第二百三十四話 私の救世主
ようやく涼しくなってきたので活動再開です!!
……逆冬眠かな?
今回の話は、やり残してたメイリル編エピローグ!
〈スカイトーテム〉があまりにも風精に効きすぎて、原作が壊れちゃったところからスタートです!
――アルマ・レオハルトによってもたらされた魔法〈スカイトーテム〉が風精を退けられると知って、サスティナス領は変わった。
その後も実地検証を重ねた結果、〈スカイトーテム〉の魔法の効果は劇的で、風精に対して安全に、かつ確実に撃退を行うことが出来るということが立証され、暗く沈んでいた人々はにわかに沸き立ったのだ。
人々を悩ませていた風精の偏執的な攻撃性が、ここでは逆に功を奏した。
何しろ〈スカイトーテム〉さえあれば、近くに人がいても見向きもせずにトーテムに向かっていき、そして絶対にあきらめることなく攻撃し続けて、勝手に消滅する。
これなら、どんなに戦闘経験にとぼしくとも、怪我を負う危険性はない。
さらには、この手法が血筋や魔法の才能に依らないところも素晴らしかった。
最低限の風魔法の能力と、〈エレメンタルトーテム〉の魔法契約書さえあれば誰にでも扱えるもので、その魔法契約書自体はモンスタードロップとして、一定数が市場に流れる。
つまりは、方法さえ知っていれば安定して実施出来る、「持続可能な対策」だという点も画期的だった。
このたった一つの魔法によって、長年サスティナス領を悩まし続けていた風精問題は、一挙に解決への道を歩み始めたのだ。
――次に起こったのは、狂った風精たちを根絶するか、管理して共存するかという議論。
風精は狂ってはいるが、狂った風精のおかげでほかのモンスターのサスティナス領への流入が少ないのも事実。
トーテムによって要所のみを守り、それ以外は暴れるに任せることにすれば、ある程度はほかモンスターへの対策と安全を両立出来る。
しかし、サスティナスの人々が選んだのは、狂った風精の根絶だった。
風精の暴走が終わらない限り、魔物は来なくとも土地の恵みはもどらない。
また、ずっとサスティナスの地を守り続けていた風精を、せめて安らかに眠らせてあげたい、という民の感情も働いた結果だ。
……長きに亘ってサスティナスを苦しめてきた、狂った風精の根絶。
その暴威を知るサスティナスの民から出たにしては、無謀に過ぎる試みに思えるが、〈スカイトーテム〉さえあれば不可能なことではなかった。
狂った風精は、何度倒されても〈望月の遺跡〉の祭壇から蘇る。
しかしそうであるならば、〈望月の遺跡〉の周囲を〈スカイトーテム〉で封じさえすれば、理論上は封じ込めが可能なのだ。
にわかに持ち上がった、風精の封じ込め計画。
その陣頭指揮に立つのは、サスティナス領の姫であるメイリル。
そして……。
「――皆の者、心配をかけた! だが、この通り私はもう大丈夫だ! 此度の作戦、私が直々に指揮を執る!」
病に臥せり、もはや余命いくばくもないと思われていたサスティナス領の当主、メイリルの父その人だった。
「お父様……」
メイリルは、父のそんな姿を潤んだ目で眺める。
風精を封じるため、儀式を行って心と身体を病んでいたはずの父が往年の姿を取り戻し、一番に喜び、同時に驚いたのは彼女だった。
父を回復させるため、思いつく限りあらゆる方法を試したが、いずれも効果はなく……。
呪いと言えるような儀式の後遺症で苦しみ続け、そのせいで実年齢よりも二十も三十も老け込み、娘の目から見ても、もはや回復は絶望的と考えるしかなかった。
実際、メイリルが帰ってきた時、父はまだ半死半生と言っていいほどの容態だったはず。
それが、ほんの一晩でなぜ……。
そんな疑問に答えを出したのは、久しく見たことのない、やわらかな父の笑顔だった。
「実はな。昨日、お前の連れてきたアルマという少年に会いに行ったのだ」
「お父様が……!?」
昨日までの父は、満足に歩けないほどに衰弱していたはず。
それでも、娘を想う父の執念で、アルマに「メイリルをよろしく頼む」と声をかけにいったのだという。
「彼はな。まるで私が普通の病人であるかのような口調で安静にしていろと諭し、私に薬を渡して優しく追い返した。気持ちのよい少年ではあったが、彼が渡してくれた薬には、特に期待もしていなかった。それでも口に運んだのは、単なる気まぐれのようなものだ。だが、その選択が全てを変えた」
「まさか……」
「ああ。私の身体を蝕んでいた儀式の後遺症。それが、薬を飲んだ途端に、瞬く間に消え失せたのだ」
想像もしなかった告白に、メイリルの目が見開かれる。
「彼と話をしていた時、あまりにも自然体だった彼の態度に、彼は私が領主であるとは気付かなかったのだと思ったよ。だが……」
メイリルが、サスティナス領のあらゆる人々が、どれだけ手を尽くしても回復させられなかった儀式の後遺症。
