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3ー①


「…戻った…のか?」


 アズライルはまた自分の部屋のベッドで目覚めると意識がぼんやりとしたまま呟いていて自分の手を見ると小さくなっていた。

 起き上がると部屋は大きくてとても広く感じて近くには子供の玩具もあった。

 鏡を見るとやはり子供の頃の自分の姿に戻っていた。


「…夢…ではなさそうだな…」


 未だ信じられない気持ちはあるが頬を軽く叩くと妙な実感があったので間違いなく戻っていると確信して今までの悪夢は全てが世界樹(ユグドラシル)の力で何度も巻き戻った結果だと思うと全てが腑に落ちて納得がいきこれまでのことはやはり現実だったのだと理解すると改めて気を引き締めた。


「よし…まずはティニーだな…彼女は今はどうなってるんだ?」


 メイドが入って来て身支度の手伝いをしてもらうと彼のスケジュールを管理する侍従が来た。


「今日の予定は?」

「はい、本日は建国歴815年。春の第一の月の3日でございます。

 本日のご予定は陛下よりのご指示でアズライル様の婚約者様との初顔合わせとなりますのでお支度をお願い致します」


 暦は春夏秋冬の女神が治めるとされていて春から秋にかけては各3ヶ月ずつあり冬だけは4か月ある計13ヶ月で成り立っていた。

 一月(ひとつき)は28日なのだが冬だけは5年に一度だけ最後の月が29日となっていた。

 そして春の第一の月が意味するのは冬が終わり雪解けの時期を表していた。

 この日はディスティニーとの顔合わせの日でアズライルは彼女に記憶があるのか気になった。


「ご機嫌よう。君はディスティニー嬢だね。僕は第一王子のアズライル・イグドラルです」

「初めまして第一王子殿下。私はエーデルオーク侯爵家の長女。ディスティニーと申します」


 挨拶を済ませると彼はすぐに人払いをして二人きりになると緊張しながら彼女の様子を慎重に見ていた。


「ディスティニー嬢。君とは出来るだけ仲良くしたいんだけど…」


 今までと全く違う様子に驚いたディスティニーは一瞬だけ目を見開いた。

 アズライルはその様子を見て確信しながら安堵して小さく息を吐いた。


「良かった…その様子だと君はユグドラシルの事を覚えてるよね?私も覚えてる。

 あの時の宣言通りこれから私なりのやり方で君を幸せにするから宜しくね。

 これはユグドラシルも承諾してくれたことだからもう遠慮はしないよ」

「やはり記憶が…感情を寄越さず来るなと言ったのに…無鉄砲が過ぎます。

 貴方もあれだけ必死に情報を得ようして知った筈なのに…命が惜しくないのですか?」


(あぁ、また君はこんな顔を…)


 好きな人から眉尻を下げて溜め息混じりに話をされた内容がせつなくて彼は先の未来に危機感を持った。


「惜しいも何もないよ…好きな女性が目の前で悲しそうにしながら他の奴のもとに行くなら全力で阻止するだけだから。そもそも私は懐に入れたら譲らない主義なんだよ。

 君を王族が保護するって事なら君は既に私と一緒になることは確定してる。

 それならこの立場は利用できるから絶対に逃す事はしないし全てが終わる瞬間まで君を離すつもりはないよ」


 ふふっと微笑みながらとんでもない事を話す彼にディスティニーは困惑しかなかった。


「確かにユグドラシルは許可しましたけど…私が嫌になれば迎えに来てくれるそうですよ」

「勿論あの場所に行きたくないって思える程に君の気持ちを私に向けさせるのは前提の話だから君も覚えていてね。

 それを踏まえてこれからは以前に出来なかった事をしながら君を守る事にするよ。

 そうだなぁ…折角だし婚約者としての立場を利用すれば今後は遠慮しなくていいのは都合がいいよね。

 あとは…今までは避けてたけど今回は状況が全く違うし折角婚約者という最高の立場なら二人だけの時間は多めに作ってみようね」


 話しながら早速彼女の隣に座ると流れる動作で彼女の手を取り口付けを落としながら微笑んでいて彼女はその様子に驚いて思わず逃げ腰になった。


「あの話を聞いたらもう絶対に逃がさないし勿論ユグドラシルにも迎えに来させないよ。

 これからはスキンシップ多めで私に溺れさせてみせるから期待しててね」

「…」


(え?これをどう対処しろと?今まで全く経験もないのに…無理だよね?)


