特別IFストーリー やりこみ転生ゲーマー
エイプリルフールなので何かやろうと思ったのですが、作者の性格的に
「いくらエイプリルフールでも読者の皆さんを騙すなんてひどいことはとても出来ないよ!!」
と思ったので、代わりに本編では出来ないIFストーリーをお送りします!
あくまでIFストーリーなので、このストーリーに登場する人物、団体、その他設定は本編とは一切関係がありません。
ありません、が、本編ではもう少し先で明かされる設定を先取りしている部分もちょいちょい出てくる可能性があるので、そういうのが嫌な方はそっと画面を閉じてください。
……大丈夫ですか?
では、エイプリルフール特別IFストーリー
「やりこみ転生ゲーマー ~隅から隅まで知り尽くしたゲームの世界に転生したけど原作の様子がおかしい~」
スタートです!!
「――あだっ」
頭と背中の痛みで、目が覚める。
姿勢が悪かったんだろうか。
どうやらベッドから転げ落ちてしまったみたいだ。
痛む頭を押さえながら、私はぼんやりと目を開けて、
「……んぁ?」
明らかに自宅のものとは違う天井に、目をぱちくりとさせた。
(え? ここどこ?)
パッと左右を見れば、どう見ても自宅とは違う、何やらファンタジックな様式の狭い部屋。
明かな異常事態に、私はパニックになった。
(わ、私、昨夜はどうしたんだっけ?)
必死に記憶を探る。
そうだ。
昨日は久しぶりに会った友達と会って、仕事の愚痴と知り合いの恋愛話で盛り上がって、つい羽目を外してバカみたいなペースでお酒を飲んだんだ。
それでも、ぐでんぐでんになりながら、なんとかタクシーを呼んで自宅までたどりついて、玄関に倒れ込んだとこまでは覚えている。
「それから……」
それから、それからの記憶が曖昧だ。
いや、でも、そうだ。
手に持ったスマホが、やたらと光っていて、なにかこう、「補欠」とか、「魔法」とか、「生まれ変わる」とか、そんな文字が見えて……。
「――だ、大丈夫、レミナ!?」
瞬間、現れた女の子の姿に、私の心臓は止まった。
それは、声をかけてきた彼女の姿が、まるで見覚えのないものだったから……じゃない。
むしろ、
「新聞部、ちゃん……?」
その姿が、画面の向こうで何回も、いや、何十回も見たことのある、とても見覚えのあるキャラクターのものだったから、驚いたのだ。
……そこでようやく、察しの悪い私も気付いた。
ああ、そうだ。
この部屋に、レイアウトに、見覚えがあるのも当然だ。
ここは、このグラフィックは、〈帝立第一英雄学園〉の学生寮のもの。
つまり、ここは……。
――私の魂のゲーム、〈フォールランドストーリー ~夢見るワタシは恋の闇夜に堕ちる~〉の主人公が三年間を過ごす、自分の部屋だ。
※ ※ ※
(――どういうことどういうことどういうこと!?)
現在位置が分かってなお、いや、分かったがゆえに、私は大絶賛混乱中だった。
(まさか、異世界転生? いや、ゲーム転生とか、憑依とかって奴? え? じゃあ私、死んだ!?)
