何してんだよ!?
男しか入れない不思議なダンジョンでのクエストを終え、俺達は町に帰って来た。
宿に行くより、ギルドに行くより先に、三人一致でトアの元へと向かう。
「アトラス、お前、なんで獣化してるんだ? 」
俺とレインの前を堂々と歩くアトラス………何故か獣化済み。
お前、マジで今までの獣化姿隠していたの何だったんだよ。
しかもいつに間にか、トアにブラッシングしてもらう時に使っているブラシを咥えている。
『みょちゅろん、ちょあにぶりゃっしんぎゅしてもりゃうためりゃ』
ブラシ咥えながら喋っているから意味がわからない。
「はあ〜、何が『もちろん、トアにブラッシングしてもらうためだ』ですか。このタヌキ、いっそのことタヌキ鍋にでもしてしまいましょうか? 」
凄いな、レイン。
アトラスの言葉わかったんだな。
そしてタヌキ鍋は流石にやり過ぎだ。
トアが意外とタヌキを気に入っているから怒られる。
トアのアパートまでやって来た。
いつもならドアを叩けば直ぐに開けてくれるのに今日は反応がない。
もしかして一人でクエストに行っているんだろうか?
俺達がドアの前で立ち尽くしていると、隣の部屋から住人が出てきた。
「ん? あんた達最近トアちゃんと一緒にいたやつらかい? トアちゃんならいないよ」
やっぱり出かけたんだと思い帰ろうとしたら。
「三日前に出て行ったよ」
「「『は?!』」」
ゴトッ。
アトラスの咥えていたブラシが落ちる音が虚しく響いた。
話を聞けば三日前にこの町を離れることになったと挨拶しに来たと。
俺達は呆然としながらその話を聞いていた。
「なんでだよ、トア〜〜〜」
獣化を解いたアトラスが泣いている、いやマジで涙を流している、さらに言えば号泣だ。
「っく、トアさん、トアさん、トアさん……………」
レインがトアの名前をエンドレス呼んでいる、これがいわゆるダークサイドに落ちるっていうことか。
………いや、違うな、これは幼子が親を探している感じのアレだ、レインも泣いている。
かく言う俺は、ああ、勝手に目が潤んでくる。
涙を落とさないよう上を見る、うう、空の青さが目にしみる。
たぶん周りの奴らは俺たちの姿にドン引きだろう。
誰も近寄って来ない。
………と思っていたら空気を読まない奴だろうか、誰かが近付いて来た。
「うわー、ギャン泣きじゃん」
「え? 泣いているのなんて初めて見たわ」
「え〜〜〜、ナニコレ」
なんか聞いたことがある声がする。
声の方へ視線を向ければ………なんでこんなところにいるんだ?
どうやら俺の心当たりの声以外の二人は、アトラスとレインの知り合いらしい。
「なんでこんなところにいるんだよ」
俺が尋ねたらアトラスとレインも同様に尋ねている。
っていうか、あんた達知り合いなのか?
「え? なんでって………そりゃ、アレよ、心配だったから」
「心配? 今さらなんで………それにそっちの二人とも知り合いなのか? アトラスとレインの関係者っぽいけど」
「あ、ま、まあね。ちょっと目的が一緒みたいだったから」
「目的?」
するとアトラスが何かに反応した。
「おい! なんでお前達からトアの匂いがするんだ?! かなり薄いけど絶対会っているよな? 」
は? トアになんで………。
まさか、トアに何か余計なこと言ったのか?
「………おい、トアに何をした? 」
俺とレイン、アトラスはそれぞれ女性を威嚇した。
全部吐いてもらおうか?
「へえ〜、それで何も知らないトアに言い掛かりをつけて、この町から追い出したと?」
「いや、追い出したってわけじゃ………本人から出て行くって……」
「当たり前だろ! いきなり出てきた婚約者を名乗る奴に誑かしたとか言われたんだぞ!そりゃ出て行くだろう! しかも、たぶんトアの中では俺達、婚約者がいるのにトアに引っ付いていた浮気者って思われている可能性が高い」
「「浮気者………」」
レインとアトラスがこの世の不幸を全部背負い込んだような顔で呟いた。
「おい、お前ら、ちゃんと全部トアに会って説明しろ………。このまま俺達だけでトアに会ってもトアは俺達が婚約者を放ったらかして、トアを口説いていたクズだと考える。………トアにそんな目で見られるなんて想像だけで死ねる」
「ヴィン、あなたあの子のこと本気なの? 」
「当たり前だろ! そうじゃなきゃ家に手紙なんて出さない」
俺達のやり取りを聞いていた他の二人が口を挟んできた。
「え、レインも手紙で本気って」
「アトラスもだよ」
「三人を手玉に取るなんてやっぱり誑かしているんじゃない! 」
「「「違う! 」」」
俺達の迫力に引いている。
「トアが俺達にくっ付いているんじゃなくて、俺達がトアにくっ付いているんだ! トアは俺達のことを全然意識していない。だから………こんなに簡単にいなくなってしまったんだ」
ヤバい、また泣きそうだ。