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3ー⑥


「ねぇアズ…まさかとは思うけど…」


 ノイリエスとの話しを終えて二人はアズライルの宮に戻ると彼はリンディを警戒して居間に向かい二人で寄り添うように座った。

 ディスティニーは静かに息を吐きながら緊張を解くと先程の話を思い出しながらなんとなく面倒事の予感がしていた。


「ティニー頼むね」

「やはりそうなるんですね…なんとなくそんな気はしてましたけど…それなら出来るだけ良い魔鉱石を選ばないと…」


 とても良い笑顔で頷かれてしまったディスティニーは困ったように眉尻を下げながら彼の希望を叶えるために出来るだけの準備をすることにした。


「そうだねぇ、よろしくね」


 アズライルはずっと満面の笑みを浮かべていて彼女はなんとなく先を予想すると自分が疲れる予感がしていて小さく溜息を漏らした。

 今回は出会った当初から彼が前回の宣言通り時が経っても彼女を一人にしないように根回しをしつつ、ずっと彼女一筋で少しでも彼女を理解しようと努めていてその溺愛はとどまるところをしらなかった。

 彼女としては初めて誰かから全力で与えられる心の温もりに初めは戸惑っていたが、少しずつ慣れてくると彼に興味を持ち今では少しでも理解しようとしていて彼の話にも素直に耳を傾けるようになっていた。




*****




 数日後に宝石商が来た時にアズライルはディスティニーをじっと見てから石を選び、もう一つ石を選ぶとリングのデザインの話になったが彼は既に決めてあったのか注文すると話はあっと言う間に終わり商人は加工のために戻った。


「父様は私達がどのような魔道具を持つのかわからないから手を出しようがないから今のうちに決めておこう。

 個人的に最低限で欲しいのはこれなんだけど…あの石でなんとか出来そう?」


 それは、睡眠、魅了、傀儡、の防止と、通信・位置情報機能を備えたもので彼が一番何に警戒してるのかがよくわかる物だった。


「…これならなんとかなるとは思うけど…更に本人以外は外せない仕様にするとか…どうかなぁ…?」

「それはお互いが外せる状態がよくないかな?

 自分で外せると寝てるときとか勝手にやられるかもしれないし?」

「確かにあるかも…魔力キーかぁ…どうせなら後は勝手に魔力が自動で少しずつ蓄積される機能も欲しいかなぁ」

「それいいね。いざと言う時に役立ちそうだ」


 二人は予期せぬ事態に備えるための指輪を作る事にして話を纏めると魔法陣を作っていた。

 指輪が仕上がると最後にディスティニーが仕上げの魔法を組み込むと完成した。

 アズライルは早速ディスティニーの手を取ると自分の瞳の色の石が埋め込まれたリングをそっと薬指に填めると緩かった指輪は丁度良いサイズになり抜けなくなった。


「普通は小指では?」

「まぁそうかもしれないけど…それは私が嫌なんだよねぇ。

 まず虫除けのためにも主張は大事だからお互いに同じ指で牽制しておかないと心配だからね。

 一番はずっと一緒にいることだけど…流石に四六時中は難しそうだからこれくらいはしないとねぇ」


 妙な力説と圧を受けたディスティニーは仕方なくアズライルが差し出した手を取り薬指に填めると丁度良いサイズになっていた。


「これで夫婦決定だねぇ!ティニーは更に逃げられなくなったねぇ」

「そうだね…」


 指輪を見ながら嬉しそうにするアズライルを見ながらディスティニーはなんだか擽ったくて照れてしまった。


「…可愛すぎる!これからも大切にする」


 アズライルはディスティニーを抱きしめながら結婚もしてないうちから誓っていた。

 そしていつも以上に離して貰えず困っているとやっと時間がきて彼は渋々離れた。




*****




 少しずつ準備をしながら順調に時が流れていくにつれて以前とは比べ物にならない程に王子達の評判も良くなっていたのだがディスティニーは今回は婚約者のアズライルにベッタベタに引っ付かれる程に仲良しな事で有名になると次第に周囲に呆れられていて流石にいたたまれない心境となっていた。


