第二百四十二話 追憶の音
「――ありがとう、おにいちゃん!」
スフィナさんの弟、ルフィルくんは、僕が持ってきた〈世界樹の霊薬〉で無事に完治した。
流石は美人ぞろいの原作ヒロインズの弟と言うべきか、ルフィルくんは非常に可愛らしく、この世界がギャルゲーではなく乙女ゲーの世界だったら、ショタっ子として人気が出ただろうなぁ、なんてバカなことを思わず考えてしまうほどだった。
「――ちょっと待ってくれ、アルマくん!」
そんな彼に見送られて家を出たところで、後ろから声をかけられる。
振り向くと、スフィナさんが追いかけてきた。
「いいの? 弟さんのところについていなくて」
僕の問いに、スフィナさんは肩をすくめた。
「心配しなくても、弟とはこれからずっと一緒にいられるからね。それに……実を言うと、ルフィル本人に怒られてしまったんだよ。『恩人を一人で帰らせるなんて』ってね」
口調自体はひねくれているが、そう口にするスフィナの表情は明るい。
弟が元気になってくれたことが心の底から嬉しいのだと、表情が雄弁に語っていた。
「と、とにかく、だ! 色々と動揺はしてしまったけど、本当に助かったよ」
彼女は照れたようにほおをかきながら、続けた。
「弟が元気になったのは、君のおかげだよ。僕だけだったらきっと治せなかったか、あるいは治せても、僕がそれを見届けることは出来なかったと思うんだ」
「そっ、か。うん。それなら、よかったよ」
スフィナさんの言葉を疑うことはしなかった。
だって、「世界一ファクトリーならそのくらいする」って信頼があったから。
あの人たちってメインストーリーではほんわかラブストーリーとか描いているくせに、バッドエンド分岐になると急にプレイヤーの心を助走つけて殴ってくるからね!
と、そこで。
「それと、弟が、君にこれを受け取ってほしい、と」
「僕に?」
思いがけない言葉に目を丸くしていると、スフィナさんが僕に小さな箱を差し出してきた。
彼女がその箱を開くと、そこから心が落ち着く音色が流れてくる。
「オルゴール、か」
僕がつぶやくと、スフィナさんは大きくうなずいた。
「魔よけの効果があるという話で、病気の弟の心の支えになっていたんだ。でも、『僕にはもう必要ないから。これでおにいちゃんを守ってほしい』って言って……」
「ルフィルくんが……」
長い闘病生活を経ても優しい心を失わなかった彼に、尊敬の念すら浮かんでくる。
しかし、その沈黙を悪い方で取ったのか。
スフィナさんは慌てて言葉を続けた。
「そ、その、子供の玩具のようなものですまないと思う。ただ、弟は本気で……」
「すまない、なんてことはないよ。僕にとって、何よりの報酬だよ」
そうしてそのオルゴールを手にして、僕は自分の道が間違っていなかったことを、確信する。
なぜなら、そのオルゴールの説明文には、こう書かれていたから。
《追憶の音色(貴重品):魔を遠ざけ、闇を払うとされるオルゴール。魔王に至る四つの鍵の一つ。「君のためなら、僕は全てを捨てられる」》
あいかわらずの意味深なフレーバーテキストは気になるけれど、これは僕が正しい道を歩んでいることを示すマイルストーンだ。
(これで、魔王の鍵も三つ目、か。途中思いがけない展開にはなったけど、ギリギリ真エンドルートは保持出来た、かな?)
おそらくは、だが。
このイベントはきっと、本来ならもっと早くから開始するべきものだったんだろう。
それがスフィナとの関わりが薄かったせいか、手遅れになりかけてから関わることになってしまった。
ただ、こっちはこっちで薬を最初から持っていたから、差し引きでプラマイゼロになって原作が守護られた。
というのが現状ではないかと思う。
「ま、気に入ってくれたみたいで嬉しいよ。それに、贈り物はまだ半分だしね」
「え? 半分、って……?」
どこか楽しそうに言うスフィナさんに、僕は首をかしげてしまった。
するとそんな僕を見て、スフィナさんはさらに愉快そうな顔をして、悪戯っぽく笑う。
「もともと、君がなんの用事で僕に会いに来たか、忘れちゃったのかい?」
「あ……」
そういえば、最初はスフィナさんに錬金術のレシピを教わるはずだったのだ。
ぽかんと口をあけてしまった僕に、彼女はしてやったりとばかりに胸を張ると、
「ふふん! ま、今回は色々とかき乱されてしまったけれど、錬金術じゃ僕の方が先輩だ! ここまでの恩を受けたんだ。もうレシピだけと言わず、錬金術のイロハを叩きこんでやるから、覚悟するんだね!」
まるで少年のような天真爛漫な笑顔で、僕の背中を楽し気に叩いたのだった。
ちなみに、その三十分後。
「――な、なんじゃそりゃああああああ!!」
僕の錬金術を見たスフィナさんが、ふたたび知性0の叫びをあげたりもしたのだが……。
それはまた、別のお話。
めでたし、めでたし!
ということで、スフィナ編はこれにて閉幕です!
ちょっと短かったけど仕方ないね!
そろそろ連続更新厳しくなってきましたが、明日も更新予定!
引き続きお楽しみに!





