第二百二十六話 逸脱
これは全なろう作家に周知してもいい情報だと思うんですが、今のchatGPT4.1ってめちゃくちゃ頭いいので、小説ぽいって投げるだけで簡単な誤字脱字チェックとかも一瞬でやってくれるんですよね(ただし精度はびみょー)
「――夏季休暇までに旗の使い手になれなければ、私は……彼と『結婚させられてしまう』んです」
メイリルさんが口にしたその言葉に、僕は一瞬、呼吸を忘れた。
「ま、待って! 結婚させられるって、どういうこと?」
僕はなんとなく、オーヴァルとメイリルさんの仲は悪くないのだと考えていた。
でもその口調からは、彼女が許嫁との結婚を望んでいないように聞こえてしまう。
「サスティナス家の当主になるには、〈サスティナスの風精〉を御する力が必要だと一族の掟にあるんです。ですがかつては、一族の持つ『精霊と語らう力』があればそれで十分でした。でも……」
「風精が狂ってしまったことで、旗が必要になった、ってこと?」
僕が尋ねると、メイリルさんは悲しそうに首を振った。
「ただ、旗があればいいという訳ではないんです。以前に試した時、私は旗に選ばれませんでした。私がどんなに呼びかけても、旗の力を呼び起こすことが出来なかったんです」
その意外な言葉に、僕は一瞬固まってしまった。
「え? で、でも、メイリルさんは交流戦でもたくさん精霊魔法を使っていたよね? それなのに、ダメだったの?」
「旗を扱うには、『精霊と語る力』だけでなく、『風の魔法を扱う力』も必要です。私には精霊魔法の素質はあっても、風を扱う素養はありませんでした。そして、私たちの世代でその両方の素質を持ち、唯一旗を扱えたのが……」
「サスティナスの分家の、オーヴァルくん、ってことか」
メイリルさんは僕の問いに、力なくうなずいた。
(なるほど。分家の子供でしかないオーヴァルがどうしてあんなに幅を利かせてるのか、正直ちょっと疑問だったんだけど……)
そういう事情なら理解出来る。
そして、
(少なくとも言動を見る限りだと、オーヴァルが当主なんかになったら地獄になりそうなんだよね。だからその抑え役として、メイリルさんを奥さんにするってことか)
それに、オーヴァルが当主になるとしたら、そのままだと下手をすると分家が本家以上に力を持つことになってしまう。
だから当主の血筋に本家の血を入れるために、オーヴァルの結婚相手にメイリルさんをあてがったという側面もあるだろう。
……なんというか、封建制の時代を描いたゲームでよくある、望まぬ結婚の代表みたいなシチュエーションだ。
僕が何も言えずに考え込んでいると、ぽつり、とメイリルさんが言った。
「……でも、もういいんです」
「え?」
メイリルさんは、儚げな笑みを浮かべて、頭を下げる。
「迷惑をかけて、ごめんなさい。本当はもう無理だって、分かっていたんです。私がオーヴァル様と結婚すれば、全てが丸く収まります。だから……」
そう口にするメイリルさんの手は、震えている。
彼女の言葉が本心でないことは明らかだった。
「で、でも……!」
思わず彼女を引き留める言葉を探そうとして、そこで気付く。
(……というか、待って。ヒロインが主人公以外のキャラと結婚、っておかしくない?)
この世界の基となった〈フォールランドストーリー〉を作った世界一ファクトリーは、初期の頃に作ったゲームで一度炎上している。
炎上の原因になったのは、とある幼なじみヒロインが先輩キャラと浮気をする展開があったことで、その時の彼女の「下級生より、ずっとはやい!!」という印象的な台詞のインパクトもあいまってネットで大炎上。
世のゲーマーたちから、たくさんのおたより(婉曲表現)が届いたらしい。
それから世界一ファクトリーはバッドエンドルート以外では、絶対にヒロインが別のキャラとくっつく展開を作らなくなった。
つまり……。
――少なくともメイリルルートを攻略するなら、オーヴァルとの結婚の阻止が大前提、ということ!
じっとりと、額に汗がにじむ。
(ヒロインのイベントにこんな時限要素が設定されているなんて考えてなかったから、メイリルさんには今まで接触してこなかった。……けど、それって間違いだったんじゃないか?)
