第二百三十五話 敗戦処理
――失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した!
着々と進んでいく「風精封じ込め作戦」なる計画を聞きながら、僕は頭を抱えていた。
(まずい。まずいぞ、これは……)
あまりにも〈スカイトーテム〉が風精に対して効果を発揮したがゆえに、メイリルさんたちの〈望月の遺跡〉への遠征計画は白紙凍結となった。
……いや、正直気持ちは分かる。
だって〈スカイトーテム〉一つあれば風精なんて怖くないし、だとしたら何かしらのリスクがありそうな遺跡での儀式なんて誰もやりたがらないだろう。
でも、それじゃ困るのだ!
名前からしてどう考えても〈望月の遺跡〉はイベントダンジョン。
普通に考えて原作の流れを守護るなら、絶対に外せないポイントだ。
それに、メイリルさんの婚約問題や、何かありそうな父親との関係、旗を使った儀式とやらの問題も解決してないどころか、詳細すらも明かされていない。
なのに、まるでグリッチ――想定外の裏技でストーリーを無理やり突破するかのように、〈スカイトーテム〉が全てを解決しつつある。
(誰だよ! この人たちに〈スカイトーテム〉なんてものを教えたのは!)
と過去の自分に憤ってはみるものの、生き生きとし始めた街の人たちから今さら〈スカイトーテム〉を奪う訳にもいかない。
現実問題、原作での風精の解決法が分からない以上、〈スカイトーテム〉法の方が優れている可能性すらあるのだ。
だとしたら、今やるべきは……。
「――やらなきゃいけないことが出来た」
そう言って、街を後にする。
目的は、一つ。
「イベント回収、しなきゃ!」
――〈望月の遺跡〉の単独攻略だ。
※ ※ ※
昼夜を問わずに走り続け、移動だけで何日もかかると言われた遺跡にその日のうちに突入。
そのままギミックもモンスターも全てぶっ飛ばして最深部までやってきて、いかにも儀式場っぽい場所を見つけた。
なのに……。
「イベントが……起こらない!」
いや、明らかに怪しい祭壇はあるのだ。
だけど、祭壇に触っても、祈っても、魔力を注いでも、それっぽい呪文を唱えても、ちょっとイライラして小突いた拍子にほんの少し真っ二つにしちゃっても、全く変化がない。
いや、唯一動きがあったのが、たまーに祭壇から復活する風精だったのだけれど、
「――もう、調査の邪魔だってば。〈メガトンパンチ〉! 〈スカイトーテム〉!」
相手をするのも面倒になった僕は、天井をぶち抜いて目の前に〈スカイトーテム〉を立ててしまった。
それからも、復活しては僕の背後のトーテムにすーっと突進して自滅していって、それはそれで邪魔ではあったんだけど……。
なんか一度だけ、やたらとでかい風精が出てきてからはおとなしくなり、今では復活しても、トーテムや僕を攻撃するでも外に行くでもなく、その場をふよふよと浮くだけになった。
ディテクトアイで見てみると、
LV 45 風精
前と名前が変わって、「狂える」という文言が消えていた。
もしかすると、リスキルし続けたことで正気に戻ったのかもしれない……って、
「――現実逃避してる場合じゃないんだよ!」
セルフツッコミをしながら、祭壇の調査を続ける。
しかし、僕の必死の努力も虚しく、何をやっても祭壇にはなんの変化も生まれない。
「アルマー。もうかえろうよー」
やがて、僕の契約精霊のティータが、進展のない調査に飽きて僕の頭をぺちぺちと叩き始めたところで、僕もあきらめた。
「……分かっ、た。帰ろうか」
「やったー! じゃあたっくさんお土産買って帰るわよー! アタシ街で見たおまんじゅうが食べたーい!」
どこまでも騒がしいティータを引き連れ、悄然と肩を落として遺跡をあとにする。
――絶対原作守護るマン、初めての敗北だった。
※ ※ ※
「うまい! うますぎるぅ!」
上機嫌なティータと二人、早朝の帝都の道を歩く。
遺跡を出る時は落ち込んでいたが、帝都まで戻ってきた辺りでは、だいぶ気持ちは持ち直してきていた。
「ふっふーん。やっぱりアタシの目利き通り、このサスティナス名物の風花まんじゅうおいしいわねー! なんというか、風が語りかけてくるおいしさだわー」
「よかったね」
それは、なぜかお土産のはずのまんじゅうを移動しながら食べてる僕の騒がしい同居人のおかげでもあるし、
(それでも、魔王の鍵のうちの一つは確保出来たんだ。真ルートへの道はまだ潰えてないはず!)