 その目を見るとかなり本気なのが窺えて更に動揺していた。


「駄目だよ?君はもっと甘える事を覚えなさい!わかった?」

「何故わかったの?」


 逃げようとした事を彼に気付かれたのでとりあえず尋ねてみたが彼はあえて返事はせずにフフッと楽しそうに笑っていた。

 彼女はその笑みの意味するところが未知の領域に足を踏み入れるような気がして怖くなっていた。


「今はまだ慣れないと思うけどこれからはこの距離が私達の普通になるようにしようね」


 既に彼の雰囲気は甘くなっていたが彼女からすれば今までの事があるので人と近付きすぎると怖くなってしまい今度は無意識で逃げ腰になってしまっていた。

 彼が話し始めてからずっと逃げ腰になっている彼女を逃さないように手をしっかりと握って離さないことで彼はこれからずっと絶対に逃さないと態度でも示そうとしていた。


「…が…頑張らなくていいです。私は今まで通り一人でいるのが気楽なので…どうか今回も放置で宜しくお願いします」

「今まではそうかもね。でも何も分からなかった以前と違って今は状況も変わってる。

 これからはこの距離が私達の距離だから君にはしっかりと覚えておいてほしいんだ」

「…なんだか…気後れして…」


 突然の事で全く慣れてない事が起こりすぎた彼女は精神的に限界を迎えるとここで手放してはいけないと思いつつ意識を手放した。


「えっ?ディスティニー嬢?」


 アズライルは慌てて使用人を呼ぶと父王には気付かれたくないからと話して彼の部屋に連れて行かせた。

 医師からはただの疲れだと言われてホッとしたが『また無茶をしたのでは』と思うと監視が必要だと感じていた。




*****




「アズライル、少しいいかい?」

「はい」


 珍しくアズライルの部屋に父王ノイリエスがやって来たがその顔は困ったような表情になっていた。


「令嬢を勝手に自分の部屋に連れて来てはいけないからね」

「えっ?既に婚約者ですよね?それなら親睦を深めても問題ありませんよね?」


 それっぽい理由を並べてキョトンとする息子にノイリエスは困った顔を向けていた。


「それはそうだけど…」

「父様にお願いがあります」

「なにかな?」


 どう話すか迷っている間に話題が変わるとノイリエスは内心では安堵した。


「先の事を考えて念のためにフルスコルにも王太子教育をお願いします。

 私はディスティニー嬢がとても気に入ったのでいざと言う時にあの子を守るためにも色々と根回しは必要だと感してますから宜しくお願いしますね」

「わかった。しかしあの子は…」


 ここで言葉を濁した父王には前回の記憶が無いのだと気付いた。


「なんでしょう?まさか会って間もないのに…もう白紙にでもするおつもりですか?」

「そうではない」


 とても気不味そうにしていたが前回ではディスティニーを平然と差し出したノイリエスを敵と見倣していたアズライルは知らぬ振りをして追い詰める事にした。


「では問題はありませんよね?私は少しでも彼女に気に入ってもらえるように努力するつもりなのでフルスコルの件もお願いしますね」

「わかった」


 秘密事が多いノイリエスは何も話せず仕方なく頷くしかなかった。

 これでもしディスティニーが王太子妃の座を嫌がったとしてもすぐにフルスコルに任せられるのでその後の自分は気楽に弟を支えれば良いと思い彼女が逃げられないようにこの時から少しずつ外堀りを埋め始めた。


「ティニーこれから君の退路は塞げるだけ塞いで外堀はしっかりと埋めるから安心して頼ってね。

 もう辛い思いは絶対にさせないから…そのうちに自分から頼ってくれると嬉しいかなぁ」


 眠る彼女の髪をそっと撫でながら彼女が起きていたら本気で逃げ出しそうな事を嬉しそうに話し掛けていた。

 彼女が眠る間は時間が空いて暇なのでアズライルも彼女が眠るベッドに潜り込むことにした。


「あぁ子供の体温って温かくてなんだか安心するなぁ…これはティニーだからかなぁ?

 本当に可愛いなぁこのまま居てくれないかなぁ…そしたら俺もずっとそばにいられるから余計な心配をしなくてもいいのになぁ…」


 この時から過保護の鬼になりつつあった彼はディスティニーを子猫にするような感覚で優しく抱きしめながら幸せそうな顔をしてこんなことを呟くとその温もりに安心していていつの間にか眠っていた。







ここまで読んで下さって有り難うございます。

ここからは謎が解けてディスティニーが人として幸せになれるようにアズライルが奮闘します。

温かく見守って頂けると幸いです。

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