3ー②
「…あれ…ここ何処?なぜ…ここに…?」
寝起きでぼんやりとする意識は見知らぬ天井を見て急速に覚醒した。
慌てて状況を把握しようとすると隣で眠る気配に気付いて確認すると数刻前に熱烈アピールをしてディスティニーを疲れさせた張本人だった。
とりあえず起こさないようにと気遣いながら離れようとするとまたもやギュッとされたので起きているのだと思い脇腹を擽ってみると目は閉じているがくねくね動き始めたので隙をみて素早く離れようとすると手首を捕まれた。
「毎回起きてますよね?」
「離さないって言ったよね?」
「…」
ディスティニーはジト目で、アズライルは甘く微笑み、お互いに睨み合いをした。
「ああ、そうだ…父様には伝えてあるから安心していいよ。
君が倒れてとりあえず安全なここに連れて来たって話すと納得してくれたからね」
なんとも胡散臭い話だが彼はこう見えて根回しが上手そうな気がしたので彼女も諦めた。
「それで?いつまで閉じ込めるつもりですか?」
「んー、一生?」
「へ…!?」
とても楽しそうに不吉な言葉を口にした彼に引いた。
「冗談だよ?」
(え?『本気』って聞こえたのは空耳?目も本気だったような?本気ならちょっと…)
彼はふふっと楽しそうに笑うがディスティニーはこの王子については全く信用してなかった。
「貴方の冗談は怖いので本当にやめてくださいね?精神的に宜しくないですよ」
「じゃあ本気ならいいんだね?」
いきなり真顔で言われてもこれはこれでかなり困るものがあった。
「何をするつもりなのですか?」
「そうだねぇ…ちょっと喧嘩してみようかと…私の妻に手を出すんじゃないとか?」
「その喧嘩を売る相手を聞くのが怖すぎますから今は聞きませんけど…危険な事はやめてくださいね」
相手は絶対に世界樹なのは確定してるので答えを聞くまでもなく彼女は青ざめていた。
「じゃあ君は私を好きになるしかないよね」
「じゃあの意味がわかりません」
「その前に頑張って惚れさせるから安心して任せていいよ」
「…不安しかありませんからね…」
話しながら少しずつ離れていた彼女をまた抱き寄せると彼は幸せな気分になり髪を撫でた。
「この髪も愛しいなぁ…」
髪に口付けを落としながら彼は本当に愛しい婚約者を手放せなくなった。
「…なんか甘いよね…調子狂うからやめてほしいんですけど…」
調子に乗らせないように頑張って平静を装っていた彼女も流石にこの甘さには耐えきれず恥ずかしすぎてか細い声で必死に反論してると彼はすぐにその様子に気付いていた。
これだけでも彼の離れたくない気持ちを煽り逆効果となっていたのだが人とあまり接することがない上に恋愛経験ゼロの彼女は全く気付いてなかった。
「…可愛すぎる…ねぇ、ティニー?君を好きにさせようと思っているのに私ばかりが好きになりすぎてるんだけどさぁ…これ以上に煽られると本当に困るよ?
そろそろその可愛いすぎるその仕草や言葉をやめない?」
「…えっ?可愛い?」
突然の話に『何処が?』と表情で語ると彼は困った。
「そこまでしていて無自覚なんだねぇ…私の前ではいいけど…本当に可愛いから私の居ない時に他でやらないでね?
あー、そうだ!心配だから今後は公務も全て一緒にしようね」
突然過保護が炸裂して彼女も戸惑う事しか出来ず更に公務までとなるとギョッとした。
「それ駄目だと思います」
「…それ!それならいいよ。他ではちゃんと塩でいなさい」
「塩…わかりました」
(…なるほど塩ね?)
彼からの指摘を素直に聞きながらも彼女からするとよくわからなかった。
一応頑張って解釈してみると他では素っ気ない態度でいいと思えてそうする事にした。
「…でも、おかしい…」
「何が?」
「殿下にも塩対応をしてる筈なのに…何故か絡まれるのですけど…一体なぜなのでしょうか?