風精の封じ込めが終わったあとで、メイリルさんから旗を貸してもらえる約束がきちんと出来たことを思い出して、メンタルが回復したからでもある。
(くよくよするのはやめよう。確かに僕は失敗した。でも、大事なのは失敗を引きずらずに、次につなげること)
ちょっとしたイレギュラーこそあったものの、風精の脅威は去り、魔王の鍵も手に入れた。
そうなればメイリルさんとオーヴァルが無理に結婚する理由もなくなってくるし、概ね原作ルートと同じ成果は得られたと考えられる。
(それに、結局数日もかからずに学園に帰ってこれたしね)
何しろ突発的なイベントだった。
一応、「何日か学校サボるけど適当にごまかしといて!」とトリシャに書き置きだけは残したが、流石に万能なトリシャでも、長い期間僕が留守にしていたらごまかしきれないだろう。
幸い、早朝から寮は開いている。
まずは寮の自室に帰って落ち着いてから登校して、トリシャに話を聞こう。
(流石に今回は、ちょっと無茶ぶりをしちゃったし……)
もしかすると怒ってるかもしれないけど、お土産におまんじゅうを買ったし、いざとなればレミナに仲介を頼めばなんとかなるはず。
セイリアの武技とファーリの魔法もどのくらい成長したか見ないといけないし、あとは、そうだ。
道場の管理をしてくれているメイに、無断で留守にしたことを謝らないと……。
と、そこまで考えて、たった数日離れただけなのに、もうみんなと会いたくなっている自分に気付いた。
(ほんの少し会わなかっただけなのに、もしかして、僕は意外と寂しがりなのかな? でも……)
自分の帰る場所があって、待ってくれている人がいる、というのは、幸せなことかもしれない。
なんて考えているうちに、町並みは見覚えのあるものに変わっていく。
「やっとか。っと、そっちはトリシャへのお詫びの品だから食べちゃダメだよ」
「ああー。アタシのまんじゅうー!」
僕はティータからまんじゅうの箱を奪い返しながら、ようやく見えてきた学園の門に足を速めて……。
(……ん?)
そこで、異変に気付いた。
門の柱の根元に、「何か」がいる。
「……ひと?」
最初は、迷惑な酔っ払いが、酔いつぶれて門柱に寄りかかっているのかと思った。
でも、違う。
その人は明確に防寒着を着てそこに座り込んでいて、その姿はまるで、夜通しの張り込みをしているよう。
何より、その、見覚えのある長い髪は……。
「――ファー、リ?」
おそるおそる、彼女の名前を呼ぶ。
「レオ……」
すると、かつて眠り姫と呼ばれた僕の仲間は、ふっと顔をあげて、
「っひ!?」
まるで何日も寝ていないかのような、大きく隈に縁どられた目と、かっ開かれた瞳孔と視線がぶつかって、息を飲む。
僕が無意識にあとずさっても、彼女は止まらない。
幽鬼のようにふらりと立ち上がり、病的なほどに白い肌に、にっこりと朱を載せて、
「――メイリルとの旅、たのしかった?」
ささやかれた言葉のあまりの圧に、僕は貢物のようにおまんじゅうを差し出すしかなかったのだった。
待ってくれてる人がいる幸せ!
エピローグは今回で終わると言ったな、あれは嘘だ!
また別視点が幕間に入ります
あ、あと前回言った通り、バーチャルダンチューバーをなろうに持ってきました!
【バーチャル美少年ダンジョンチューバー】
https://ncode.syosetu.com/n8106lh/
どんな話かの説明ですが、なんかNoteBookLMのAIが間違いだらけの解説動画を作ってくれたので、ぜひぜひ見てってください!
https://youtu.be/YPYkhw7y_hI
わざわざこれ見せるためだけにyoutubeのチャンネル作ったのはここだけの秘密です!





