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ジョブ習得

 私は身体が弱かった。

 ずっと入退院を繰り返し、学校にもなかなか通えなかった。

 そんな中、テレビに映る大きな身体、そしてその肉体で闘う力士にとても憧れていたのだ。

 特に好きだった力士がいた。

 彼の部屋の特集がテレビに映り、たくさんご飯を食べ、たくさん稽古をする姿に励まされたものだ。


 でも、結局私は長生き出来なかったらしい。

 最期のことはあまり覚えていないけど、なんとなく覚えているのはもし生まれ変わったら、あの力士のように強い身体で、ご飯もいっぱい食べて、いろんなことをしてみたい、という感情だったと思う。





 うん、きっとそんな死ぬ間際の願いが叶ったんだよ、コレ。



 私、たぶん異世界転生したみたい。

 記憶が戻ったのはついさっき、ジョブを覚えた時だ。


 そう、ジョブ。

 前世ではなかった、この世界独自のシステム。

 十歳になるとこの世界の人は漏れなくジョブを授かる。

 ジョブはいろいろな種類がある、剣士、魔術師などの戦闘系や料理上手、裁縫上手などの生産系、それから名前からはどんな効果があるかわからないものだ。


 私が授かったジョブがまさにそのどんな効果があるかわからないもの。

 でも、授かった本人には詳細がわかるから困らない。


『小結』


 ジョブ名『小結』、そもそもこの世界の人、小結って知らないと思う。

 コレは私だけの特別なジョブだ。

 孤児だった私はジョブの取得とともに今まで暮らしていた孤児院から出て、冒険者になることにした。

 ジョブのおかげで憧れの、いっぱい食べて、健康に、いろんなところに行くっていう夢が叶いそうだから。





 そして今、憧れの冒険者生活を満喫している。


「はい、熱いから気をつけて食べてくださいね! 」


 私は器に盛ったアツアツの『ちゃんこ』を今回一緒に依頼を受けている『白銀の剣』剣士のヴィンさん、魔術師のレインさん、それからシーフのアトラスさんにそれぞれ渡した。


「………これはまさか………本当にダンジョン内で温かい物が出てくるとはな」

「凄いスキルですね。道中の戦闘も凄かったですが」

「アチッ! おおーーー、しかも美味いぞ! ほら、二人とも食べてみろよ! 」


 アトラスさんの言葉に他の二人も食べ始めた。

 一口食べて、その後はかき込むように食べている。


「そんなに急いで食べると詰まりますよ。まだまだおかわりはいっぱいあるのでゆっくり食べて下さいね。今ここは安全地帯になっているので警戒もさほど必要ないですし」


 そう言って私も食べ始める。

 アツアツのちゃんこ鍋、野菜も肉もいっぱい入って良いお出汁が出ている。

 今日も美味しい。



 今回の依頼はこの『黒熊の洞穴』というダンジョンにいる熊型のモンスターの素材を取って来ることだ。

 別に一人でも良いかと思ったんだけど、ギルドのお姉さんに『白銀の剣』と行くことを勧められたのだ。

 まあ、初めての場所だったし、道を知っている人がいるのは楽だと思い引き受けた。

 実はギルドのお姉さんは孤児院時代の先輩に当たる、たぶん昔の私を知っているからそれとなくフォローしてくれたのだと思う。



「それじゃあ、ボス部屋行って熊さん狩りますか」


 私のスキルで作り出した安全地帯で一泊して奥のボス部屋へ向かう。


「なんていうか………凄いな」

「ええ、こんな快適にダンジョン内で過ごしたのは初めてです」

「モグモグ………朝メシも美味い! お前凄いな! 」


 褒めてくれてありがとうございます。




 私達はシーフのアトラスさんを先頭に、ヴィンさん、レインさん、私と進む。

 アトラスさんがいち早く敵を見つけ、レインさんが魔法を撃ち込み、討ち漏らしをヴィンさんと私が討伐、私は紙装甲のレインさんの壁役も担っている。



「そろそろボス部屋だな」


 アトラスさんがそう言って洞窟内に唐突に現れた大きな扉を指し示す。

 ダンジョンの最奥には必ずボス部屋と呼ばれる部屋に、特別に強い敵が現れるのだ。

 今回のお目当はボス部屋の熊さんのドロップアイテムの爪と肝。


「それじゃあ行くか。打ち合わせ通りレインは魔法で遠距離から、アトラスが撹乱、俺が斬り込む。トアはレインをカバーしてくれ」


 あ、ちなみに私の名前がトアです。

 お、そろそろ突入のようですね。




 戦闘はなかなか白熱しています。

 私はたまに突撃してくる熊さんを、レインさんに近付けないよう防いでいる。

 私の防御力が思っていたよりも高いことがわかったようで、アトラスさんとヴィンさんはレインさんのことを気にせずに攻撃に集中している。


 もう少しで倒せるところまで来たときに、熊さんが最期の力を振り絞ってレインさんに今まで見せてこなかった遠距離攻撃を放ってきた。

 レインさんは魔法の詠唱に集中しているため動けない、なら私が受け止めるだけ。



 ドッガーーーーーーン!!



「ト、トアさん! 」


 レインさんの焦った声が聞こえる。


「私は大丈夫! 呪文を唱えて! 」


 私の声が聞こえたようでレインさんが熊さんに魔法をぶっ放した。

 それがトドメの一撃になったようで熊さんはドロップアイテムと化したのであった。





「トアさん、大丈夫ですか? 」


 レインさんが心配そうに声をかけてきた。


「よいしょっと。はい、大丈夫ですよ。ほら、この通り無傷です! 」


 私はそう言ってクルリとその場で一周回ってみた。


「ほ、本当にあの攻撃に耐えたんですね………とりあえず無事で良かったです」


 私とレインさんが無事を確認していると、ヴィンさんとアトラスさんもやって来た。

 二人も大きな怪我はないようで良かった。



「それにしても最後のあの攻撃、トアが無傷って凄くないか? 」

「確かに、あの攻撃を受け止めて無傷とはな」

「私を護る為に本当にありがとうございます」


 アトラスさん、ヴィンさんがびっくりしている。

 レインさんにはかなり感謝されているし。

 何はともあれこのスキルのおかげだね〜。


「それにしてもトアはその体型で良くあんなに機敏に動けるよなぁ」


 アトラスさんがそう言うと、ヴィンさんとレインさんがアトラスさんをど突いた。


「お前、体型の事とか言うなよ」

「そうですよ、女性に失礼です」


 まあ、このスキルを使うと見た目も変わるからね〜。

 使い勝手が良いから、常時発動している。

 だから私は周りから、凄い運動神経の良い体格の良いヤツだと思われているのだ。


「ふふ、気にしていないので大丈夫ですよ〜。この姿のおかげで護れているので。さあ、アイテムも手に入ったことですし帰りましょうか? 」




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