それをほんの一晩で治してしまうほどの薬を偶然持っているはずなどないし、ましてやただ少し話をしただけの他人にポンと渡すはずがない。
「アルマさん……。そんなこと、一言も言わなかったのに……」
「真実」に気付いたメイリルは、思わず口元を押さえた。
……この風精対策の一番の功労者の彼は、封じ込め作戦の話し合いをしている間に、「やらなきゃいけないことが出来た」と言って、あわただしく街を出ていってしまった。
街に留まれば、どれほどの歓待も、莫大な恩賞も、なんだって思いのままだったはずなのに。
「アルマ、さん……」
知らず知らずのうちに、メイリルの目元に涙がにじむ。
「――私たちは、彼にどれほどの恩を返せばよいのだろうな」
遥か遠方に向けられた父のつぶやきに、メイリルは一つの決意を胸に育て始めたのだった。
※ ※ ※
それから数週間。
メイリルは学園に休学届けを出し、故郷に留まりつつ一心に風精の封じ込め作戦を進めていた。
広大なサスティナス領を、たった数十人程度の兵で制圧しようなどというのは、本来なら無謀だ。
ただ、〈スカイトーテム〉はその不可能を可能にした。
順調にメイリルたちは人の支配領域を増やし、いよいよ〈望月の遺跡〉に手がかかるほどまでに、前線を押し上げることに成功していた。
どこまでも、順調すぎるくらいに順調。
しかし……。
「やはり、おかしいです」
今、メイリルたちは本丸、風精の復活地点である〈望月の遺跡〉に先行部隊として近付いている。
当然、復活地点に近付けば近付くほど、風精の攻勢は激しくなる。
本来であれば、復活した風精が絶え間なく襲ってきて、それを〈スカイトーテム〉で撃退する計画だったのだ。
なのに……。
(風精の数が、明らかに少ない)
想定よりも、風精の復活ペースが遅い。
いや、それどころか、ほとんどが復活していないのではないか、という予想すら立てられた。
「――先行します!」
「メイリル!」
止めようとする父の声に、
「大丈夫です! いざとなれば、私には旗がありますから!」
一瞬だけ振り返り、〈統風の魔旗〉を手に、制止を振り切って駆ける。
(本音を言えば、怖い)
異常事態だ。
この先に待ち受けているのがなんなのかは、見当もつかない。
未知の脅威を前に、〈統風の魔旗〉がどれだけ役に立つかも、分からない。
(それでも! せっかく領の人々に芽生えた希望を、当主である父を失うリスクは冒せない!)
恐怖を抱えながらも、遺跡に向かった彼女の足が、不意に止まる。
「あ、ぁ……」
言葉は、出ない。
遺跡の……いや、遺跡から伸びたその不格好なフォルムに、目を見開いたまま固まってしまった。
「メイリル!!」
そこで父や、側近のシャームたちが、追いついてくる。
しかしそれでも、メイリルは固まったまま。
「どうした、メイリル!」
父の言葉に、ようやくただ手だけを持ち上げて、正面を示す。
「なっ!?」
驚きの声が、重なる。
だが、それも当然だった。
ここ十数年、誰も訪れたことのないはずの〈望月の遺跡〉。
その遺跡の天井を突き抜けるように、一つの建築物が……。
巨大なトーテムポールが、突き立っていたのだから。
――だがこれで、全ての謎は解けた。
予想よりも復活する風精の数が少なかったのも、この周辺の風精が異様に少なかったのも、全てはここに、風精の全ての原点とも言えるこの場所に、すでに〈スカイトーテム〉が立てられていたから。
そして……。
単身でここまで辿り着き、サスティナスの誰よりも大きなトーテムを建てられる人間なんて、たった一人しかいない。
「――アルマ、さん」
この時に、ようやくメイリルは、アルマの真意に触れられた気がした。
彼が、焦って街から飛び出したのは……。
そして、彼の「やらなきゃいけないこと」というのは……。
全てを悟ったメイリルは、思わず天を仰いだ。
「本当に……。本当にあなたは、優しすぎます……」
熱くなった瞳から、雫が流れ落ちる。
けれど、それは決して不快なものではなかった。
ほおを涙が伝って落ちる度に、メイリルの中からは迷いが消え、深い決意が湧いてくる。
「……お父様」
隣に立つ父に、静かに語りかけた。
「私のオーヴァル様との婚約、破棄させてください」
「それは、構わないが、しかし……」
娘の前途を思い、思わず口にしかけた言葉は、止められた。
「何を言われたとしても、私の決意は変わりません。だって――」
振り向いた彼女の顔を見たメイリルの父は、思わず息を飲む。
「――私にも『やらなきゃいけないこと』が、出来ましたから」
振り向いたメイリルの瞳の中には、深い愛が燃えていた。
攻略完了!!
アルマ側のエピローグも一話だけ載せて、メイリル編は終わりになります!
更新はたぶん明日!
あ、あとカクヨムの方で色々やり始めたのと、そろそろバーチャルダンチューバーの既出分をカクヨムから持ってこようかなと思うので、気になる方はぜひ!





