第二百三十話 風精の脅威
実はSRPG Studioに新素材が来ちゃってちょっと遅れました!
ティータさん、悲願の(?)連続出演です!
「す、すみません。興奮してしまって……」
なんとかメイリルさんを口止めし、中の会話は御者さんには届いていないことを確認してようやく人心地つくと、メイリルさんはそう言って頭を下げた。
「いや、光魔法はめずらしいみたいだから、しょうがないよ」
自分が少しメイリルさんを振り回してしまっている自覚はある。
僕はそうやって慰めの言葉をかけたのだけれど、その言葉に、メイリルさんはさらにばつが悪そうな顔をした。
「あ、いえ、その……。実は、アルマさんの契約されている精霊が光属性ではないかというのは、以前からうっすらとですが思っていたんです」
「え……?」
ティータが何かやらかしたのか、と思わずティータの方を見ると、むすーっとした顔で口を尖らせた。
「アルマ、もしかしてアタシがこのメイリルとかいうのに姿を見せていると思ってない? 今もちゃーんとアルマ以外からは見えないようにしてるんだけど」
「え? でも……」
メイリルさんはティータのことを「妖精の姿」とはっきりと言っていたし、その言葉も聞いていた。
説明を求めるようにメイリルさんを見ると、彼女は一つうなずいて、話し始めた。
「サスティナスの血族は、精霊に関する能力を備えているんです。私は精霊の魔法を使えるほか、近付けばぼんやりとですが精霊を見ることが出来ます。それで、アルマさんの隣に強い光が浮かんでいるように見えることがあったので……」
「な、なるほど」
今まで、メイリルさんとはほとんど会話したことはなかった。
唯一記憶にあるのは交流戦の説明会の時だけれど、あの時はティータは引っ込んでいたので、見えなかったのだろう。
「じゃあなんとなく疑いは持っていて、それで今日、近くでティータを見て光の精霊だと確信したって感じなのかな?」
「は、はい。初めて至近距離でお姿を拝見させていただいて、フィルレシア様の精霊様と遜色ないほどの強い魔力と、妖精のお姿を確認出来ました。そうなると、光の妖精様といえば〈神霊ティターニア〉様しか存じ上げなかったので……」
それが、さっきの顛末に至った経緯ということか。
まあ、メイリルさんは精霊に並々ならぬ想いを持った一族みたいだし、そりゃあいきなり目の前に最高位の精霊である神霊っぽいのが出てきたらびっくりするだろうというのは分かる。
「それにしても、メイリルさんの能力はすごいね。そんな能力が存在するなんて、僕は全然知らなかったよ」
僕が褒めると、メイリルさんは焦ったように胸の前でパタパタと手を振った。
「い、いえ! 私なんて、アルマさんに褒められるようなものではありません。この能力も精霊が見えると言っても至近距離で見ないとぼんやりとした色や光としてしか見えないですし、これだけ近くにいても、私以外に向けて話された言葉は上手く聞き取れなかったりと、色々と制約があるので……」
そう謙遜するが、彼女の力は「ヒロインキャラにだけ許された固有能力」という奴だろう。
他人の精霊が見えるというのは活用出来る機会は限られそうではあるけれど、ヒロインにふさわしい特別感があるし、のちのイベントで必須の場面が出てきそうだ。
(――だからおそらく、真エンドルートに進むためには彼女の協力は必要不可欠。だとしたら、やっぱり僕の選択は正しかったんだ!)
今さらながらに、僕は彼女の問題に首を突っ込んだことが正解であるという感触を持ててきていた。
「そういえばアルマ。わざわざアタシを召喚したってことは、何か用事があったんじゃないの? それともまさか、この女をアタシに紹介したかっただけ、なんてことは……」
「あ、ああ。そうだった! ここが荒野になっていることと風精が本当に関係あるのか、ティータに聞こうと思ったんだ」
なぜか一人で勝手に怒り出したティータをなだめるように、本題を切り出す。
すると、ティータはこともなげに言った。
「ん? ここが荒れた理由? それは風精が風の属性力を高めすぎて、地属性の魔力が死んじゃったからじゃない?」
そうしてティータが語ってくれたことによると、精霊にはその場の魔力を自分と同じ属性に偏らせる力があるそうだ。
特に、〈精霊の儀〉によって人と契約した精霊よりも、召喚によって呼び出された精霊の方が精霊としての性質を色濃く残しているため、周囲の環境に与える影響は強いらしい。
そして、風の反対属性は地。
風の属性を持つ風精は、地属性を中心に魔力を風属性に染めてしまうから……。
「地面から魔力が根こそぎ奪われて、その結果生まれたのがこの荒野、ってことか」
「やはり、風精様が……」
分かっていたこととはいえ、ショックを受けるメイリルさん。
しかし、そんな様子を気にした様子もなく、ティータは軽い調子で続けた。
