりにもその頻度が多すぎたために問題となっていた。






ここまで読んで下さって有り難うございます。

いよいよ入学しますのでもうすぐ終了です。

主人公については割と気になりにくいけれど一番の謎を残してますが…それも終わるまでには解ける筈。

忘れっぽいので忘れてたら申し訳ありません。

では次回もお付き合い下さると幸いです。

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