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アトラスの場合

 最近レインがおかしい。




 俺たちは人間のヴィン、吸血鬼のレイン、そして獣人の俺の三人パーティーだった。

 だけどある日、ギルドでクエストを受けようとしたらギルドの奴から役に立つから連れて行けと、トアを紹介された。

 俺たちは実力もあると自負していたし、見た目も自分で言うのも何だが整っている方だ。

 だからよく冒険者の女性からパーティーに入れて欲しいと言われてきた。

 正直、そんな奴を入れたって上手くいくわけない。

 昔、断り切れずに入れた回復術師のジョブの女は俺たち全員に粉をかけて、全員にこっ酷く振られ、これから回復役が必要だって時にいなくなりやがった。


 そんなことがあってからはこのパーティーに誰かを入れるのは躊躇っていたが、やけにギルドの受付が推してくるから今回だけってことで受け入れた。



 いや〜、あの時断らなくて良かった。

 トアは普通の女と違った。

 護られるようなものじゃなくて護る方だった。

 しかも、メシが美味い!

 ダンジョン内で温かい美味いメシを食えるなんて、それだけで入れた甲斐があった。

 けどトアはそれだけではなく、結界も張れるし、紙装甲のレインの盾にもなれた。

 きっとレインは、護られているうちにトアに懐いたんだな。



 そんなトアだけど、女だが非常に体格が良い。

 でも、機敏なんだよな〜。

 あと、なんかイイ匂いがする。

 他の女は香水なんかの匂いがして、獣人の俺からしたら臭いんだが、トアはなんかよくわかんないけどイイ匂いがする。

 ただ、何故かはわかんないけどそのイイ匂いが薄いんだよな………普通もっとわかるんだけどトアの匂いはイイ匂いだけど薄い。



 ある日俺は一人で狩りに出かけていた。

 たまに無性に狩りに行きたくなる、これは獣人の習性だからしょうがない。

 そういう時はパーティーじゃなくて俺だけで出かける、みんなも理解してくれている。


 そして何よりたまに獣化しないとなんか調子が出ないのだ。

 俺は森の奥で狩りに勤しむことにした。

 誰かに見られるのは嫌だからな。


 俺は獣化して近くにいた鳥の群れを狙うことにした。

 別に獲物は何だって良いんのだが、土産として美味いものがいい。

 今日はあれを獲ってトアに料理してもらえば良い、トアの料理は何でも美味い、特にあの『ちゃんこ鍋』っていうのは俺のお気に入りだ。


 俺が鳥目掛けて突っ込むと、何故かボーンっと弾き飛ばされた。

 なんだ? と見ればそこには何故かトアがいた。

 俺を見たトアは一言。


「タヌキ鍋って美味しいのかな? 」


『俺を食べるなーーー! トア! 』


「うん? 何で私の名前知ってるの? もしかして普通のタヌキじゃない? 」


 しまった!

 トアの衝撃の一言にうっかり喋ってしまった。



 そして何故か俺は今トアに抱っこされている。

 俺、成人男性。

 いや、まあ、今は獣化して見た目タヌキだけどさ。

 トアは非常に満足そうに俺の毛を撫でている、いや、まあ、気持ちいいけどさ。



「ヘェ〜それで獣化して狩りをしていたんですか〜」


 トアにはすぐに俺がアトラスだと言った。

 食べられるわけにはいかないからな。

 逃げようかと思ったけど、こいつめっちゃ速かった。


『お前、俺がタヌキの獣人だからって馬鹿にしないのか? 』


 今まで俺がタヌキの獣人だと言うと、大抵馬鹿にされた。

 冒険者をやっている獣人と言えばオオカミや熊などの戦闘力特化の奴が多いから、俺みたいなタヌキが冒険者って言うと、戦闘で役に立つの? と言われ続けてきたから。


「馬鹿になんてしないですよ。だって実際にアトラスさんと一緒にクエストだってやっているんですよ? どこにも馬鹿にする要素がありません。むしろ私としてはこの姿はご褒美ですね。いや〜、本当に良い毛並みですね。今度ブラッシングとかさせてもらえませんかね」


 なんだよ………気にしてた俺が馬鹿みたいじゃないか。

 俺は気が抜けたのかトアに体重を預ける。

 するといつもよりトアの匂いを感じた、やっぱり薄いけどイイ匂いがする。



「ふむ、不可抗力とはいえアトラスさんの隠していた獣化姿を見てしまったので私も本来の姿をお見せしますか? 」


『は? トアも獣人だったのか? 』


「いえいえ、私は普通の人族ですよ。ただ………今はスキルでちょっと姿変えているんですよ。別に隠しているつもりはないんですが、この姿の方が強いので。ちょっと待ってて下さいね、今スキル解除するので」


 トアがそう言うと、俺をそっと地面に下ろした。

 その後すぐにトアの身体が光り出した。

 光りがおさまるとそこには細っそりとした、トアとは真逆の体型の女がいた。


『な?! と、トアなのか? 』


「そうですよ〜。いつもはスキルであの体型になっているんです。便利なんですよ? 防御力半端ないですから。それに攻撃力も上がるんですよ、今度一緒に冒険出ることがあったらお見せしますね」


 一体どんなスキルなんだ………。

 ん? あれ? トアがスキルを解いた途端、今まで薄くしか感じなかったトアのイイ匂いが急に感じられるようになった。

 もしかしてあの体型の時は匂いが抑えられるのか?

 俺はフラフラとトアに近付いて行った。

 っく、本能が抑えられん。

 俺はトアの足元をグルグル回り始めた………俺は何をやっているんだ!


「どうしたんですかアトラスさん。あ、もしかして疲れちゃいました? やっぱり人に獣化姿見られちゃったのが負担でしたかね? 」


 そう言うとトアは俺を抱き上げ撫で始めた。

 ………なんだコレ………なんか良くわかんないけどスッゲー気持ちいい。

 さっき撫でられていた時も良かったけど、今はさっきよりもなんだか幸福感がある。



 俺は本能に抗えず、そのままの状態で町に戻るハメになった。




「アトラス、あなた何しているんですか? 」


 レインが聞いたことのないような冷たい声で俺に話しかけてきた。

 トアは獣化したままの俺を隠すように抱きしめ、俺たちが泊まっている宿まで運んでくれた。

 トアは町に入る時にまたスキルであの姿になっている。


 レインはトアから俺を取り出すとベッドにポイっと投げ飛ばした。


『なんで投げんだよ! 』


「躾のなっていないタヌキにはこのぐらいがちょうどいいです」


 俺とレインが睨み合っているとトアがなだめてきた。


「二人とも落ち着いて下さい。私がアトラスさんの秘密を見ちゃったのが悪かったので責めないであげて下さい。それじゃあ、私は帰りますね」


 そう言ってトアが去って行こうとしたので慌ててレインが宿の外まで見送りに行った。



 もしかしてレインってトアのこと本当に好きなのか?

 ………なんかモヤっとするな。

 俺はその後も獣化したままでベッドの上を転がっていた。

 トアを送って帰ってきたレインにベッドが毛だらけになったのを怒られた。



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