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第二百二十一話 ひとつのおわり

皆さんお待ちかね、現代編となります!


 ディスプレイの中で倒れ伏すチームメンバーと、主人公。

 それを見下すように眺め、「彼女」はため息を漏らした。



「――この程度、ですか。時間の無駄でしたね」



 麗しい声音で辛辣な台詞を投げかけるのは、高貴という言葉をそのまま絵に写し取ったような女性。

 彼女こそが、交流戦における最強チームである〈ファイブスターズ〉を束ねる最強の魔法使い。



 ――レシア様こと、〈悲劇の皇女フィルレシア〉だ。



 彼女の言葉を幕引きとして、画面はゆっくりと暗転していく。

 いわゆる「めのまえが まっくらに なった!」という奴だ。


「ああああぁぁぁ! 負けたぁぁぁぁ!!」


 それを見届けた私はコントローラーを放り出し、ゴロンとその場にひっくり返った。

 大の字になって、天井を見上げる。


(……いや、まあ、分かってたことだけどね)


 この交流戦で出てくるレシア様のレベルは、驚きの100。

 まだゲームが開始して半年も経っていないような主人公たちでは、逆立ちしたって勝てる相手じゃないのだ。


 何しろこの〈ファイブスターズ〉、真エンド以外のどのルートのラスボスよりも強い。

 ほかのメンバーのレベルも軒並み80を超えている上に、とにかくリーダーのレシア様が単体でもやばいのだ。


 主人公以外に耐性持ちがほとんどいない光属性とかいう恵まれた魔法に、無尽蔵かってくらいのMPの組み合わせは凶悪で、〈ジャッジメント・レイン〉だの〈ホーリーレイ〉だのといった、こっちがゲーム終盤に覚えるような魔法をバカスカ撃ってくるし、特に対策せずに進めていると、一ターンだけあらゆる魔法を実質的に無効化する〈ゴッド・ブレス〉なんて魔法まで使ってくる。


 さらには、激闘を乗り切って「やっとHPを削り切った!」と思っても必ずHPがミリだけ残り、



「……仕方がありません。貴方に負けるのも業腹ですし、少々本気を出すとしましょうか」



 と言って第二ラウンドが始まるという鬼畜っぷり。

 当時、


(いや、仲間も倒れたんだし、実力も秘密にしてたんだったら降参しなよ!)


 なんて心の中で叫んだのは記憶に残っている。


 ……とまあ、そんなやりたい放題、ラスボスよりもラスボスしているのがこのレシア様というキャラなのだ。


(ま、レシア様はそこも魅力なんだけどねー)


 とにかくビジュと声がいいのはもちろん、発売からしばらくして発表された公式SS〈闇皇女の軌跡〉があまりにも良すぎたため、気付けばレシア様推しになってしまっていた。


 ただまあ、もし真エンドを目指すなら、この交流戦での優勝は基本的には避けては通れない。

 それは、真エンドルートの条件にこの交流戦での優勝が入っているから……ではなく、交流戦で優勝することで、ゲームは唐突にエンディングを迎えるからだ。


(……そりゃまあ、主人公がこの大会優勝したら、色々矛盾出てきちゃうもんね)


 この先、「交流戦での敗北を糧に努力していく」というストーリーラインになっているため、ここで勝ってしまったらストーリーが破綻してしまうのだ。


(優勝賞品の旗も、この時点で手に入れちゃったらまずいだろうし……)


 その辺りの矛盾を生まないため、ここで交流戦に優勝してしまうと即エンディングになるのだと、わたしは勝手に思っている。


 まあもちろん、エンディングを迎えてしまったらほかのエンディングは見られない。

 だから強くなったあとでほかのエンドを狙うなら、あえて決勝戦を棄権する必要があってちょっとモヤるのだけれど、じゃあこの交流戦優勝エンドが邪魔なだけかと言われると、そんなことはない。



 ――この大会の前に誕生日があるキャラについては「プレゼントで強化→交流戦で優勝して即周回」が出来るため、大幅なキャラ強化が見込めるのだ。



 それが一番やりやすいのが、プレゼントの入手が楽で、かつ交流戦直前に誕生日があるハルト様。


 このハルト様にプレゼントをあげて、交流戦でエンディングを迎えて高速周回する育成法は「ペンダント周回」と呼ばれ、超高難易度の真エンドを見るための必須テクとして、多くのフォルストプレイヤーに愛されていた。


(……まあ、ストーリー的にも攻略的にも、あんまりハルト様ばっかり強くするのも考えものなんだけど、ね)


 作中、クラスメイトに「この落ちこぼれが! 魔法を使えなくて悔しくないのか!」と詰られたハルト様は、ぽつりとこぼす。



「――力というのは、呪いだよ」



 と。


 ゲーム中盤で呟かれるその言葉は、何も知らない時に聞くと、魔法が使えないことへの負け惜しみのように聞こえる。


 けれど、ハルト様のことを知れば知るほど、この台詞がそんな単純なものではないと分かってくる。



 ――それは、彼の父親である英雄〈レイモンド・レオハルト〉が背負ったものと同種の、そしてより深い闇。



 この時、ハルト様がもう自分の運命を予見していたかと思うと、今でも胸が痛くなる。


(ハルト、さま……)


 最初のプレイ、ハルト様が唐突に死んでしまうハルト様エンドを見た時は、ただただ混乱するだけだった。


 けれど周回を重ね、情報が集まってくるにつれ、その輪郭が見えてくる。


 どのルートでもエンディングを前に死んでしまうハルト様を救済する方法は、ただ一つ。

 全ての攻略キャラの重要イベントを最高の結果でこなし、このゲームのラスボスたる〈絶望の魔王〉を討ち滅ぼす真エンドに到達すること。



 ……では、なぜ真エンドルート以外ではハルト様は死んでしまうのか。

 ……そして、なぜ真エンド以外のルートでは〈絶望の魔王〉が現れないのか。



 その答えは、実に単純だ。


 ハルト様がどのルートでも死んでしまうのは、強くなりすぎた自分を恐れたハルト様が、自分自身の命を絶ってしまうため。


 そして、悲しいことにその選択はどこまでも正しい。

 なぜなら、真ルートの最後に現れるこのゲームのラスボス〈絶望の魔王〉の正体は……。




 ――増大する力に呑み込まれた、ハルト様自身、なのだから。





魔王の真実!

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かっこいいアルマくんの表紙が目印!
書籍二巻、11月29日より発売中!
二巻
ついでににじゅゆも


― 新着の感想 ―
たしかに裏切り声だって散々擦られてたけどさあ!
魔王なんかーい!
早くも一月。他作品に注力してるのでしょうが、こちらも更新心待ちにしてます。
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