3ー⑤
「リンディ様ってなんだか頼りたくなるような温かい方ですね」
ディスティニーから初めて聞く称賛にアズライルは素早く嫉妬した。
「確かにリンディは頼りになるかもしれないけど初めての称賛は私にして欲しかったなぁ…」
「じゃあ頼りになるように頑張ってね?未来の旦那様」
未来でも旦那と呼ばれると彼女の中で少しでも希望を見てくれた気がした彼は嬉しすぎて自然と満面の笑みになっていた。
「君の口から未来が出るのはとても嬉しい事だね。私もこれから良い旦那になれるように頑張るからね」
「アズ様は大丈夫なのですか?私と違って古代語すら出来なかったと記憶してますけど?」
確かにそれは事実で彼女の指摘を受けた彼は過去で授業から逃げてた事もあり少し困った。
「確かにそうだけど…簡単なものなら一応は読めるよ。
だから君が消えたあの時に開かれてたページはある程度なら理解出来たんだ。
そうだ!ティニーが教えればいいんだよ!そしたら私もすぐに覚えるよ」
「え?」
(…面倒臭い…)
突然の提案に彼女は更に巻き込まれたと感じて返事に困りながら直接的な言葉はどう解釈されるかわからないのでどう話すか迷った。
「え?って何?ティニーが教えてくれたら一緒に居られるしお互いに切磋琢磨出来るよね?」
「なんだか上手いこと言われてる気がするけど…確かにそうなのかな…?」
更に畳み掛けてくる彼に対して彼女はいまいちピンと来ないので曖昧な返事になると彼は少し拗ねた。
「そうなんだよ。早速今日からやろうね」
すぐに彼が切り替えて復活すると彼女はその切り替えの早さに引いた。
「えっ?部屋は別だから今日はゆっくり休むつもりですけど?」
「…ねぇ、遅くまで蔵書室に居たくない?」
「…くっ…うぅ…」
(くぅぅ…なんなの?なんで素敵な本が多すぎるのよ!毎回毎回本当に自分が嫌になるよ…)
一緒にいる間に彼もしっかりと彼女の事を理解してきていて蔵書室という彼女にとって悪魔の誘惑にも似た魅惑的な餌をぶら下げてみると悔しそうにしながらほぼ確実に食い付いて来るのを学習していた。
今回も確信を持って話すと案の定しっかりと釣れていた。
二人はメイドに行き先を話して蔵書室に向かうと彼は早速古代語で書かれた本を持ち出して一緒に読んだ。
ページを開きながら彼が一文をさして意味を尋ねると彼女がそれを読み。彼のまだわからない単語の意味等をわかりやすく話しながら彼と一緒にメモ用紙に書き込んでいるとあっと言う間に時間が過ぎていた。
その後の彼は宣言通り彼女がいる間は勤勉に取り組みその成果は教師達も驚く程だった。
ここで更に教師達を驚かせていたのはディスティニーの知識で何度も繰り返しているせいもあり博識でそれはほぼ独学に近い状態にも関わらずその知識は正確で教師達も感心していた。
この二人の様子が周囲に知れ渡ると更に驚くことが起こった。
兄が真面目に取り組む姿に弟のフルスコルも感化されて励むようになっていた。
これには父親であるノイリエスも驚いた。
なにせこの双子の王子達は兄のアズライルに婚約者が出来るまで結託して悪戯しながら教師達から逃げ回っていたのだ。
それがディスティニーを婚約者に迎えた途端にアズライルが変わると突然全てが良い方向へと向かっていて今ではディスティニーを迎えて良かったと皆が手放しで喜ぶ程なので彼女はかなり目立ってしまった。
こうなるといきなりいなくなるのは可笑しいという話になる。
更にアズライルがディスティニーに終始ベッタリなので突然冷たい態度に変わったとなると皆が状態異常の解除を求めてくるであろう事は容易に想像出来た。
良い反面で都合も悪いのでノイリエスとしてはかなり頭が痛い問題となっていた。