もしかして急性アルコール中毒で……なんて思うけれど、流石にそれはないと信じたい。
以前も同じくらいお酒を飲んでも大丈夫だったし、玄関に倒れたまま、お酒で気持ち悪い以外に、特に痛いとかつらいとかはなかった。
でも、この部屋は間違いなく、ゲームの、〈フォルスト〉の自室。
ゲーム中でセーブ&ロードをしたり、カレンダーを確認したりする、フォルストプレイヤーが自室の壁よりも見る、あまりにも見覚えのあるレイアウトなのだ。
それに……。
実はもう一つ、私の転生説を裏付ける大きな理由がある。
「レミナ、ほんとに平気?」
「あ、う、うん……」
茶色の髪にくりくりとした瞳をした少女、フォルストプレイヤーの間では新聞部ちゃんと呼ばれていた彼女が、私のことを〈レミナ〉と呼んだ。
――〈レミナ・フォールランド〉。
それは、フォルスト主人公のデフォルトネームなのだ。
何より……。
視線を落とすと、透き通るほど白い肌に、細くすらっとした手足。
腰は折れるほどに細くて、その割には胸元は形よく盛り上がっていて……という二次元美少女体形。
手元に鏡はないので顔は見れないが、元の自分の身体ではないことだけは間違いない。
私の身体は、気が付かないうちに別人のものになっていた。
……やっぱりどう考えても、ここはフォルストのゲーム世界だとしか思えない。
でも、だとしたら私はどうして……。
「あっ!?」
そこで思い出したのは、「理想の世界製作委員会」とかいうふざけた団体が主催していた、「転生権」が報酬だったアンケート。
私は数ヶ月前、その怪しげなアンケートに応募している。
(でも、あれについては通知で「結果は落選」、ってメールが来たんだよね)
だから関係ないはず、と片付けようとした時、ふと頭をよぎるのは、昨夜、意識を失う前に覚えている光景。
キラキラ、キラキラとまばゆく光る、スマホの画面。
(確かあの時、「補欠」「魔法」「生まれ変わる」って……まさか!?)
もしもあれが、補欠合格で転生権を私に与える、というような内容のメールだったとしたら?
そして、酔っ払って何も分からなくなっていた私が、何も考えずそのメールに対して了承の返事をしてしまっていたとしたら?
――私は本当に、アンケートに書いたゲームの世界に……〈フォルスト〉の世界に転生してしまったのかもしれない。
恐怖と戦慄と、それから少しのワクワクが、津波のように襲ってくる。
もちろん突然の事態に戸惑う気持ちも、元の世界への未練も、訳の分からない事態に巻き込まれてしまった不安もある。
でも、「やり込んだゲームの世界に転生する」というシチュエーションに興奮する気持ちがあるのもまた、確かだった。
……ただ、このゲームを「やり込んだ」からこそ、いくつか引っかかっていることがある。
「あ、あの、トリシャ、は、どうしてこの部屋に?」
私が口にした当然の疑問に、新聞部ちゃんことトリシャは、きょとんとした顔で答えた。
「何言ってるの、レミナ? どうしても何も、ここはわたしたちの部屋でしょ?」
「え……」
予想もしない言葉に、私は頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。
だって、そんなのはありえない。
――このゲーム、フォルストの主人公の部屋は、「一人部屋」だ。
これは、何も偶然生徒数が奇数だったから、とか、部屋が余っていたから、みたいな理由じゃない。
後ろ盾が何もないのに、〈精霊の儀〉で最弱とはいえ光の精霊を出してしまった平民の主人公を学園側も扱いに困り、下手な人間を同室にするよりは、と一人部屋をあてがったという背景がある。
(でも、でも実際相部屋になっているみたいだし、私の記憶違い? ……いや、そんな訳ない!)
そうじゃないと、窓がコツコツと小石で叩かれるあのイベントも、彼がこっそりとベッドの下に隠れて寮監の巡回を躱すあのイベントも、成立しなくなる。
そもそも、主人公が新聞部ちゃんと出会うのは、学園生活が始まってから。
新聞部ちゃんと相部屋になる描写なんて、絶対にゲームに存在していなかった。
(なら、「この世界」はゲームにない分岐を進んでいる……?)
それは、フォルストを誰よりも愛していた私にとっては考えたくない可能性。
でもその時、私は「それ」こそが真実だと直感していた。
(……この世界は、わたしが大好きだったフォルスト、そのままじゃない)
何が目的なのかは、分からない。
でも……。
――この世界は、何者かに歪められている!!
一体誰がそんなことを!!
ということでだいぶ長くなるので、続きは六時間後に!
お楽しみに!