第二百四十一話 つながる過去と未来
「――スフィナさん、店にいるといいんだけど」
次の目標を「スフィナさんに錬金術のレシピを教わる」ことに定めたけれど、彼女は引きこもりだ。
学校で待っていても会えるとは限らない。
どころか、夏休みまでに会えるかというと望み薄だ。
店に行って会えればいいのだけれど、もしいなかった場合はいきなり手詰まりになってしまう。
(もう少し早く行動しておけばよかったかなぁ)
きちんとした錬金術が出来るようになったのは特区で錬金釜を買ってからとはいえ、アイテム合成の存在にはずっと前から気付いていた。
世界一ファクトリーなら絶対アイテム合成あるだろ、というメタ読み以前に、アイテムにそういう匂わせが多かったのだ。
(例えば『これ』とか、露骨に錬金素材なんだよねぇ)
そうして取り出したのは、見た目はなんの変哲もない一枚の葉っぱ。
ただ、その説明文を見ると、こんなことが書かれている。
《世界樹の葉(アイテム):世界樹の力を蓄えた葉。貴重な合成素材であり、生命の霊薬の材料となる》
このアイテムは忘れもしない、〈集団討伐演習〉で世界樹の中に飛び込んだ時のものだ。
(あの時は本当に肝を冷やしたからなぁ)
イベントの終了条件を探していたら、中で待ち構えていたのはまさかのレベル180超えのモンスターたち。
今までで一番死の危険を感じたし、こいつらが外に出てきたら原作が壊れてしまうかもと思って焦ってしまった。
(でも、この辺りのアイテムを見せたら興味を持ってくれる、かなぁ?)
まず前提として、スフィナさんは店では変装をしているし、僕はあの店員さんがスフィナさんだってことは気付いていないことになっている。
ただの客として接する必要があるから、彼女の錬金術師としての興味を引けるアイテムは貴重なのだ。
(ヒロインの割にここまで接点がなさすぎだからなぁ。自分から店を訪ねるのは、正解だと思うけど……)
そんなことを思いながら、錬金術店に足を踏み入れると、
「え? スフィナ……さん?」
変装もせずに店の内装をいじっているスフィナさんが、そこにいた。
※ ※ ※
「やぁ。アルマくん、だね。この店に用事かな? それとも、僕に?」
何事もなかったかのように振り返る彼女は、前に見た時とどこか雰囲気が変わっていた。
「え、ああ、うん。錬金術について、相談があって……」
前はどちらかというと引きこもりキャラっぽく、どこか人見知りっぽいところを見せていたのが、今は変装すらせず、あまり面識のない僕に対しても物おじせずに話している。
「ス、スフィナさん。少し、雰囲気変わった?」
思わず僕がそう尋ねると、
「雰囲気? ああ、そうだね。どうしてもやらなくてはいけないことが出来て、覚悟が決まったんだ」
どこか達観した様子で、うなずく。
そのあまりにも以前と違う姿に、僕は焦った。
(やばいやばいやばい! なんかこれ、僕と関係ないとこでイベント進行してないか!?)
世界一ファクトリーのゲームでは、大体がプレイヤーが放置した結果イベントが進行すると、そのほとんどはバッドエンドを迎える。
前回のメイリルさんのイベントなんかがいい例だ。
もし彼女のことを放っておいたら、風精によって南のサスティナス領は荒れ、メイリルさん自身も望まぬ結婚によって退場していた可能性だってあっただろう。
(もう様子見とか言っていられない! とにかく、強引にでもかかわりを作らないと!)
とっさに決断した僕は、グッと前に身を乗り出して、頼んだ。
「――錬金術のレシピを、教えてほしいんだ!!」
スフィナさんはその言葉の勢いにわずかに驚いたようだけれど、その表情が、すぐに申し訳なさそうな色に染まる。
(これは、ダメ……か?)