婚約を覆すなんて大規模なイベントをこなすには、彼女との関係性も、必要なイベントアイテムも足りている気がしない。
(い、いや、でも、この旗強奪イベントが発生したってことはまだルートが残っている可能性はあるはずだ!)
一縷の希望にすがるように、僕はメイリルさんにおそるおそる尋ねる。
「ま、待ってよ! でも、まだ時間切れは来てないんだよね? 具体的には、どうなればオーヴァルくんから当主の権利を奪い取れるの?」
「それは……。旗を持って次の満月の日にサスティナス領の〈望月の遺跡〉に行って、旗の力を解放させれば、あるいは当主として認められるかもしれません。ですが、私には旗を扱う資格も、遺跡を進むだけの力も、どちらもないんです。だから、もう……」
あきらめたようにそう話すメイリルさん。
ただ、旗を奪おうとした以上、何か勝算はあったはず。
「もし、僕から旗を取ったら、どうするつもりだったの? 正直に答えてほしい」
僕の質問を聞くと、彼女は束の間、固まってしまった。
しかし、すぐに取り繕ったような笑顔を見せると、早口で語り出した。
「旗がもらえたら、その、『協力者』に当たるつもりでした。今までは私に勇気が足りなくてお断りしていたのですが、『身体の内側に闇の魔力を注ぎ込むことで魔法の素質を上げる』という手法があるそうなんです。ですから、その申し出を受ければ、もしかすると……」
彼女は健気にも明るい口調を作ってそう語るけれども、
(――それ絶対あかんやつぅぅぅぅ!!)
僕は内心の絶叫を止められなかった。
そんなのどう考えても人体実験だし、闇の魔力を注ぎ込む実験とか、バッドエンド直行の予感しかしない。
(ああああ、どうしよう! 読めてきちゃったぞ!)
メイリルさんがヒロインである以上、オーヴァルとの結婚はありえない。
ということは、主人公が何もしなければメイリルさんは闇の魔力を注がれる実験を受けて旗を扱えるようになるが、そこで何らかの副作用を負って、ヒロインとしては選べなくなってしまう、というのが原作での流れだったんじゃないだろうか。
だから、人体実験を受けずに旗を扱えるようになるのがメイリルさんルートの正しい攻略法、だと思うんだけど……。
「そ、それ以外の伝手は? 何かないの?」
「それ以外、ですか? い、いえ……」
切羽詰まった僕の問いに対して、彼女は小さく首を振る。
さきほどのように言いよどむようなところもなく、今度は何かを隠しているとか嘘をついているとかではなく、単純に戸惑っている様子だった。
(まあ、そりゃそうだよね! ほかに何かあったら、人体実験なんて選ばないよね!)
ヤケクソ気味に考えてから、思わず頭を抱える。
(どうすればいい? どうすればいいんだ、この状況)
原作にはきっと、彼女を救う道筋はあったはずだ。
……ただ、どう考えても前提イベントが足りていない。
彼女を救うために必要なピースが、今までのイベントの中に一つも見いだせない。
あるいは、このイベントを見たことがトリガーとなって連続イベントが発生して、解決の糸口がつかめる、のだろうか。
でも、サスティナス領にも行かなきゃいけないことを考えると、そんな時間の猶予は……。
「……アルマ、さん」
悩む僕に、メイリルさんが声をかけてくる。
「悩ませてしまって、ごめんなさい。でも、大丈夫です。本当に私を想ってくれた人がいた。その事実だけで、私は救われましたから」
誰よりも不幸な境遇にいるはずなのに、彼女は笑顔だった。
まるで、本当にそれで救われたとでも言うように、曇りのない笑みで、僕を見ていた。
……その姿に、僕は覚悟を決めた。
「――〈統風の魔旗〉」
立ち上がり、虚空から彼女がずっと探していた旗を取り出すと、メイリルさんと正面から向き合う。
「え? へ? い、今、何もない場所から……」
そして、呆然と僕を見上げるメイリルさんに、手を差し伸べた。
(僕は今日、初めて自分の意志で原作から外れる)
でもそれは、原作をあきらめた訳じゃない。
僕は――
「メイリルさん。僕に、考えがあります!」
――原作を守護るために、原作を壊す!!
勇気の決断!!