3ー③
「これからこんなことも多いと思うからディスティニー嬢の採寸しておいてね」
「お任せください!」
それから順調に親睦を深める日々を過ごしながらこの日のアズライルは仕立ての得意なメイド達を呼ぶとディスティニーの採寸を命じて自分は別の部屋に向かい身支度を整えた。
「…アズ様?メイド達に何か言ったの?なんだかやる気に満ちてたよ?」
ディスティニーは何故かメイド達に色々と可愛がられて戸惑っていた。
「んー、ちょっとね。私のティニーを堪能したくて頼んでみただけ」
「…堪能…」
(これ以上は困るのですが…)
不穏な単語が出たので彼女は困惑しながらこんな事を言い返したかったが口にするとなんとなく嫌な予感がして飲み込んだ。
「気にしなくていいよ。ティニーは既に王子妃教育は頭に入ってるでしょ?
だから早めに切り上げても問題はないと思うし余った時間で蔵書室とか行かない?」
(し、城の蔵書室…まだ読んでなかったのもあるんだよねぇ…あぁ行きたい…でもなんかこのまま誘惑に負けるのも嫌だしなぁ…でもここでしか読めない本がぁぁぁ……)
かなり悩んでいたかと思えば少ししてから悔しそうに唇を噛んだ。
この時の彼女は我欲との戦いで泣きそうになりながら悩んでいてその姿も可愛くて彼は彼女が答えを出すまでの間は黙って見守っていた。
「…行く」
流石にこの誘惑には勝てなかった。
彼女を観察している間に本に興味がありそうなことをなんとなく察していてこの日も蔵書室という彼女にとって魅力的な単語を餌にするとしっかりと釣れたので暫くはこれでいってみる事にした。
「よし!決まりだね。あとは私が寂しいからまたお泊まりしようね。
これは蔵書室に行くなら決定事項!そしたら次の日も時間を作って一緒にいられるね」
「それはなんだか宜しくないような…」
「大丈夫だよ」
意味深に話す彼は彼女の耳元に顔を近付けると周りを警戒しながら静かに口を開いた。
「あとは…君にどうしてもやって欲しい事があるんだけど…」
「……それはどういう…」
「ここではちょっとね…」
不思議に思いつつも彼がやんわりと言葉を濁したので彼女も仕方なく時間を作る事にした。
「この後は少しだけお時間ありますか?」
「何?デートのお誘い?」
確かに捉え方によってはデートのお誘いにも聞こえる事に気付いた彼女は真っ赤になりながら慌てた。
「ち…違っ…話があるだけです」
「わかった。本当に可愛くて見てて飽きないなぁ…ずっと泊まらない?」
「からかってますよね?」
「違うよ。可愛いから反応を見てるだけ」
慌てる彼女に対して楽しそうにクスクスと笑う彼の姿を見ながら完全にからかわれている事に気付いた彼女は拗ねていた。
彼からするとその様子も可愛くてどうしようもなかった。
二人は食事を済ませると人払いをして寄り添うように座り話を始めた。
「さっきの話だね?」
二人きりになり彼女が頷くと彼も真剣な表情になっていた。
「わかった」
軽く深呼吸をした彼は世界樹のいるあの空間を見た後に場所を移して彼女が目を覚ます前に聞いたエーデルオーク侯爵家の話をすると彼女は寂しそうに俯いたので彼はそっと彼女の手に自分の手を添えると空いてる手で頭を撫でた。
「大丈夫だよ。今回は今までと違うからね。
もし私に魔法を掛けるならそれは不要なものだから解除しても問題はないんだ。
そもそもの話であいつが君といることを許してるんだから私の反応がおかしいと気付いたら君は他の事は気にしないで私を信じて安心して私に掛かった魔法を解除すればいいんだよ」
「…わかりました…」
「私は私の全てでティニーを愛する事をユグドラシルに誓ったんだから君は何も不安に思わなくていいからね。
あの場所には陛下と君の父君が居たけど覚えているのは恐らく私と君だけだと思う。
前回は弟も覚えていたけど魔物の襲撃がないから今回は恐らく覚えてないと思うんだ。
だからこれは二人だけの秘密にしよう。
今回の君は何も考えずただ私に甘えてくれればいいんだからそんなに寂しそうにしなくていいよ」
アズライルが不安そうにするディスティニーをギュッと抱きしめると彼女はなんだか心に温かなものを感じていた。
「…本当に…全て覚えてたんだ…」
「安心していいよ。全て覚えてるからね。君を初めて抱きしめた時の感覚もしっかり覚えてるし添い寝しながら君を抱き締めたり頭を撫でたりしてる時や少し気を許した時に君が可愛らしく威嚇した時の顔とかも全て覚えてるよ」
楽しそうに話す彼を見ながら彼女は初めて一人ではないと感じて少し泣きそうになっていた。
「…意地悪ですねぇ…」
「確かに…何もない時の私は別の意味で意地悪なのかもね?
未だに君の反応が可愛らしくてそれがまた楽しくて仕方ないんだ」
軽く茶化すように話すと彼女は俯いたまま困ったように眉尻を下げたが顔を上げて彼と目が合った彼女は嬉しそうに目を細めて微笑んでいた。彼は初めて見る表情に少し驚いたがそれ以上に嬉しくなっていた。
「初めて君の笑顔を見た気がする。凄く可愛いから私の前だけでもっと見せてね?」
「一応は気を付けますけど…」
また彼が甘く微笑むと彼女もなんだか照れてしまいほんのりと頬が染まるのを感じた。
「それなら私が腕の中に隠すから安心していいよ。これからも君の笑顔を独り占めしないとね」
「それはそれで怖いからね?」
(本当に甘いのは…なんだかお腹がムズムズして落ち着かないからやめて欲しいのに…その辺りは無視されてる気がする…)
彼の一言でなんだか嫌な予感がして一気に冷静になった。
この頃になると彼女も少しずつ彼の事がわかってきてこのように独占欲を出す時は軽い口調だが大抵は目が本気で困っていた。
「んー、いずれこれが当たり前になるかも?」
「…」
「逃さないよ」
「お願いだから程々で!」
「程々ねぇ?一応は考えてみるね」
彼の笑顔になんとなく不穏なものを感じた彼女は『これさえなければ』と思い眉尻を下げた。
それから時間の許す限り二人は寄り添いながら初めてお互いの様々な話をしていると彼は少しずつでもやっと距離が縮まり始めたのだと感じていた。
ここまで読んで下さって有り難うございます。
婚約者で過保護+溺愛=冷遇されるよりはいいのかな?というようなノリで書いてます。
このまま何事もなく上手くいくといいなぁ…書き手側ですが誤字確認ついでに読み返しながら読者目線になってますので皆様と一緒に楽しんでます。
やはり個人的にこれくらいの文字数が読みやすい氣がしますが…書くと文字数が増えるんですよねぇ…。
いつも長文にお付き合い下さる皆様に感謝しかありません。有り難うございます。