第二百三十九話 本当はすごい錬金術
ちょっと間が空いちゃいましたが再開!
サスティナス領でトーテム使って風精を鎮めた続きからですが、新章なのでぶっちゃけよく覚えてなくても大丈夫です!
「平和だなぁ……」
メイリルさんと一緒に、遥か南のサスティナス領に出かけた事件のあと。
僕は久しぶりにやってきた学園の道場で、仲間たちと一緒に穏やかな時間を過ごしていた。
今も耳を澄ませば、さわやかな部活動の声が……。
「行くよボム次郎!! やあああああああ!!」
「〈アクアバレット〉! 〈アクアバレット〉! 〈アクアバレット〉!」
……うん。
なんだかやたら殺伐としている上に、なんだか特殊すぎる訓練が繰り広げられている気もするけれど、たぶん考えすぎだろう。
きっとゲームの原作主人公たちも、こんな風に放課後は汗を流していたはずだ。
決して僕たちが原作から逸脱している、なんてことはない……はず。
「あ、あの、アルマ様?」
僕がなぜだかにじんでくる冷や汗を抑えていると、控えめな声がかけられた。
「あ、ああ。メイさん」
声の主は、しっかりとしたメイド服に身を包んだ同年代の少女、メイ。
一緒に「設置」を手伝ってくれていた彼女が、不思議そうに首をかしげている。
「ごめん。こっちがお願いしているのに、考え事をしちゃって……」
僕が上の空だったことを謝ると、
「そんなこと言わないでください。アルマ様の手助けが、わたしの役目で、わたしのやりたいことですから」
にっこりと、まるで曇りのない笑顔をこちらに向けてきてくれる。
いい子だなぁ、と思うと共に、
(メイさんのことは、しっかりと気にかけておかないと……)
と僕は決意を新たにした。
……彼女は、僕の家の元からのメイドでもなければ、この学園の生徒でもない。
元は学園交流戦で特区を訪ねた時に知り合った他校の生徒で、金髪ドリル悪役令嬢のリスティアから虐げられているところを助けたのだ。
(最初は、ただサブイベントをこなしているだけのつもりだったんだけど……)
ただのゲームであれば、イベントを終わらせてめでたしめでたしで終わりでいい。
ただ、現実ではイベントが終わっても人生は続く。
兄さんの計らいもあって、地域の有力者と敵対してしまった彼女へのアフターケアとして、家族ごと帝国に招いて、道場付きのメイドとして働いてもらうことになった。
(言ってしまえば、僕が彼女の人生を変えちゃったんだよね)
原作を守護ることを第一義としている僕としても、彼女のことだけは原作と無関係に見守っていきたいと思っている。
……まあ、なんて言いつつ、どちらかというと僕の方がメイさんに助けられているんだけど。
というのも、メイさんは特別な才能なんかを持たないものの、この学園メンバーにおいて貴重な一般常識や、一般的な家事スキルを備えているのだ!
「本当に助かったよ。こういう作業が得意な人は、あんまりいないからさ」
今日、僕がメイさんに頼んだのは、錬金釜を設置した部屋の整理と掃除だ。
特区で一目ぼれして買った錬金釜を道場の奥の一室に設置することを決めたものの、半ば物置として使っていたせいで、その部屋は割と散らかっていた。
そこで、メイさんと協力して部屋を片付けたんだけど、その手際は見事なものだった。
「そんな……。普通です、普通」
と本人は謙遜するけれど、バトルジャンキーや魔法バカばかりの帝国学園にあって、「普通」のことが出来るのはかなり貴重だ。
特に、今日はそういった方面にほどほどに強いトリシャとレミナがいないから、その普通さが光り輝いて見えるほどだ。
……ちなみに、トリシャたちが今日いないのは、帝国内の大きな政治的な変動に対応するため。
どうも、国の懸案だった魔物被害の問題に解決の目途がついたのと、とある大貴族が奇跡的に病から復活して、国内のパワーバランスが大きく変わってくるとかいう話らしいが、政治のことは正直よく分からない。
とりあえず「がんばってー」と言って笑顔で送りだしたらなぜだかめちゃくちゃにらまれたんだけど、八つ当たりはよくないと思う。
「今回も長いこと留守にしちゃったしさ。この機会に、何か不満なこととか、足りないものとかはない?」
僕はトリシャみたいなひどい奴にならないぞという気持ちを込めて尋ねると、メイさんはやはりふわりと笑った。
「本当に、大丈夫ですよ。むしろ、こんなに幸せでいいのかなって思えるくらい、毎日が楽しいです! 足りないものなんて……あ」
よどみなく話していた彼女だったけれど、ふと思いついたように顔を上げた。
そこには、彼女が住み込んでいる道場の二階への階段がある。
「だったら、お時間のある時に荷解きを手伝ってもらっていいですか? 実は、向こうの学園から持ってきた荷物が、まだ荷解きが済んでいなくて……」