「学校かぁ…もう免除でよくない?」


 もうすぐ貴族学校に入らなくてはならない頃。

 婚約当初の頃はアズライルもディスティニーを守るために独占欲も程々に抑えようとしていたのだがいつの間にか彼女への独占欲の抑えが利かなくなった事を自覚すると完全に開き直っていた。


「それは宜しくありませんよ?アザレア様が出会えるのを楽しみに待ってますからね?」

「あぁ…あの子はねぇ次期王妃になれる王子がいいんだよ。

 そこはなんとでもするとして…その先が問題なんだよなぁ…」


 それは儀式の時期が迫っていることを示していてアズライルは緊張していた。


「…アズライル様…その時はその時です…私は人として十分に過ごす事が出来ましたから…」


 そこには最近やっと表に出る事がなくなってきた諦めの響きが出ていて名前を呼ぶのも距離を置いてるように思えると彼は少し泣きたくなった。


「…ティニー…君は私を怒らせて楽しいの?

 私は絶対に諦めない!これはあいつから私への挑戦状なんだ。

『お前に彼女を幸せに出来るのか?やれるものならやってみろ!』

 あの時は明確な言葉にしてなかったけど態度がそれを示していたんだ。

 だからあの時から絶対に好きな女性を幸せにするって決めたんだよ」

「…アズライル様…あまり無理はなさらないで下さいね…」


 全てを知った後、こればかりはどうにもならないと感じていたディスティニーは全てに対して手放しで期待をしてなかった。

 あまりにも淡々と話す彼女にアズライルの不安は増していた。


「…ティニー…私はどんな事をしてでも君を最後まで愛する事を決めてる。

 だからどうか君も最後まで私との未来を諦めないでほしい」

「…」


 真っ直ぐに見つめるアズライルは本気だとわかったがディスティニーは運命よりも更に重く強い宿命には逆らう事は難しいと感じていたので困ったように眉尻を下げるだけだった。


(こうなれば絶対に俺と一緒に居られた事で彼女の心からの満面の笑顔で『一緒に居られて良かった』と言わせてみせるから覚悟してね)


 彼女の様子を見ながらアズライルは逆に闘争心に火がついていた。




*****




「ねぇアズ様、貴方にお願いがあるのだけど」

「なにかな?」


 この日は珍しくディスティニーの方からお願い事をされて彼は嬉しそうに頷いた。


「そろそろ私も治癒魔法の修練をしたいから出掛けていい?」

「え?」


 アズライルがあまりにもベッタリなので何処にも行けず、仕方なく彼に頼むことにするとその内容を聞いた彼は嫌そうにした。


「え?って何?」

「因みにどこに行くつもり?」

「騎士達の救護施設とか…後は民間の診療所かな?」

「…い、嫌だぁぁ…ティニーが減ってしまう」


 突然抱きついたかと思えばとてつもなく嫌そうにしながら叫んだので彼女も困った。


「私が減るって…気の所為(せい)だよ?」

「いや、ティニーは可憐で可愛いから男達が君を色目で見るから駄目だ!」

「…それはないでしょ?」

「ティニーはその辺りが何故か疎いんだよ!あぁ…こればかりは…」


 父親達の企みは阻止できても流石にこれは無理だったので頭を抱えた。

 ディスティニーは欲目を抜いても綺麗な部類で内面はとても可愛らしく優しいのだ。

 これを知れば確実に男が狙うのは想像が出来てしまい更に自分の傷を癒して命を救ってくれたとなれば余計に勘違いが起こる事は間違いないと確信していた。


「ずっとしてきたしきっと大丈夫だと思いますよ?」

「あぁ、そう言えば前回はフルスコルがアザレア嬢の魔法を確認するために向かって偶々君の魔法を見て驚いてたね。

 でもなぁ…そもそも男達の巣窟に一人で行かせるなんて…」


 なんだかとても心配してくれていたのだがディスティニーとしては巻き戻っても騎士達は必ず紳士的な態度で接してくれていたので特に問題はないと思っている彼女としては流石にこれは気にしすぎだと感じていた。


