ガルさんの期待通り?
「ガルさん、どうやらガルさんの期待に応えられるかもしれませんよ? 」
「もしかしてドキドキの展開かい? 」
そう、ガルさんの望むドキドキ、ワクワク、そしてドロドロの展開の予感。
私的にはそんなの望んでないんですけどね。
私とガルさんがいつものようにクエストをしようと町の外に出たら、道を塞ぐようにある一団が現れた。
こんな場所には不釣り合いのドレス姿のご令嬢と、それに付き従うようなメイドと執事、そして護衛。
完全にあの三人のうちのどなたか関連でしょうね。
このまま無視して行っても良いんだけど、また出てきそうだから一回目は相手しとこう。
「何か御用ですか? 」
「は! 何か御用ですか? じゃないわよ! アトラス様に取り入っているっていう人間があなたでしょう? 本当に信じられないわ、なんでこんなのを………」
悪口言われた。
初対面なのにこの言い草、関わりたくない人種だ。
「はあ。それで御用件は? 」
「ふん! そんなの一つだけよ! あなたアトラス様から離れなさい! 」
「………離れてますけど? 」
私の言葉に何故か怒り出した。
「そういうことじゃないわよ! アトラス様はね、私と番うのよ! そう決まっているの! 」
「はあ、おめでとうございます? 」
「ええ、ありがとう………じゃなくて! なのに急にあなたが出てきたものだから、アトラス様は家を出るとまで言っているのよ! そんなのあんまりじゃない。いくら獣化した姿がタヌキでも、アトラス様は由緒ある家の方、それが家を出て、ましてやこんな姿の人間と一緒にいたいだなんて………あなた魅了でも使ったんじゃないの? ええ、きっとそうよ………なら、ここであなたを倒せばきっとアトラス様は正気に戻ってくれるはず。そうすればこの私、狼獣人の高貴な姿の私を絶対に番にしたくなるわ! さあ、お前たち、そこのアトラス様を惑わす人間をやってしまいなさい! 」
おお、なんて見事な悪役令嬢っぷり。
これはきっとガルさんもウキウキしながら楽しんでいるはず………と離れた場所にいるガルを見ると今まで見たことのないような形相で悪役令嬢を見ていた。
なんだろう、アレ、親の仇でも見つけたかのような眼差し。
なんだかこの展開はお気に召さなかったらしい。
さて、正面の悪役令嬢とその仲間たちはヤル気満々のようだ。
獣人だから力が強かったり、速く動けたりするんだろうけど………。
ほらね?
私ってばドラゴンブレス防げるのよ。
となりますと、この人たちの攻撃なんて何もしなくても防げるわけで………。
「ハア〜、ハア〜、あ、あなた、一体なんなのよ?! 」
悪役令嬢が吼えた。
私はなにもしてない、そうなにも。
牙や、爪、槍や、剣、あらゆる衝撃に耐えましたよ、マイボディーは。
私の周りには攻撃し疲れたメイドや執事、護衛が転がっている。
反撃しなくても勝手に疲れて倒れているんだから私は悪くないよ。
「なんなのと聞かれても、ただの冒険者としか言えないですね」
「人の冒険者がそんなに頑丈なわけないでしょう! あなた本当はオークとかじゃないの?! 」
「さすがに魔物と言われるのは心外ですね。私は至って普通の人族です。ちょっと他の人より頑丈なジョブについているだけですよ。それで、まだやりますか? 私からは攻撃してませんけど、これ以上やるのであればそろそろ飽きてきたのでこちらからも攻撃させていただきますけど? 」
「っく! ここで止めるわけないでしょう?! 」
そう言うと悪役令嬢は狼に獣化して私に飛びかかってきた。
ふむ、警告はしたよ?
私は腰を落とし勢いよく狼に張り手をかました。
………まあ、ストレスも溜まっていたのだよ、悪役令嬢狼はポーーーンっと勢いよく飛んでいった。
たぶん生きてはいるでしょう、丈夫な獣人だし。
全てが片付いたところで、常連の亀とウサギコンビがやって来た。
私の周りの倒れている獣人、それから離れているところでピクピクしている獣化が解けたボロボロの悪役令嬢を見て驚いているようだ。
「いらっしゃい、ちょっと立て込んでまして。このお客さん達はもう帰るみたいだから大丈夫ですよ。さあ、いつものように甲羅掃除とブラッシングしますか? 」
私の言葉に珍しく亀とウサギが顔を見合わせている。
おや? もしかしたら恐がらせちゃったかな?
『この度はうちの国の者が迷惑をかけてしまい誠に申し訳ない』
あ、亀喋った。
『本当に躾のなっていない犬で申し訳ありません』
あ、ウサギも喋った。
二匹は頭を下げている。
喋ったってことは二匹………いや、二人は獣人でしたか?!
私が驚いていると二人は獣化を解いて人の姿になった。
亀はおじいさんに、ウサギはおばあさんに。
「改めて、この度は我が国の者が迷惑をかけた。此奴らは責任持って国に持ち帰る。それで、今更なんだが………儂はアトラスの祖父のガンテ、こっちが妻のピオーネだ」
「アトラスのおじいさんとおばあさんでしたか。えっと、お貴族様なんですよね? ごめんなさい! 私、普通の亀とウサギだと思って接してました。甲羅ゴシゴシしちゃったし、ブラッシングまで………」
「ふふ、気にするところがそこなのね。トアさんって呼んでいいかしら? 気にしなくても大丈夫ですよ。むしろ私達二人とも調子が良いのよ。うちの人なんて甲羅がピカピカだって亀の獣人仲間に自慢してたんですから」
「な!? お前だって毛並みが良くなったって交流のあるご婦人方に自慢していたではないか」
えーっと、たぶん甲羅磨きとブラッシングは好評だったようだ。
「トアさん、もう気付いているかもしれないが、儂と妻はトアさんを見に来たんじゃ。あのアトラスが気に入った女性と言うから気になって気になって。黙っていてすまん! それから孫であるアトラスの妹も世話をかけてすまなかった。そしてトドメでこの犬っころ。これは勝手にアトラスの婚約者を名乗っているヤツだ。うちは認めておらん」
「トアさんがとても良い人と言うのはこの数日でわかっておりますわ。出来ればこれからもアトラスと仲良くしてくれると嬉しいのだけど」
「仲良く………うーん、あの、私はただ健康で美味しいもの食べて好きなところに行きたいだけなんです。アトラスと冒険するのは良いんですけど、こんな風に邪魔をされるのは嫌です。だから、こんなことが続くのであればキッパリ縁を切ると思います」
「おぉ〜、雄々しいのう。確かに自由を望むものにこんな襲来者はいらんな。今後は儂がしっかり見張っておく。だからたまにで良いから甲羅を磨いておくれ」
「ずるいですわ。私もブラッシングお願いします」
こうしてアトラス関係者は嵐のように去っていった。
悪役令嬢はアトラスのおじいちゃんに引き摺られて帰っていったよ。
「そういえばガルさん。なんであの時、親の仇を見るような目で悪役令嬢を見ていたの? あれはガルさんご希望のドキドキ、ワクワク、ドロドロの展開だと思ったんだけど? 」
「うーん。確かにそうなんだろうけど、何故か非常に腹立たしかったんだよ。お嬢さんがあんな風に言われて、悔しくて。本当なら私が出て行ってブレスを吹きたかったんだが、それだとお嬢さんを困らせそうだったからね。でも、怪我がなくて良かったよ」
「まあ、ドラゴンブレスでも無傷なんだからあれぐらい問題ないですよ」
結局無駄に時間を取られてクエストには行けなかった。
明日頑張ろう。