皆様と同じ対応の筈なのに…これはおかしくないですか?」
「ティニーが可愛すぎると私には塩が砂糖になるんだよ。
あと私にはアズって呼んでね?そしてもっと砕けて話そうね」
彼は上機嫌でヨシヨシと彼女の頭を撫でると彼女はまた戸惑っていた。
「殿下、流石にそれは無理です」
「無理じゃないよ?私は既に親しみを込めてティニーって呼んでるし。ほら呼んでみて?」
「…」
顔を覗き込まれるとなんだか恥ずかしすぎて目のやり場に困り顔を逸らした。
「そっかぁ…じゃあ暫くここにお泊まりだね?これはこれでいいねぇ」
「えっ?」
突然のぶっ飛んだ展開に耳を疑った。
「父様や侯爵には適当に伝えればなんとでもなるし…ティニーがそうやって私の名を呼ばないなら暫く滞在してもいいと思うんだ。
とても名案だと思うから気が向いたら呼んでね?これからも一緒にいようねぇ」
「なんだか良くないと思うのですけど…」
「じゃあ呼んでみて?そしたら考える」
「…アズ…ライル様」
「それは反則!ちゃんと呼びなさい」
「アズライル様」
「うん、もう一押し!頑張って」
「…うう…アズ…様…」
なんとか短縮出来たが何故かとてつもなく恥ずかしくなると真っ赤になっていた。
「はい。よく出来ました。帰るまではそうやって呼ぶんだよ?」
「…恥ずかしいです」
「やらないと帰さない」
「頑張らせて頂きます」
帰れないのは困るので仕方なかった。
「ティニーは偉いねぇ」
またヨシヨシと頭を撫でられていると彼女はこのヨシヨシが少し好きになっていてなんだか気持ち良くなると安心してしまってうっかり目を閉じていた。
「また眠っちゃったね。それだけ体と心が疲れすぎてたんだね…私の腕の中でゆっくり休んでまた笑顔になるんだよ?」
またヨシヨシと頭を撫でると彼女も幸せそうにしていて思わず彼もほっこりした。
(さて、頼りない大人達を好きにさせない事は前提として俺は俺でちゃんと頼って貰えるようにしないと…)
可愛すぎる未来の妻の寝顔を堪能しながら彼は彼女がまた世界樹に捧げられないためにもやるべき事は何かをしっかり考えて行動する事にした。
(それにしても可愛いなぁ…俺って今までこんなのを平気で放っておいたの?
魔法を掛けられていたとしても今までド阿呆じゃん…あぁ…過去の俺を殴りてぇ…)
もっと早くに知って溺愛したくなったアズライルは自分自身に腹立たしくなっていた。
余程疲れていたのかそれから彼女は食事もせずに丸1日眠り続けていてそのせいか起きた時に今まで感じた事がない程に体がとても軽くてスッキリしていた。
耳元で寝息が聞こえたので見ないように目を閉じたまま寝返りを打とうとしてこっそりと離れようとしたらくるっと回されて口が当たってしまい動揺して急いで離れようとしたが離してもらえなかった。
「まさか君からのキスで目覚めるとは…お返ししてあげるね」
起き抜けでも彼の甘さは絶好調で極上の笑顔を向けられてしまうと彼女は更に動揺して頭が真っ白になっている間に彼はその唇に軽く口付けを落とした。
「お返しだよ。ティニーおはよう。もう帰さなくていいよね?」
突然の彼の暴走に彼女は慌てて青ざめながら必死に首を振って訂正した。
「今のは事故です!不可抗力なんです」
「そんな無粋な事はいいよ。それよりもほら呼んでみて」
「アズライル様…」
「また戻ってるなら暫くは帰さなくていいね」
「アズ様」
「はい。よく出来ました…帰したくないけど帰さないとね。
ティニーは必ず二人の時にはアズって呼ぶこと!そうでなければ帰さないよ」
「わかった」
帰れないのは本当に困るので彼が帰してくれるまでは仕方なくアズ呼びを頑張ると今まで感じたことのない妙な疲れが出ていた。
「ティニーは可愛すぎるね。早く慣れてしまえばいいんだよ?」
「…慣れる…のかなぁ?」
慣れたらそれはそれで先が大変そうだと感じて困った。
「慣れてね?」
(まさかの強制か?)
この時の彼の圧には嫌な予感しかしなかった。
「ティニー大好きだよ。この婚約は確実に解消されないなら私はこれを利用して君を守るから遠慮しないで頼ってね」
「あ…有り難う」
少し照れながら不器用な礼を口にすると、やっと少し素直になったと感じた彼は安堵して解放した。
ここまで読んで下さって有り難うございます。
ここでは裏設定等について話してきましたが特に何もないので評価について。
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個人的に☆評価の前の広告がエロ系多くて評価を勧めるのは胃が痛いのでご理解頂けると有り難いです。