(これで不用意に手は出せなくなった筈)
これもまたアズライルの作戦だった。
弟の事は賭けだったが彼は兄である自分が興味を持つ事には割と興味を持つので上手く事が運び安堵した。
こうして皆がディスティニーに好感を抱いて更に王子が婚約者を溺愛し続けると何もしてない彼女に手を出す事が出来ないと考えていた。
実際に皆がディスティニーに好感を抱き始めるとアズライルの狙い通りノイリエスはアズライルをディスティニーから離す事が出来なくなったのを実感していた。
「ティニー私達が寄り添う事で父様は何も出来なくなるからこれからも一緒にいようね」
「わかった…有り難う。でも無理はしなくていいからね?」
「それは何に対しての無理かな?まさかとは思うけど私が飽きるとでも思ってる?それはあり得ないから安心してね。
もし誰かから何か言われたらすぐに私に尋ねてくれれば解決するから絶対に隠し事だけはしないでね?これは約束だよ」
「…わかった」
ディスティニーはこの頃になってやっとアズライルを信頼し始めていて少しずつ頼るようになっていた。
そして約束のひと月が過ぎた頃。
「教師達よりアズライルの進行具合が桁違いだと喜びの報告が上がった。
更にディスティニー嬢の勉強は王子妃教育よりも進んでいる事がわかったので二人が一緒にいてアズライルの足を引っ張る事も無いと言われた。
ディスティニー嬢には今後もアズライルと共に励んで欲しい」
アズライルとディスティニーはノイリエスに呼び出されるとこのひと月の成果を告げられていて結果は良好である事を知ると安堵した。
「これからもティニーと一緒に居られるなんて素晴らしいね!
ティニーは私の勉強が無い時だけ一時帰宅を許していい?」
アズライルが喜ぶとノイリエスは相変わらず息子の暴走具合が酷くて疲れた顔をしていたが彼女の家に押し掛ける事を含ませていた意図にすぐに気付くとノイリエスは困った顔をした。
「…それは駄目だ。一応は体裁と言うものがあるからね?」
「流石は父様!でもこのまま過ごせば確実に結婚しますし大丈夫ではないでしょうか?
まさか…まだ私達を引き離そうとしてませんか?絶対に嫌ですからね!
もう気付かれたので隠しませんけどティニーが帰宅するなら私も侯爵家に行くだけです!」
(この人何を言ってるの?それは私も困るよ?陛下にはなんとかここで頑張ってほしいです)
絶対に離れようとしないアズライルにノイリエスは目眩がしたがディスティニーとしては彼の父親としてノイリエスにはもう少し頑張って欲しかった。
「あっ!父様、もしティニーを一人で帰すならその前に指輪を作ってもいいよね。
お揃いのデザインにして石はお互いの瞳の色にして…どうせならずっと着けていたいので通信機能のある魔道具にしたいです」
満面の笑みのアズライルの話にノイリエスは嫌な予感がしたがここで駄目だと言ってしまうと『では一緒の家に…』とまた振り出しに戻るのはわかりきっていたので仕方なく折れた。
「わかった。そのかわり家には帰すんだよ?」
「とても嫌ですけどわかってますよ」
なんとも調子の良い返事にノイリエスも胡散臭いものを感じて困ったがここで余計な事を口にするとこの妙に知恵の回る息子はそれも上手く逆手に取りまた何を言い出すかわからないと感じて仕方なく彼の好きにさせる事にした。
ここまで読んで下さって有り難うございます。
ディスティニーがやっと前向きになってきました。
そのまま望む未来を手に入れるのか…そしてアズライルにとっては一番の強敵は未だ油断なりませんが今のところ一応は順調で更に次の一手を打とうとしてます。
今後も彼等の頑張りを温かく見守って頂けると幸いです。