トア、仲間が出来る
と言うわけで私、トアは今、元いた町から馬車で一週間ぐらいの町に移った。
前の町よりちょっと小さいけど、近くに稼げそうなダンジョンもあってなかなかいい感じです。
前の町の頼れるギルドのお姉さん、リリスさんに紹介してもらったんだけどね。
リリスさんは私が『白銀の剣』の婚約者の方々に絡まれた話をしたらすぐにこの町を教えてくれた。
リリスさんが悪いわけじゃないのに、『白銀の剣』を紹介したことを謝ってきたのだ。
そして、私の妹分を揶揄いやがってと非常にお怒りモードになりまして、そんなリリスさんのメンタルケアは同じ職場の人に頼んできました。
さて、今日は久しぶりに一人でダンジョンに潜る。
最近はあの三人と行くことが多かったからね。
まあ、楽しかったけどさ。
基本私は武器を持たない。
スキルに『張り手』があるからそれで敵を撃破している。
遠くの敵はどうするかって?
『張り手』ばっかり使っていたら、いつの間に張り手の時に衝撃波を出せるようになっていた。
レベルアップしていたらしい。
今もまた向かってきたイノシシに張り手を繰り出す。
鼻に一撃入れたら吹っ飛び、ドロップアイテムに変換された。
これ便利だよね、解体なんて出来ないしさ。
私はお肉に変換されたアイテムを拾って奥へと進んだ。
ここのダンジョン広いから今日はお泊りだな。
目当てのアイテムが見つからないからね。
私はスキル『ちゃんこ鍋』を使用していつものように温かいご飯をいただく。
やっぱりあったかいご飯を食べると元気が出るよね。
私が一人で鍋を食べていると何かが近付いて来た。
モンスターかと思ったけど殺気とかはない。
コロコロコロ
転がってきた何かは私の足にぶつかり止まった。
ボール?
私が持ち上げてみるとその何かが動いた。
目が合いました。
え? 何とって? もちろんボールみたいな生き物とだ。
クリクリお目目のその子は丸まって転がってきた『ドラゴン』だった。
ガツガツガツ
私の目の前で勢い良くちゃんこ鍋を食べているさっきのドラゴン。
鍋の中に頭ごといっている。
そんなにお腹空いていたんだ………私は同じくスキルで出したおにぎりを頬張ってみた。
すると新たな食べ物の匂いを嗅ぎつけたのか、ちゃんこ鍋を食い尽くしたのか、ドラゴンが私の方へ小さな翼でパタパタとやって来た。
私の食べかけのおにぎりを気にしている。
私は作っておいたおにぎりをそっとドラゴンに渡した。
ドラゴンは器用に小さい手でおにぎりを持ち、モグモグと大きめのおにぎりを頬張っている。
「君はどこから来たのかね? 」
私はようやくお腹いっぱいになったドラゴンに話しかけた。
返事なんて期待していなかったんだけど。
『ああ、ようやく力が戻ってきた。お嬢さんありがとう』
予想外に良い声で返された!
「へえ〜、ドラゴンの里から独り立ちですか? 」
『ああ、私も百歳を超えてそろそろ一人で出歩いても大丈夫だろうと許可が下りてね。このダンジョンには綺麗なエメラルドがあると聞いて探しに来たんだよ。ただね、ちょっと迷ってしまって、お腹が空いて力が出なくなっていたんだよ。お嬢さんがいてくれて本当に助かった』
「そうだったんですか、実は私も頼まれてエメラルドを探しに来ていたんですよ。もし良かったら一緒に行きますか? 」
『おお、良いのかい? 』
私は旅のお供が出来た。
「あ、遅くなりましたが私の名前はトアって言います。見た通り人間です」
『おお、こちらこそ失礼した。私はガルガンダイン、ガルと呼んでおくれ。ところでお嬢さんは人間だったんだね? 不思議な力を感じたが、スキルかな? 』
「ええ、たぶんこの常時発動しているスキルのせいだと思います。体型変わっているので」
『ほう、変わったスキルだね』
自己紹介の終わった私達はここで一泊して明日エメラルドを探すことにした。
一人に慣れないのか、ガルさんは眠っている間に私の胸元に収まっていた。
まあ、可愛いからいいか。
私は胸元のガルさんを撫でながら眠りについた。
『昨晩はすまなかったね、里ではみんな固まって寝ていたから………』
ガルさんが心なしか恥ずかしそうにそう呟いた。
「いえいえお気になさらず、私もなんだかよく眠れたので結果オーライです」
こんなやり取りの後に二人で朝食を食べて(ガルさんは朝からちゃんこを鍋ごといっていた)エメラルド探索に出かけることにした。
二人で探索すること二時間、ようやくお目当てのエメラルドを見つけた。
運良く複数見つけたので二人で山分けだ。
ダンジョンの外へ出るともう夕暮れ。
「ガルさん、私はこのまま自分の住んでいる町に帰りますがガルさんはまた旅に出るんですか? 」
『ああ、最初はそうするつもりだったんだが………お嬢さん、もし良かったらもう少し一緒にいても良いだろうか? お嬢さんの作るご飯は美味しいし、何よりお嬢さんの側にいるのは心地よいのでね』
「あは、ご飯そんなに気に入ってくれたんですか? まあ、ドラゴンでもそのくらいの大きさなら町に入れると思うし、私は良いですよ。でも、町で暴れたりしないで下さいね」
『ああ、もちろん、暴れたりしないさ。じゃあ、もうちょっと世話になるよ、お嬢さん』
こうして私に仲間が出来た。