「じゃあ一緒に行く?」

「そうだね妙な虫は退治しないと」

「退治する程の虫はいないよ?清潔だし」

「あー、やっぱり気付いてなかったかぁ…」


 アズライルは前の記憶で彼女がすぐに所有印を消していたことを思い出して納得したが本当にわかってなくて頭を抱えていた。


「さっきから何?」

「いや、絶対について行くから!」

「え?う、うん。わかった…」


 妙に圧があり困惑しながら頷いた。

 そして当日。


「絶対に離れないでね?」

「あのね?何か勘違いしてるよね?私は治療に行くだけだよ?」

「わかってる。君はただ治療だけしてなさい」


(何か勘違いしてないかなぁ…)


 不安に思いながらが向かった先は騎士達の救護施設だった。


「アズライル殿下、エーデルオーク侯爵令嬢様ようこそ。

 私は本日の案内役のジュマ・アルベンガです」

「今日は無理を言ってすまないね」

「初めまして私はエーデルオーク侯爵家のディスティニーと申します。宜しくお願いしますね」


 ディスティニーは丁寧に挨拶すると出迎えたジュマは恐縮していた。


「早速案内を頼みたいのだが」

「はい、少しでも癒して頂けると有り難いので宜しくお願いします」


 案内された部屋は先に頼んでおいた重病人の部屋だった。


「外から見るのは構いませんけど集中しますので絶対に部屋には入らないで下さいね」

「わかりました」

「気をつけてね」


 それだけ告げると彼女は一人で入って行き部屋の中心の辺りで足を止めると集中して胸の前で手を組むと魔法陣が現れて手を解き魔法陣を潰すようにそっと手を合わせた。

 前回同様に琥珀色の光が部屋を包み込むとそれは寝ている騎士達の体に吸い込まれていき彼等は辛そうにしていたのに急に体が楽になったことで不思議に思いながら起き上がり信じられず呆然とする者や感動して涙を流す者もいた。


「完治は油断の原因にもなりますのであえてしてませんけどしっかりと食事と休養を取れば治りますからそのように指導をお願いしますね」

「はい、有難うございます。しかし何故完治が油断の元となるのでしょうか」


 完治させても良さそうな気がしたジュマは不思議そうにするとディスティニーは困った顔をした。


「完治をすると大怪我をした時に必ず治して貰えると思い回復魔法を当てにして無謀な策に出たりしませんか?」

「確かに…それはないとは言えませんね」


 少し考えてジュマも納得するとディスティニーもホッとしたような顔で頷いた。


「そういうことです。私は傷は癒せますが死者を蘇らせる事は出来ません。

 そこで奢った考えをされると私も魔力が尽きた時に助ける事が出来ないのです。

 皆様には命を大切にしてほしいので(わざ)と自分の力で治せる程度までの回復しかしてませんのでその辺りを指導して下さると私も助かります」

「わかりました。有難うございます」

「またこのような状態の時に呼んで頂ければ治しますのでお声を掛けてくださいね」

「え?宜しいのですか?」


 有り難い申し出ではあるがジュマは少し戸惑いながらアズライルを見ると彼は困った顔をしながら頷いた。


「いいよ。彼女がやりたいなら私も一緒に行くから呼んでくれ」

「有難うございます」


 その後もジュマはとても感謝していて二人を見送った。


「悔しいけど見事だった…」

「有難う」

「でもなぁ…ああ、ティニーが減る……」


 馬車の中で寄り添いながら座り、彼女を褒めたかと思うとまた嫌そうにして忙しない彼は彼女の肩に頭を置くとグリグリしたので彼女はそっと髪を撫でると更に甘えるようにグリグリしていた。


「また妙なことを…私は減りませんよ?」

「やはり私がしっかり抱きしめないと…」


 彼は頭を上げると宣言通りに早速彼女を抱えて膝に乗せていてそのままで抱きしめて離さなかった。


(…そこで抱きしめるんだ…)


 彼女は困った顔をしながらそっと彼の髪を撫でると更に腕に力を入れて絶対に離さないアピールをして困らせていた。






ここまで読んで下さって有り難うございます。

ディスティニーの中では敵意を剥き出さない人は安全だと思ってますので治癒した人達が自分に下心のある好意を抱くとは思ってません。

アズライルはかなり不安だとは思いますがこれはこれで魅力的なので悩ましい限り。

どうやって守るのか…彼もなかなか大変そうですが温かく見守って下さると幸いです。

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