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第二百二十三話 やりたいこととやれること

前回紹介した悪役転生シミュレーター、思ったよりたくさんの人が遊んでくれてるみたいなので、遊び方とか書いたci-enの解説ページを貼っときます!

https://ci-en.net/creator/16826/article/1432830


破滅回避とか面倒だって人には「なろう主人公体験シミュレーター」もオススメです!


「――ここを管理させてもらうことになった、アルマ様専属メイドのメイです。皆さん、よろしくお願いします」


 放課後、正式に道場の管理人になったメイさんが、余所行きの笑顔で部活メンバーに頭を下げる。

 ……やたらと「アルマ様専属」のところを強調していた気がするけど、気のせい、だよね?


「せ、専属……」

「むぅ……」


 道場にやってきたセイリアとファーリの二人が、頭を下げるメイさんをなんだか複雑そうな目で見つめる。


 どうやら相性はあまりよくなさそうだ。

 そういえば、二人は交流戦中は敵チームだったから、メイさんとほぼ面識がないことを忘れていた。


「え、ええっと、セイリアとファーリは、メイさんと知り合った経緯を知らなかったよね? メイさんはリスティアに脅されていた被害者だったんだ。だから……」

「そこをアルマ様に助けていただいて、こうして仕事まで用意してもらったんです!」


 説明の途中で、キラキラとした目でメイさんが割り込んでくる。

 いや、感謝してくれるのは嬉しいけど、そんな言い方をしたら……。


「交流戦中にナンパとか……」

「レオ。そういう不純なのは、よくない」


 心なしか、セイリアとファーリとの間のわだかまりがさらに大きくなってしまったように見える。

 しかし、そこで頼りになるのがトリシャだった。


「っと、とにかく、これからはここの掃除とか、備品の管理とかはメイっちがやってくれるんだよね?」


 場の空気をとりなすようにして、無理やりに話を戻す。


「はい! アルマ様……たちが気兼ねなく訓練に取り組めるように、全力でサポートします!」


 急なことで驚いてしまったが、そういう用事を頼めるというのは素直にありがたい。

 ただ、


「メイさんはよかったの? 学園、やめることになっちゃって……」


 メイさんが通っていた学園は、特区におけるうちの学校の立ち位置なのだから、当然エリート校。

 それに、英雄育成系の学園は全部うちの第一学園を参考に作ったものらしいから、授業内容や行事も共通部分が多いらしく、うちの学園に転校しても十分にやっていけるはず。


 もしメイさんが望むなら、メイドではなくてこっちの生徒として編入出来ないか、兄さんにも相談しようかと思っていたのだが、



「――その、実を言うと、メイドを希望したのはわたしの方なんです」



 その前に、メイさんは思いがけないことを口にした。


「試験の時に偶然いい結果が出て、あの学園に通えるようになったんですけど、わたしって普通のパン屋の娘なんですよ。だから正直、学校の勉強は全然分からなくて……」


 ちょっとだけ困ったように笑うと、続ける。


「もちろん、リスティアさんの妨害がなくなったから、絶対に無理だとは言いません。でもわたしはそれよりも、誰かのために料理を作ったり、掃除をしたり、そういう人の役に立つ仕事をする方が、性に合っていると思うんです!」

「メイさん……」


 そうやって熱弁するメイさんに、いつのまにか、セイリアとファーリまでもが視線を向けていた。


「ですから、心配しなくても、これはわたしの意志で、わたしのやりたいことです! だから……」


 けれど、彼女はそれを意識することなく、まっすぐに僕を見て笑って、



「――これから末永く、よろしくお願いしますね、アルマ様っ!」



 そうして、彼女は自らの居場所を勝ち取ったのだった。



 ※ ※ ※



 深夜。

 すぴーすぴーと空中で器用に寝息を立てる精霊のティータを眺めながら、僕は昼間のことを思い出していた。


(――やりたいこと、かぁ)


 脳筋が多い帝国は、とにかく強くなることに貪欲で、自分がやりたいこととか、戦う以外の道を探すなんていうのとはあまり縁がなかった。


(……でも、本来はメイさんみたいに別の道も検討するのが普通、なんだよな)


 もし、自分が本当にこの世界の人間で、魔王とか原作とかを全く気にせずに生きていたら……と少し考えてみて、首を振る。


 自分にとって、原作を守護るのはもはやライフワークのようになっているし、そういうのがなくっても、なぜかひたすらに自己強化して魔法を鍛えている未来しか浮かんでこない。


