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第八十三話 たった一つの冴えたやり方


「いやぁ、こいつは二代目で『ボム次郎』って名付けたんだけどさ。捕まえるの大変だったんだよ。なんだったら準備に半年くらい……」

「待って待って待って待って待って待って待って待って待って!!!!」


 手の中の〈リトルボマー〉を弄びながら僕が自慢げに語っていると、トリシャがいつになく焦った様子でフェードインしてくる。


「そ、それ、〈リトルボマー〉だよね!? 初心者冒険者殺しで有名な!」

「あ、そうなんだ」

「そうなんだ、じゃないよ! 何平然としてんの!? 何手に乗せちゃってんの!? 危ないとかってレベルじゃないよ!」


 怒涛のラッシュに、僕も言葉をさしはさむ暇がない。

 とはいえ、確かに安全対策は重要だ。


「じゃあとりあえず、これを配っておくね」


 そう言って、その場の四人全員に、赤い小さな護符を配る。


「これって……」

「お守り。使い捨てだけど、火属性の攻撃を一度だけ防いでくれるんだ」


 その言葉に、レミナはごくりと息を飲み、トリシャは叫んだ。


「や、やっぱり爆発するんじゃない!」

「念のためだよ、念のため」


 きちんと説明をしたいところだけど、そこまで時間はない。

 僕はトリシャの追及をさらりと躱すと、どうしたらいいか分からないという顔をしているセイリアに一振りの剣を見せる。


「これは……〈フレイムソード〉?」


 突き出された剣の正体を、セイリアは一目で看破した。

 流石は〈赤の剣聖〉の娘というところか。



《フレイムソード(武器):火属性の魔力を帯びた剣。通常攻撃を火属性に変える。

 攻撃力 : 160

 装備条件: 腕力100 魔力50》



 かつて店で見かけた〈アイスブランド〉の火属性版……というにはちょっと弱いけれど、攻撃の属性を変えられる貴重な武器だ。

 僕はその魔剣を無理矢理にセイリアに握らせると、簡潔に指示を出す。


「セイリアには、これで〈リトルボマー〉を斬りつけてほしいんだ」

「えっ!? で、でも……」


 突然の要求に、セイリアは当然のように動揺するけれど、


「時間切れだ。ほら、動き出すよ」

「も、もう! あとでちゃんと説明してもらうからね!」


 ボマーが僕の手から離れて浮かび上がり、その身に力を溜めるような仕種を始めたのを見ると、躊躇いを捨てて斬りかかった。

 この辺りの思い切りはやはり、根本が戦士なんだろうと思う。


「うんうん、イイ感じイイ感じ。じゃ、全力でお願いね」


 それを後方監督面でうなずきながら見守っていると、トリシャたちが詰め寄ってきた。


「ど、どういうつもりなの!? 〈リトルボマー〉は火属性の魔物だよ! あんな武器で攻撃したって……」


 トリシャは取り乱して僕に食ってかかり、


「……なるほど。そういうこと」


 一方で、こんな状況でも泰然としているファーリは何かを察したようだった。

 よっこいせと起き上がると、隣にあった銀の円筒……「魔法訓練の効率を上げる装置」を手に取って、こっちの方へとやってくる。


「最初に、聞いておく。これの中身は? これもボマー?」

「いや、そっちに入ってるのはボマーじゃなくてただのスライムだよ」


 僕が答えると、ファーリは表情を緩めてうなずいた。


「ん、よかった。なら安心」

「いや、よくはないでしょ、よくは……」


 そんなファーリを信じられないものを見る目で見るトリシャ。

 興奮するトリシャを、めずらしくファーリが諫めにかかる。


「落ち着いて、トリッピィ」

「トリシャだよ!」


 ……なんだか、初手で失敗している気もするけど。


「確かに、〈リトルボマー〉は初心者冒険者の天敵。トラウマになっていてもおかしくはない。……だけど、今のわたしたちは初心者の域をとっくに脱している」

「それは……」


 意外とと言うとアレだが、ファーリはこれで理論派だ。

 理路整然とした語り口で、トリシャを説得する。


「レオにもらった火の護符もある。爆発をそこまで過剰に恐れる必要はない。……まあ、この部屋はぐちゃぐちゃになるだろうけど」

「大問題じゃないの!!」


 ただ、根本的に一言多いのが玉に瑕だ。

 それでもファーリ自身は特に気にはしていないのか、そこでふたたび僕に視線を戻した。


「たぶん、そういうことにはならない。火属性で攻撃を続ける限り、〈リトルボマー〉は爆発しない。……合ってる?」

「うん。ファーリはもう、分かったみたいだね」


 ファーリはさっきのやりとりだけで、僕の意図を完全に読み切ってしまったらしい。

 ただ、いまだに混乱しているトリシャとレミナ、それからチラチラとこちらを見ながらもボマーに攻撃を続けているセイリアに向けて、もう少し説明をしなければいけないだろう。


「ええと、みんなもボマー系のモンスターは自分の体力を削って力を溜めて、体力が少なくなったところで自爆する爆弾系モンスターだっていうのは知ってるよね」

「あ、当たり前だよ! 迂闊に攻撃して爆発されて、何度痛い目を見たか! なのに放っておいても勝手に体力を減らして勝手に爆発するし……」


 トリシャがグチグチとつぶやくと、レミナもうんうんとうなずいた。

 この態度を見ると、案外本当にボマー系のモンスターにトラウマを持っているのかもしれない。


「た、大変だったね。ええと、でもそれは逆に言えば、常に相手の体力を回復させ続けていれば、爆発しないってことになるよね?」

「あ、まさか……」


 そこで、トリシャもようやく気付いたらしい。

 口を大きく開いたトリシャに向かって安心させるように微笑んで、僕はやっと、今回の意図を話す。



「――うん。火属性の〈リトルボマー〉に対して、火属性の魔剣で斬り続けて回復し続ける。それが、僕の考えた剣の熟練度の稼ぎ方なんだ」



アルマ式訓練法!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 一代目は間違えて倒しちゃったのかな? [一言] AIイラストはスゴいけど、指や手の数を間違えてるのが、不思議。 実はAIのIQって低いの? って言いたくなる。
[良い点] なぜ188話と同じタイトルなのか? こっちは流石にばれたら捕まるレベルかな
[一言] なんか無性にタイマツを斬りたくなってきたな
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