「んー。本来だったら風精みたいな雑魚精霊は、召喚されてもすぐ消えちゃうはずなんだけどねー。ここは変な魔力が渦巻いてて、召喚されたものに力を与える力場が出来てるっぽいから、ずーっと居座っちゃってるみたいね!」
「よ、よく分かるね、ティータ……」
まだ説明していない〈精霊の祝福〉についてもティータはズバリ言い当てた。
本人の抜けてる性格でどうしてもあまりそういうイメージは抱きにくいのだが、能力面で言えばティータはかなり優秀なのかもしれない。
「でも、これでやるべきことは見えたね」
「……はい!」
僕の言葉に、メイリルさんも覚悟を決めた顔で、うなずく。
そして、まるでタイミングを見計らったかのように、前方に無数の影がちらついた。
――風精の登場だ。
僕らは顔を見合わせると、
「アルマさん!」
「うん、降りよう!」
僕らは即座に馬車を出て、迎撃に向かう。
「ここまでありがとうございます! ですが、もう充分です」
「ご、ご武運を!」
御者に別れの挨拶を伝え、馬車にはここで帰ってもらう。
ついでに、
「わ、わわっ! ア、アタシ、ああいうごちゃっとしたの生理的にムリなのよね! ア、アルマのことは、影から応援してるから!」
と、情けない声を漏らして、ティータも僕の中に引っ込んだ。
……ここからは、メイリルさんと僕だけで、風精と向かい合う。
風精は半透明の影のような存在で、その見た目は手足のついた風、といった様相。
目では捉えにくいため数を数えるのも難しいが、近くにいるものだけでも十は超えていそうだ。
LV 45 狂える風精
ディテクトアイで調べてみると、レベルはゲーム基準で言えば決して高くはない。
しかし、僕の能力で見ると奴らには全て〈精霊の祝福〉と〈永遠の誓約〉という二種類のバフがかかっていて、前者はどうやら「召喚物のHP自動回復」の効果、後者は「力の続く限り復活」という効果があり、このシナジーによって無限に蘇る精霊という現象が発生しているようだ。
(しかもアレ、魔法しか効かないのに風属性無効で、弱点の地属性魔法はほとんど届かないって言うんだから、厄介だよね)
おそらくサスティナスの人々が得意なのは、風精に全く効果のない風魔法。
さらに、一般の兵士や冒険者のレベルが20やそこらだと考えると、レベル45の風精が無数に飛び回っている状況は悪夢でしかない。
そして、のんびりと分析が出来ていたのも、そこまでだった。
「来る!」
一体どうやって感知しているのか。
僕らに気付いた風精たちが、流れるような動きで僕らに接近してくる。
「私が!」
そこで前に出たのは、メイリルさんだった。
〈風の極意〉のついた指輪を嵌め、〈統風の魔旗〉を持ったメイリルさんは、果敢に風精の前に飛び出すと、
「――統べる風よ!! 狂える風を吹き散らせ!」
大きく旗を振り、そこから飛び出した不可視の風によって風精たちをまとめて吹き飛ばす。
「お、おおー!」
迫ってきた十を超える風精を全て弾き飛ばしたのは、流石特効アイテムといったところ。
さらには精霊への何かしらの干渉効果があるのか、風の直撃を受けた風精たちは、しばらくの間上手く飛べなくなるようだった。
「今のうちに前へ! 街へ逃げ込めば、ひとまずは襲われないはずです!」
それでも、全ての風精が片付いた訳じゃないし、風精は時間経過でやがて復活する。
メイリルさんの先導で、前へと進んでいくが……。
「統べる風よ!」
進むにつれて、どんどんと風精の数と、その密度が増えていく。
「通して!」
旗によって風精たちを追い散らしても、その気配を聞きつけてか、周りから新しい風精が際限なく群がってくる。
「もう少し、あと少し、なのに……」
そして、とうとう……。
「ダ、ダメ!」
旗による妨害が追い付かず、風精たちが、メイリルさんへと殺到する。
「……まあ、そうなるよね」
ただ、申し訳ないが、ここまで僕の想定通りだった。
(ヒロイン単独で解決出来るなら、主人公がいる意味がない。彼女たちだけじゃ解決出来ない問題をどうにかしてみせるからこそ、主人公の存在に意味があるんだ!)
そして、この苦境を乗り越える術については、もうすでに目星をつけている。
「メイリルさん、風スライムに!」
必死に旗を振ろうとするメイリルさんに、声をかける。
「え? で、ですが……」
「早く!」
メイリルさんは僕の提案に戸惑っていたが、やがて覚悟を決めたのだろう。
風精がやってくる直前で旗をぎゅっと握ると、
「――〈チェンジ・スカイライム〉!」
すぐさま呪文を詠唱し、その身体を風色のスライムへと変える。
その、直後だった。
スライムとなった彼女の身体を、無数の風精が貫く。
……いや、違う。
――風精たちが、彼女の身体を、すり抜けた。
それでもあきらめず、隣に立つ僕などまるで目に入っていない様子で、風精たちは戸惑う翠色のスライムに殺到し、何も出来ずに身体をすり抜けていく。
その光景を見て、僕は、
「――攻略法、見いつけた」
と笑ったのだった。
スライムの有効活用!