絵面の問題
最近、『白銀の剣』のメンバーの人たちがおかしい。
「トアさん、こちらを召し上がって下さい」
そう言うとレインさんが私の口元に美味しそうなお菓子を持ってくる。
流石にレインさんに食べさせてもらうのはどうかと思ったから断ろうと口を開けば、その開いた口にお菓子を押し込まれた。
モグモグ………美味です。
私が美味しいと感じたのがわかったのかレインさんが微笑んだ、その笑顔が眩しいです。
『トア、今日もよろしく〜』
慣れた様子で、獣化したアトラスさんが私に咥えてきたブラシを渡してきた。
アトラスさん、あなた確か人に獣化姿見られるの嫌がっていましたよね?
なんで普通にギルド内に現れているんですか?
そんなアトラスさんだが、見た目が可愛らしいタヌキの為、女性冒険者にたまに触られそうになっている。
だけどタヌキ姿のアトラスさんは触られそうになるとめっちゃキレる。
今では私にだけ懐く、私のペットだと思われているらしい。
同じ獣人だとタヌキがアトラスさんだとわかるらしく、私に大人しくブラッシングされている姿を見ると二度見どころか五度見ぐらいされている。
「トア、今日は一緒に作ろう」
ヴィンさんは私が作るご飯をとっても気に入ったようで、最近は一緒に料理までしようとする。
前世ではまったく料理なんてしたことなかったが、今は楽しいとのこと。
今世でも、料理の手伝いもしたことないとのことだったので、もしかしたらどこか良いとこの坊ちゃんなのかもしれない。
料理を一緒にするのは良いんだけど、いちいち行動が甘いんだよね〜。
「トア、これは重いから俺が運ぶよ」
「トア、これ味見してみてくれよ………あ、これって間接キ………」
「トア、本当に美味しいよ。これからも俺にご飯作ってくれ」
………新婚さんか?!
とりあえずみんな冷静になってほしい。
私と彼ら、やってる事はヒロインとヒーローのイチャイチャ………しかしその実態は、デブとイケメンのコントだ。
いや〜、絵面が良くない。
私の立ち位置に是非とも可愛い女性を置きたいものだ。
そんなことを考えていたからだろうか、数日後ヒロイン達が現れた。
ここ大事なところだからもう一度言います、『ヒロイン達』だ。
その日、ヴィンさん、レインさん、アトラスさんは久しぶりに三人でクエストに出かけていた。
ギルドからの依頼で男性だけが入れるっていう不思議ダンジョンに行ったのだ。
私は一人、別のクエストを受けようとギルドに向かったのだがその途中で呼び止められた。
「ねえ、あなたがトアでしょう? 」
私の目の前には三人の女性。
私より年上の綺麗な女性、妖艶な美女、可愛い同じ年ぐらいの女の子。
それぞれタイプは違うがみんな女性の魅力に溢れた人達だ。
でも、こんな人達この町にいたっけ?
「聞いたわよ、『白銀の剣』のメンバーを誑かしたって」
綺麗な人達に睨まれてしまった。
しかし、誑かしたと言われても困るのですが。
「えっと、私がトアで間違いありませんが、どちら様ですか? 」
「ヴィンのあ………」
「レインのは………」
「アトラスのい………」
それぞれ途中で止まってから揃って。
「「「婚約者よ! 」」」
と叫んだ。
仲良いな。
よく話を聞いてみれば、それぞれ本人達から手紙で近況を知り、私が誑かした思って会いにきたそうな。
お疲れ様です。
「あの、見れば分かると思いますが、私と彼らじゃつり合いませんよ。たまたま一緒にクエストをやって、上手くいったからそれからも何回かクエスト一緒にしているって話なんで。まあ、でも婚約者さんがいるのにこんな体型でも女子がメンバーに臨時で入るのは気分的に悪くなりますよね。そこは申し訳ないです。以後無いようにするんで」
私はそう婚約者さん達に伝えた。
「そ、そう、わかれば良いのよ」
「うーん、もしかして本当に気に入っていただけ? 」
「なんか良い人っぽい? 」
三人が最初の勢いをなくしている。
よし、この隙に撤退するか。
やっぱりイケメンが絡むと人間関係が複雑になるね〜。
ほとぼりが冷めるまで違う町を拠点にしようかな。
「とりあえず、これからは彼らと一緒には組まないので。あと、婚約者さん的に安心出来るようにちょっとこの町離れますね。じゃあ、失礼します」
なんか呆気にとられている三人を残して私はギルドに向かった。
ちょうど良いクエストないかな〜。
受付の顔馴染みのあのお姉さんに聞こうっと。
この後私が良かれと思って町を出た事が、あんな事になるなんてこの時の私はまったく、これっぽっちも考えていなかった。