特別IFストーリー やりこみ転生ゲーマー その五
特別IFストーリー、感動の最終回です!!
「――すみません。少し、お話いいでしょうか?」
放課後。
私はとある一派の元に、その足を向けていた。
「あら、レミナさん。私に用事とは、珍しいですね」
そう言って微笑むのは、この帝国の姫である〈フィルレシア・アンルクス〉様。
プレイヤーからは腹黒姫なんて呼ばれてはいるけれど、逆に言えばそんな権謀術数も駆使して、人一倍、いや二倍や三倍くらいに国のことを考えて努力する、私の推しだ。
気のせい、だろうか。
この世界のフィルレシア様は、ゲームと比べて心なしか顔つきが穏やかで、幸せそうにすら見える。
出来るならば、推しである彼女とは、もっとたくさん会話を楽しみたい。
でも……。
「ごめんなさい。お話をしたいのは、フィルレシア様にでは、ないんです」
そうして、私が見つめたのは、フィルレシア様の隣にいる、彼女。
――姫の腹心〈スティカ・リーベリル〉。
ゲーム本編ではこの一年Aクラスにいるはずのない、「場違いな人物」だった。
※ ※ ※
「それで、何の用でしょうか。あまり、フィルレシア様の傍から離れたくはないのですが」
スティカが、姫に心酔する護衛のような演技で、そう口にする。
でももう、私には分かっているんだ。
「単刀直入に、言います」
私の前の転生者がアンケートに選ばれたとなれば、私よりもフォルストを愛していた人物。
だとすれば、当然乙女ゲー好きの女性ということになる。
そして、原作にはいないのに、この世界ではあのクラスにいた女性の中で、ゲームに登場していたのは一人だけ。
――それが彼女、〈スティカ・リーベリル〉。
彼女はフィルレシア様の副官として彼女に仕えているが、本来の歴史の中では、全く逆の役割を持っていた。
それはゲーム中盤、「母親を殺した仇」としてフィルレシア様を襲ってくる復讐者。
……そう。
このスティカというキャラは、フィルレシア様が魔力を暴走させ、怪我を負わせてしまった侍女の娘なのだ。
そしてそれは、母親を介することで、簡単にフィルレシア様の魔道具による暴走を止められる立場にあったということを意味する!
つまり……。
「――スティカさん。あなたは、転生者ですね?」
「――は? なんですかそれは」
……あれぇ?
※ ※ ※
「……まあ、仮にあなたの話を真実と仮定して話しますが、それでも私を犯人とするのは間違っています」
「え? で、でも……」
意外にも、スティカさんはとても理性的だった。
必死に訴える私の話を嫌そうな顔で最後まで聞いてくれたあと、そんなことを言ったのだ。
「そもそもフィルレシア様の魔道具を止めたのは私でも母でもありません。アルマ・レオハルトの兄である、レイヴァン・レオハルト様だと聞いています」
「へ?」
それこそまさに、青天の霹靂だった。
彼女の話によると、レイヴァン様は過剰な教育によってつぶれそうなフィルレシア様を優しく諭し、さらに魔力を暴走させる現場に居合わせてそれを停止。
見事に事件の芽を摘み取ったらしい。
でも、それはおかしい。
その時期、レイヴァン様は焦りから無理に魔法を使おうとして、炎魔法を暴発。
誰かを怪我させることはなかったものの、身体の魔法バランスが崩れ、炎の魔法しか使えなくなるのだ。
……まあ、そのおかげでハルト様に次ぐほどの闇の力もまた発散され、魔人化の危険性から逃れられた、という背景もあるのだけれど、それはともかく。
「レイヴァン様はその時期、魔法が上手く使えないことを焦っている時期のはずです! とてもそんな余裕があるとは……」
しかし、この言葉もまた、スティカさんに潰された。
「また本当の歴史、ですか? しかし現実問題、レイヴァン様は当時からひたむきに魔法を学ばれ、成果を出されていたようですよ。何でも、弟に褒められたことで自信を取り戻し、魔法に対する苦手意識が消えたとか」
「そん、な……」
頭が痛くなる。
まさか幼少期のレイヴァン様まで変わっていたとなると、ただの侍女の娘に過ぎないスティカが干渉出来るとも思えない。
私が思考の迷路に陥ろうとした、瞬間。
「というよりですね。本来の運命があって、それを捻じ曲げた人物がいる、というなら、犯人など明白ではないですか」
「え……」
スティカさんから、三度目の驚きの言葉が投げかけられる。
「正しい歴史、などということは分かりませんが、分からずとも一つだけ言えます」
そこで彼女はまっすぐに私を見ると、こう言い切った。
「――〈アルマ・レオハルト〉。彼の入学して以来の活躍は、異常です」
※ ※ ※
放課後の学校を、走る。
今は帰路についているというハルト様を、いや、「一人目の転生者」を探して、校舎を駆け抜ける。
(――前提条件が、間違っていた!)
私以上にフォルストが好きだったのなら、私と同じ女性ゲーマーで、私と同じくらいに原作に詳しい人間だと思っていた。
でも、アンケートに求められたのは「好き」の感情だけ。
なら、フォルストを攻略途中のプレイヤーが、転生してしまったら?
そして一番好きなキャラを「なりたい人物」に書いてしまっていたら?