(義務でやっているだけじゃなくて、案外僕も、楽しんでいるのかもしれないな)


 自分の思いがけない一面を発見してくすりと笑ってから、すぐに表情を引き締める。


 まずは魔王を倒さなければ、世界が滅んでしまう。

 やりたいことがどうとか考えるのは、これが片付いてからでいい。


 幸い今のところは、原作の守護と魔王討伐の準備は順調に見える。

 ただ……。


(……ちょっとだけ、順調すぎる(・・・)気もするんだよね)


 今はまだ、学園一年目の一学期。

 なのに四つしかない「魔王に至る鍵」のうち、実に半分がもうこの手の中にあるということになる。


 もし原作ゲームの期間が三年だとすると、このペースはちょっと早すぎる。



 ――つまり、僕が恐れているのは、「順調すぎて原作を追い越してしまった可能性」だ。



 特に前回の交流戦では、交流戦の優勝で〈統風の魔旗〉を、それからフィルレシア皇女から〈希望のロザリオ〉を手に入れることが出来た。


 一つのイベントで二つのキーアイテムが手に入るというのが、なんだか少しイレギュラーな感じを受けてしまう。

 もしかすると、どっちか一つはここで手に入れるべきものじゃなかった、なんて可能性が捨てきれない。


(流石に、心配しすぎかなぁ?)


 もう一度しっかりと自分の目的を確認しておくと、僕が「原作守護るマン」に徹しているのは、あくまで自分や自分の周りの人の生存のため。


 世界を滅ぼすという〈魔王〉さえ倒せれば、過程はどうでもいい。

 だから、魔王を倒すキーアイテムが集まっている現状は、仮に原作通りじゃなかったとしても好都合。


 ……と言いたいところだけど、そこが微妙なところ。


 例えば、「必要なアイテムがない状態で魔王が復活したら、即座に世界が真っ二つになってゲームオーバー」とか、「仲間との絆が不十分な状態で魔王と戦うと、無敵バリアが破れなくて絶対に勝利不可能」とか、そういう「実力ではどうにもならないギミック」がある可能性を考慮すると、「完全に原作をなぞる」というのがやはり最適解なのだ。


(だとすると、あんまり原作よりも好調すぎてもダメなんだよなぁ)


 キーアイテムが不足しているからこそ発生するイベントや、敗北したからこそ発生するイベントに、魔王を倒す決定的な要素が眠っている可能性もある。



「……なーんて言っても、結局は発生するイベントに上手く対処する、以外は出来ないんだけどさ」



 大層なことを考えても、原作ミリしらな以上は、打てる手はあまりない。

 僕はふわぁとあくびして、寝ている間に奇跡でも起きて事態が好転していますように、と祈りながら目を閉じ、意識を手放して……。



「――起きろ」



 その祈りが、神に届いたのだろうか。

 僕が次に目を覚ました時、




「――〈統風の魔旗〉は、どこだ」




 目の前には鋭い目つきの覆面の女性がいて、僕はその女性にナイフを突きつけられていた。


(や、ば……)


 ぶわりと冷や汗が浮かぶ。

 かつてないピンチに、手足の震えが止まらない。


(まずいぞ、これは……)


 鋭い視線と、首元に突きつけられたナイフ。

 それも確かに恐ろしいが、それ以上にやばいものが、瞳のレンズを通して僕には見えてしまっていた。




  LV 84  メイリル・サスティナス




 メイリルさんは、〈統風の魔旗〉をずっと持っていたという貴族家の人で、言わずと知れた〈ファイブスターズ〉の一人だ。


 だからこれは正規のイベントの可能性が非常に高く、つまり……。



 ――ここで正体に気付いたら、イベントの展開がズレちゃうよおおお!!




早すぎたネタバレ!!

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かっこいいアルマくんの表紙が目印!
書籍二巻、11月29日より発売中!
二巻
ついでににじゅゆも


― 新着の感想 ―
シミュレーターやってみたら、破滅フラグ4つで4/20にゲームクリアになってしまった(好感度、借金、退学、スタンビート) 所持金にマイナスという概念がないというていで、借金すると反転して所持金カンストか…
更新できててすごいです! よく思いつくなー、 凄い。 応援してます
末永く て、アルマくん罪な男だよ
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