「もちろん、それくらいはお安い御用だよ」
おずおずと切り出された提案を、即座に了承する。
まだ荷解きが終わっていないのは意外ではあるけれど、力仕事が必要なものなどは手を出しにくいのかもしれない。
僕の了承に「やたっ」と小さくガッツポーズをするメイさんをほほえましく眺めたら、いよいよお楽しみの時間だ。
「じゃあ、せっかくメイさんに手伝ってもらった錬金釜だし、早速使ってみようか!」
「お手伝いしますっ!」
打てば響くように言ってくれるメイさんだけど、実は錬金釜の使い方は簡単。
というのも、僕が錬金釜に触れると、まるでゲームみたいなUIが浮かび上がるのだ。
(最初からこれが見つけられていればなぁ……)
錬金釜以外の錬金道具では、触ってもメニューやレシピが出ることはなかった。
だから、この錬金釜こそがゲームの主人公……つまりこの僕、アルマ・レオハルトが使うべき、原作由来の道具なのだろう。
(原作ではどこで錬金釜を手に入れたのか、ちょっと気になるところだけど……)
遅くはなったけど、無事に入手は出来た。
今はそれで満足しておくべきだろう。
(ええと、まずは調合で、最初はレシピから錬金、がいいかな)
いきなり我流を試すのは危険すぎる。
無難なものをポチポチと選んでいくと、出てくるのは調合レシピの一覧。
……とは言っても、今ある選択肢はHPポーションの一個だけ。
(ポーションのレシピは……薬草二つだけか)
まあ、最初の調合なら、こんなものだろう。
調合のやり方は簡単。
「〈ウォーター〉!」
まずは錬金釜にドボドボと水を注ぎこみ、そこに薬草二つを投入。
錬金釜に付属の錬金棒とかいう専用の棒に魔力を注ぎ込みながら、薬草の入った水を混ぜる。
「わ、わあっ! さっきまでただの水だったのに、あっという間に色が……」
釜の中を覗き込んでいたメイさんの言う通り、ただの薬草の入った水は、錬金棒でかき回すうちに、あっという間に色がつき、緑色の液体に変わる。
(うんうん、順調だね!)
真面目に考えるならあんな量の水でこんなドギツイ色になるのはちょっと怖いが、ゲームの錬金に理屈を求めてはいけない。
そして、僕の作業が間違っていなかった証拠に、かき混ぜ始めてから三十秒ほど経った、その時、
「きゃっ!?」
「ボンッ!」というコミカルな音と共に、突然錬金釜から煙が上がり、驚いたメイさんが小さく悲鳴を上げる。
「や、薬草が、爆発!? し、失敗しちゃったんでしょうか?」
「……いや、これでいいんだ」
メイさんは怯えた様子でそう尋ねてきたが、僕には確信があった。
その、証拠に……。
「……ほら」
僕は、錬金釜の底を指さす。
今までなみなみと緑色の液体が入っていた、錬金釜。
その一番底には……。
「え、ええええっ!?」
綺麗なガラス瓶に入った、ポーションがあった。
「ま、待ってください! 入れたのは薬草と水ですよね!? 瓶は!? ガラスは、どこから……」
さらに動揺するメイさんに、僕は魔法の言葉を告げる。
「――メイさん。これが、『錬金術』だよ」
そう。
ゲームにおいて、錬金術とは物理法則を超越したもの。
絶対に材料が足りなくてもちゃんとしたものが出来るし、時には「そうはならんやろ」という結果が生まれる。
真面目に考えたら頭がおかしくなるような結果でも、もう「そういうもの」として受け止めるしかないのだ!
「そ、そうなんですね。す、すごいです、錬金術!!」
また一つ世界の深淵を知ったメイさんを横目に、出来たポーションの品質を確かめる。
(うん、普通にゲーム内で出てくるものと遜色ないみたいだ。図鑑マークもあるし、やっぱりこれがポーション入手の正規ルートなんだな)
そして、もう一つ重要なこと。
UIを見る限りでは、どうやら錬金術については熟練度などはなさそうだ。
ならば重要なのは、錬金術をこなした回数や能力などではなくて、錬金するアイテムの知識ということになる。
本来のゲームの遊び方としては、試行錯誤して組み合わせを探ったり、レシピを買ったり、ということになるんだろうけど……。
「……ちょっとだけ、ズルをしてしまおうか」
「アルマ様?」
僕はここで、ショートカットをすることを決めた。
なぜなら僕はもう、錬金術の大家とも言うべき専門家と知り合いで……。
そして、彼女と関わることで、また新しい原作イベントの消化だって期待出来る。
何しろ、僕が当てにしている錬金術師というのは、スフィナのこと。
彼女は、僕と同じクラスの天才錬金術師で……。
――〈ファイブスターズ〉の、一員なのだから。
トリシャ「ツッコミが……。ツッコミが、いない!!」
ということで、スフィナさんのターン!
お待たせしちゃった分、しばらくは連続更新予定なのでお楽しみに!