それはちょっとそそっかしすぎると思うけれど、ハルト様に転生してしまう、というのもありえるかもしれない。
しかし、それを考えてしまうほどに、スティカさんから聞かされたハルト様の強さや行動は、原作と違いすぎていた。
少なくとも学園交流戦で〈ファイブスターズ〉をほぼ一人で全滅させてしまうほどの強さは、ただのバタフライエフェクトでは片付けられない。
そして……。
何よりも、そういう前提と考えれば、今の原作の惨状も納得がいくのだ。
例えば真エンドを探し、それでもたどりつけずに、ルートを模索している中で、この世界に転生してしまったのなら……。
――それなら彼が、執拗に「原作を変えようとしていた」ことにも説明がつく。
真エンドルートに入るには、とにかくフラグ調整の難易度が高いし、攻略情報でも見なければ、方向性すら分からなくても不思議じゃない。
もしも、ハルト様に転生した転生者が正規攻略をあきらめ、とにかくやみくもにフォルストな不幸な事件を改変し、それでフォルスト世界を、ひいては自分の命を助けようとしているとしたら……。
「とめ、なきゃ……!」
原作が、フォルストがハルト様に定めた運命は、そのくらいで変えられるような安いものじゃない。
そして、何よりもまずいのは、ハルト様がどんどんとレベルを上げ、魔法を使いこなしてしまっていること。
(分かる。分かるよハルト様。原作を変えるには、原作を捻じ曲げるには、力がいる。だから、強くなろうとしたんだよね?)
今になってみれば、ハルト様が魔法を使えている理由も分かる。
ハルト様は、生まれつき強すぎる闇の魔力を封じられ、火水風土の四属性と、闇属性の適性が最低になってしまった。
本来ならこの適性では魔法が成功せず、熟練度上げも当然出来ない。
しかし、まず適性Sの光魔法を鍛えて、魔法詠唱のレベルを底上げしてからなら、適性が最低のほかの魔法も訓練出来るようになるのだ。
本編の知識が中途半端にあるのなら、幼少期から光魔法を鍛え、そこからほかの魔法を育てればハルト様でも魔法が使えるようになるのでは、と考えるのは、とても自然なこと。
でも、それは罠だ。
ハルト様にほどこされた封印は、完全なものじゃない。
ハルト様が強くなればなるほどそれは揺らぎ、そして、必要なアイテムが揃う前に、封印が解けてしまえば……。
「あぐっ!?」
考え事をしながら走っていたせいだろうか。
足元の段差につまづき、地面に転がる。
それでも、私はすぐに立ち上がった。
「こんなところで、止まってられない」
この情報を、ハルト様に伝えなきゃいけないから。
この世界でも、私がハルト様を救わなきゃいけないから。
だって、私は誰よりもハルト様を愛するフォルストプレイヤーで、そして今は、私がこの世界の「主人公」で、だから……。
「……あれ?」
そこで、違和感に気付く。
「……私が、主人公?」
口にした瞬間に、爆発的に違和感は広がっていく。
私は、フォルストが好きだ。
転生したいかと言われれば、ためらいなくうなずくくらいに、この世界が好きかもしれない。
だからって、私が主人公に転生する?
それは、おかしい。
道理に、合わない。
そう、だ。
思い出せ。
私が、あのアンケートに書いた言葉を、思い出せ。
やっぱり、違う。
私が主人公になるなんて、ありえない。
だって、
「だって、私は――」
理想の世界 : フォールランドストーリー
なりたい人物 : フィルレシア・アンルクス
理由 : 私TUEEEEEEEEEEしたいから!!
「――性能厨、だからぁ!!!!」
※ ※ ※
――ピピピピ、ピピピピ、というアラームの音で、目を覚ます。
「フォルストは? ハルト様は!?」
と辺りを見渡すとも、そこは見慣れた玄関。
「……夢、だったんだ」
いつも通りの自宅で、いつも通りの重い身体を起こす。
何の気もなくスマホを見ると、そこには映っていたのはやたらとキラキラとしたメッセージ。
そこに書かれていたのは、異世界転生権を補欠で贈られ、転生させるというメッセージ、ではなく、
――運動が苦手な君も、ムキムキクラブで無敵のマッソー!
――万年補欠の君だって、魔法のトレーニングで生まれ変わる!
転生とは欠片も関係ない、トレーニングジムの宣伝文句だった。
……いや、うん。
確かに「補欠」とか「魔法」とか「生まれ変わる」って書いてあるけどさ。
それで異世界転生権が当たった夢を見ちゃうって言うのは……。
「はぁぁ……」
とため息をつく。
やっぱり、深酒をして玄関で寝たのがよくなかったんだろう。
そりゃあ夢見も悪くなるさ、と達観する。
「……それに、まあ、流石にありえないよね」
今思えば、あの夢の内容は、あまりに荒唐無稽すぎた。
そりゃ、転生とかゲーム世界とか実際にはないだろ、っていう話ではなく。
もし仮に、「転生権」だとか、「ゲーム世界への転生」なんてものが、あったとしても……。
――あんな綺麗に原作を粉々にする転生者なんて、いる訳ないもんね!!
夢オチなんてサイテー!!
くぅ~、疲れました!
これにてIFストーリー完結です!
いやぁ、何はともあれ、四月一日のうちに終われてよかった!!
次回からは普通に本編が始まりますが、IF編で知っちゃった新情報については知らない体で読んでくださいね!
作者との約束だよ!!
ではでは、次は本編でお会いしましょう!
あ、今回めちゃくちゃ頑張ったので、評価や感想、作品フォローなどもお待ちしております!