第八十五話 爆弾
セイリアが新しく覚えた技は、剣の四つ目の武技〈Vスラッシュ〉と五つ目の武技〈スティンガー〉。
〈Vスラッシュ〉は威力面で優秀でコスパに優れたいい技だし、突進技である〈スティンガー〉は、このあとの大会を見据えるとなくてはならないレベルの技だ。
きっとどちらも、今後のセイリアの戦いを支えてくれることだろう。
「まさか、こんな方法で、武技が覚えられるなんて……」
セイリアは感動半分、困惑半分といった様子でつぶやいたけれど、例によって、注意しておかなければいけないことがある。
「騙すようで悪いんだけど、今回ここまですんなり技を覚えられたのは、まだセイリアの武器レベルが低かったからなんだ」
実はこの熟練度上げにも、指輪による初級魔法連打と似たような弱点がある。
「武器による通常攻撃」というのはシステム的に「第零階位魔法」とほぼ同等なようで、初級魔法で伸びにくくなるのと同じくらいの武器レベルに到達すると、通常攻撃での熟練度の伸びは鈍ってしまうのだ。
武技は魔法のように零階位というものがなく、第一剣技、第一斧技、のように一からカウントが始まっていくので、通常攻撃が実質零階位技ということになっているのかもしれない。
「……な、なるほど。だから戦士にとって、六つ目の技が一つの壁になってるんだ」
トリシャは思い当たることがあったのか、そんなことをつぶやいて考え込んだ。
「まあ、この辺については、ある意味セイリアの先輩になるファーリに聞いた方がいいかもしれないね」
僕は色々と特殊すぎて、ちょっと参考にならない部分がある。
そう言ってファーリに水を向けると、彼女はめんどくさそうに口を開いた。
「ん。確かに武技なしで殴るのが初級魔法と同じだったら、それで第六以降の技を覚えるのは、死ぬほど大変」
淡々と、無表情なままでファーリは告げる。
その表情のなさが真実味を増すのか、セイリアもゴクリと唾を飲んだ。
「でも……」
そこで、ファーリの表情が変わる。
淡々としていた語り口は熱を帯び、目は爛々とした光を灯して、
「――めっちゃくちゃ、楽しいよ」
そうして、ニィ、と悪ガキみたいな笑みを浮かべるファーリに、
「――うんっ!」
セイリアは今度こそ屈託のない顔で、笑ってみせたのだった。
※ ※ ※
あれからセイリアは、はしゃいだように新しく覚えた技を試したあと、僕が出したいくつかの条件に二つ返事でうなずいて、僕はセイリアの指導をすることになった。
セイリアは強くなれる目途が立ったことでご機嫌だったし、僕も魔王への手がかりを手に入れる算段が出来て万々歳。
全てがハッピーエンド、かと思われたのだが、
「レオハルト様、早く! 遅刻しちゃいますよ!」
「わ、分かってるけど、さ!」
なまじとんとん拍子に話が進みすぎたせいで、思いがけず時間を食ってしまった。
午後の実技授業に遅れないように、僕らは廊下をひた走る。
「ほら、ファーリちゃん! いそいでいそいで!」
「うぐ……。どうしてわたしまで……」
最初はどこか溝があるように見えたファーリとセイリアも、なんだか随分と馴染んだようだ。
そんな仲睦まじい二人を見られるのなら、たまにはこんな失敗もいいな、と思えた。
でも……。
(……失敗、失敗、かぁ)
込み上げる苦い思いに、僕は誰にも知られぬようにこっそり息を吐いた。
(今回はちょっと、反省しないと)
久しぶりに原作を守護れるからといって興奮しすぎて、必要のない無茶をしてしまった。
(ボム次郎が爆発しそうになった時は、ほんっとにびっくりしたよなぁ)
幸い、大事にならなかったからよかったものの、軽率だったことは否めない。
だって――
前を行く四人がこちらを見ていないのを確認してから〈ディテクトアイ〉を起動させると、僕はボム次郎の入った円筒を覗き込んだ。
LV 420 リトルボマー
――これが最大火力で爆発してたらきっと、学園なんて木っ端微塵になってたからね!
僕は「次は無理せず、初心者用のボム太郎の方を渡そう!」と固く決意して、ボム次郎の入った円筒をこっそりとしまい込んだのだった。
学園がなくなる(物理)