錬金術に技術が関与しない以上、錬金術のレシピとは錬金術師としての能力そのものになる。
流石に教えてはもらえないか、と半ば覚悟していたけれど、
「熱意は買うけど、僕にはやることが……いや」
断ろうと発せられた言葉が、途中で止まる。
「……そう、だね。ダメで元々だ。夏休みの間、僕の探しているアイテムを一緒に探してくれるというのなら、引き受けても構わないよ」
「本当!?」
アイテム探しなんてめちゃくちゃイベントの匂いがするし、夏休みにやることは決めていなかったから、これは僥倖だ。
(これは当たりを引いたかもしれない!)
僕が思わず前のめりになると、それを制するように、鋭い声が飛ぶ。
「ただし! 錬金術を教えるのは、探し物が見つかったあと。それに、僕が探しているのは、そう簡単に見つかるようなものじゃない。帝国の魔導局にしか現存が確認されていない、貴重な素材だ。当然捜索も困難を極めることになるし、夏休み中探しても何も得られずに終わる可能性だってある。……君に、その覚悟があるかい?」
スフィナさんの、真剣な問い。
ただ、僕の答えなんて、決まっていた。
「もちろん! 全力で受けて立つさ!」
ヒロインと一緒に錬金術の素材を探す、なんていかにもヒロインイベントっぽいし、見つかろうが見つかるまいが、一緒に探したという事実が重要だ。
捜索がたとえ徒労に終わったとしても、ここで退くなんて選択肢は僕になかった。
「……まったく。なんで他人のことにそんな全力になれるんだか。君は本当に、訳が分からないね」
呆れたように言うスフィナさんだけれど、その言葉にはどこか安堵のような感情が浮かんでいるようにも見えた。
「それで、どんなものを探せばいいの?」
僕の問いに、スフィナさんは真剣な顔で口を開く。
「僕には、病気の弟がいてね。弟を……ルフィルを治す薬を作るために、『とある植物の素材』が必要なんだ」
「植物……?」
レアな薬草か花を見つけるイベントだろうか。
そんな風に考える僕に、
「それも、普通の植物じゃあないよ。ねえ、アルマくん」
スフィナさんはまるで挑戦するかのように笑って、決定的な言葉を口にする。
「――〈世界樹〉って、覚えているかい?」
その、言葉に。
なぜか「ドクン」と、心臓が波打った。
「探しているのは、演習の時に訪れた〈常闇の森〉の最深部。そこにある〈世界樹〉の『中』にあるとされる素材で……アルマ、くん?」
説明を続けようとするスフィナさんの声が、耳に入らない。
気付けばスフィナさんが心配そうにこちらを見ているけれど、応える暇もなかった。
(――まさか、ここでつながる、のか?)
回り道で、勇み足だと思っていたあの〈世界樹〉での戦い。
それが巡り巡ってここで、この瞬間に役に立つ。
そんなありえない偶然を、都合のよすぎる奇跡を、期待してもいいのだろうか。
だが……。
「……実は、さ。僕にも、今まで誰にも言えなかった秘密があるんだ」
半信半疑の理性を置いてけぼりに、口が自然と動き出す。
スフィナさんの瞳を熱っぽく見つめて、僕は勝手に語り出していた。
「〈集団討伐演習〉の時、僕は〈世界樹〉の中に入ったんだよ」
「なっ!?」
思い出すのは、〈世界樹の落胤〉という名のレベル180の魔物の群れとの死闘。
奴らと相対したのは、転生後の僕の人生の中でももっとも危険な瞬間で、けれど、大きな成果を得られた時間でもあった。
「そこには、ほかでは見たことがない魔物がいて、そこで一つだけ、どうしても使い道の分からないアイテムを手に入れたんだ」
そこで……。
僕はスフィナさんに見えるように、ゆっくりと「それ」を取り出した。
「は、あ……ぇ?」
僕の差し出したアイテムに、スフィナさんの顔が瞬く間に驚愕に染まる。
その事実に強い手ごたえを感じながら、僕は厳かに告げた。
「――『これ』が、その素材。〈世界樹〉の魔物たちを全滅させた時に手に入れた〈創世樹の苗木〉だよ」
《創世樹の苗木(貴重品):世界樹を蝕む元凶である〈堕天の創樹〉を倒した証。「未来は君の手の中に……」》
なんか違うの出た!!
次回は「第百六十四話(裏) 世界樹の戦い」
お楽しみに!!





