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目覚めたら貧乏な男爵令嬢でした〜他人の世界の歩き方〜  作者: 帆々


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32.ジュリ王女


ジュリ王女は絵の授業を終えて、サロンに戻った。侍女たちが何やら声をひそめて話している。王女の姿にすぐに話を止め、お茶の支度に取りかかった。


王宮の侍女は、貴族の子女が行儀見習いと箔付けのために務めることが多い。王女の侍女たちも、出自の明らかな令嬢揃いだ。


「何を話していたの?」


差し出されたカップを受け取りながら尋ねた。問われ侍女は、ばつが悪そうで返事に詰まっている。


「なあに? わたしに聞かせられないような話なの?」


「いえ、そのようなことを王女様のサロンで話すことはございません」


そう答えながら、侍女は別の侍女へ視線を流した。


「だったら、早く話してちょうだい」


「噂話をしておりました…」


王女が聞き出したのは、巷で流行るある店の話だった。二、三人の同性の友だち同士で店に予約する。この時、中の一人は入店経験者であることが求められるという。


「何の店なの?」


「ティルームですわ。普通の」


別な侍女が答えた。


「普通のティールームが、行ったことのある者を連れないと入れないなんて、妙なところじゃない。それに、男女では入れてくれないの?」


「はい」


次女は頷く。


「そこでいただくお菓子がとてもおいしいのです。ちょっと珍しい感じで。軽めのお食事も出来て、それもとてもおいしかったです」


「そう」


舌の肥えた彼女らが言うのなら、相当旨いのだろう。食べることも大好きな王女は、興味を引かれた。


「あなたたち、行ったのね」


「わたしと、キャロルは行きました。今度ロゼリアも行きたいと言うので、その約束をしておりました」


「男性方がお帰りになった後で、女性だけにお料理やお菓子が出されるから、気を使わずにおしゃべりしながら食べられて楽しいのです。会の打ち明け話も出来たりして」


聞きながら、王女には疑問が多い。なぜ男性は食事が出来ないのか。そして、「会」とは何か。


その点をぶつけると、三人の侍女は黙り込んでしまう。普段は親しまれている自負がある。なのに、王族の自分が、年の近い彼女たちから敬して遠ざけられているのを感じ、面白くない。


「ひどいわ。わたしにだけ内緒にするの?」


「いえ、そんな。ジュリ様に秘密にする訳では…」


「クラリスさんには、絶対にご内密にしていただけますでしょうか?」


クラリスというのは、侍女のお目付の侍女長で、ハイミスの貴族令嬢だ。王宮での規律や礼節にとても厳しい。クラリスの機嫌を損ねると、最悪侍女をクビになってしまう。令嬢としての履歴に箔をつけるための王宮勤めであるのに、逆に大きな傷がつく。


「大丈夫。言いつけたりしないから」


王女が請け負うと、一人が話し出した。


『ブルー・ティールーム』というその店は、旨い料理も菓子も提供するが、別の売り物があった。むしろ、そちらが主だという。


「紳士の方とお会いできるのです。あちらも女と同じ数でいらっしゃるから、同じテーブルに着いてグループを作ります」


「へえ」


「ゲームをして、他のテーブルの方達と競ったり、男女で組になって一緒に物を作ったりするのですわ」

彼女たちの時は、人形の家を二人で組み立てたのだと言った。


「板や棒のバランスを見ての建て方などは、男の方って、やっぱりすごくお上手です。女の方は、色や飾り付けを任せてもらいます。三十分ほどの時間だけれど、目的があると話し易いし、相手のことも、ただお茶を飲むよりわかる気がします」


「ええ。舞踏会や音楽会では家族の目もあるし、お話し出来る方って、結構決められてしまっているから。『ブルー・ティールーム』はそういったこともなくて、気楽に時間を楽しめます。もし。次に社交でお会いしても、お互いにとっつきやすいと思いますわ」


すでに参加した二人の侍女は頷き合っている。


「ふうん」


と王女は応じ、


「でも、キャロルが気になった男性が、別のグループにいたらどうするの? 逆だってあると思うけど」


「その場合は、オーナーに伝えるのです。その日のグループ変更は無理ですが、次回、目当ての男性の申し込みがあれば、同じグループにしてもらえるのです。これは女性に限っての特典みたいですけど」


「だから、また行きたくなるのです」


予約制であるのも、女性客の注文になるべく応える目的もあるようだ。


(面白そう)


単純に王女はそう思った。


見合いめいた舞踏会や晩餐会などで、婿候補の男性に取り巻かれることはよくある。しかし、その男性たちは、彼女の執事や両親、そして従兄弟のアシュレイのお眼鏡にかなった者たちばかりだ。


家柄が良く資産があり、本人に問題がないこと。それらを条件に選びに選ばれた若者に、王女は慣れていた。


逆に言えば、


(それ以外は知らない)


侍女らが頬を染めて話す『ブルー・ティールーム』には、王女の知らない若者が集うのではないか。


(わたしに気づかない人だっているかも)


選りすぐられた者でないと彼女の側には近づけないのだから、十分にあり得る。


焼き菓子を咀嚼し終えて、彼女は言った。


「連れて行って、その『ブルー・ティールーム』へ。行きたいわ、わたしも」


「え?!」


三つのそれが重なった。


王女は侍女らの驚きに構わず、


「あなたたちだけで楽しむなんて、ずるいわ。連れて行きなさい」


「そんな、無理ですわ!」


「イーヴァおば様に会いに行くと言えば、ごまかせるじゃない。おば様なら、きっと口裏を合わせて下さるわ」


ちなみにイーヴァは降嫁した先王の妹王女で、ジークの母親だ。彼女にとって大叔母に当たる。


侍女たちは困った様子で目を見合わせている。大きな厄介ごとを抱え込でしまい、狼狽えているようだった。


「わたしも行ったのなら、同罪よ。絶対にクラリスばれたりしないように上手くやりましょう」


王女が微笑むと、侍女たちは観念したのかそれぞれ頷いた。


お読み下さりまことにありがとうございます。

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