第二百十三話 きけんなやつら
ちょっとリアル事情で時間取れなかったんですが、ぼちぼち落ち着いてきたんで更新!
※追記※
投稿直後はうっかり没会話二パターンを間違えて貼り付けるミスをしちゃいましたが、今のバージョンは完璧で幸福です
試合場を挟んで反対側。
決勝がそれほど楽しみなのか、ただ向かい合っているだけで無限に戦意を募らせていくセイリアとファーリに戦慄を覚えていたところ、
「いつまでもくっついてないで、控室に戻るよ!」
トリシャが強引に僕の手を取って、控室まで連行していった。
「あ、うん。そうだね」
これ以上闘志が高まったら一体何が起こっていたのか怖かったので、これは正直助かった。
……だから、うん。
トリシャにぎゅっと手を握られて歩き始めた途端、背中に感じる圧がさらに強まったのは気のせいだと思うことにして、僕はその場をあとにした。
そうして、たどり着いた控室で、待つことしばし。
コンコン、というノックの音に少し遅れ、
「――失礼、お邪魔させてもらうよ」
あまりにも聞き慣れた、今世どころか、生まれる前から聞き慣れた声と共に、ドアが開く。
扉の先にいた人物は、やはり僕の思った通りの人物。
「くつろいでいるところ、邪魔してしまって申し訳ないね。少し話をしたいのだけど、いいかな?」
僕そっくりのキリリとした表情に、貴族の優雅さを足した金髪の貴公子。
つまりは、
「――兄さん!」
我らがレイヴァン兄さんの、登場だった。
※ ※ ※
「詳細はこれから詰めることになるけれど、方針は大まかに決まったからね。一番初めに、アルマたちに話しておこうと思ったんだ」
兄さんは僕らにあいさつをしたあと、すぐに本題を切り出した。
「まずは彼女、というより、ロブライト親子の処分についてだね」
「まさか、罪を認めなかったとか?」
どこか浮かない表情をした兄さんにそう問いかけると、兄さんは今度こそはっきりと苦笑して首を振った。
「証拠が十分にあったおかげで、審理に〈真偽の球〉が使えたからね。必要な罪は細大漏らさず自白させたと思うよ」
そこで、「ただ……」と兄さんは続ける。
「思ったより、重い罪には問えなくてね。財産の没収と地位の剥奪。それから適切なところに『監督』してもらいながら、残りの生涯を街のために尽くす、という辺りに落としどころを作らざるを得なかったんだ」
「な、なるほど……?」
僕としては逆に「死刑になった」なんて言われたら少し後味が悪いし、あのプライドの塊のようなリスティアが一生誰かの下で労働しなきゃいけないなんて、それなりに重い罰のように思ったが、兄さんの感覚としては足りないらしい。
「賄賂に談合、詐欺に恐喝、不正会計に情報操作。悪事の証拠は山ほど出てきたし、悪意があったのも疑いようがない。ただし、やっていることがどれも小粒でね」
兄さんの話によると、どうも規模の割にやっていることがみみっちく、まとめて告発しても大した罪には問えないそうだ。
自己保身に長けていると言うべきか、ビビリと言うべきか、どうやら親子そろって根っからの小悪党らしい。
「それって、フィルレシア皇女の件も?」
思わずそう口にしてしまって、すぐにしまったと口をつぐんだ。
これはフィルレシア皇女から直接聞いた話で、あまり大っぴらにするべき話ではなかったかもしれない。
「あはは。政治に関心がなかったアルマがあの一件について知っているとは思わなかったよ。男子三日会わざれば、とはよく言ったものだね」
そんな僕に対して、兄さんはちょっとだけ驚いたように目を見開いたあと、場を和ませるようにほがらかに笑った。
そして、
「――確かに、あまり知られていない話だけれど、フィルレシア殿下に危険な魔道具を渡したのがロブライト親子の起こした最大の事件だろうね」
僕らのチームメンバーを穏やかな表情でそれとなく眺めながら、そう口にした。
それに対するチームの反応はというと、レミナとメイは何が起こってるか分からずきょとんとしていて、ディークくんとルークスくんは事態の重さに気付いてか苦い顔。
一方トリシャはこの話がやばいということを流石の嗅覚で逸早く察知、すでに両耳を塞いで目をつぶり、必死のわたし何も聞いてませんよアピールをしていた。
「と言っても別に、秘密の話という訳ではないよ。ただ、この件については僕は当事者ではないし、当時のことを詳しく知っている訳ではない、ということは念頭に置いた上で聞いてもらいたいのだけど……」
明らかに当事者な兄さんの、妙に強調された前置き。
これは、自らとフィルレシア皇女のつながりを明かすつもりはないということなんだろう。
情報の信頼度に釘を刺すフリをして自分が関わってないアピールをするなんて、あいかわらず抜け目がない。
「彼らの方も、何も殿下を害そうと思っていた訳ではないらしいんだ」
「へ?」
僕が聞いた話では、魔力を暴走させるアクセサリーを渡されて、兄さんが助けなければ命の危険もあった、みたいな雰囲気だったけど……。
「どうも、魔道具を使って娘を聖女にでっちあげる計画を立てていたようだね。対抗馬のフィルレシア様を失脚させるか、貸しを作るか、その辺りを狙っていたそうだよ」
「そうか、あの首飾り……」
リスティアが、最初の試合で光の魔法を使う前に触れていた首飾り。
あれがきっと、特定の光魔法が使えるようになる魔道具だったんだろう。
「そういう訳で、彼らもそう大事にするつもりはなかったそうなんだよ。案外、事件が未然に防がれて一番助かったのは彼ら親子かもしれないね」
そう言って楽しそうに笑う兄さんに、室内はちょっと引いていた。
兄さんは基本善良な完璧超人なんだけど、少しだけ笑いのツボが人とズレているところがあるのが玉に瑕だ。
いつまでも笑っている兄さんを見かねて、僕は続きを促した。
「それより兄さん。交流戦はどうなったの?」
正直、リスティアの処分よりも、こちらの方が原作を守護る上で重要だ。
優勝賞品が魔王への鍵の一つである以上、交流戦が中止になんてなれば、真エンドの条件を満たせない可能性が高い。
「ああ、それならアルマの希望通り、続けられるように交渉してきたよ」
兄さんが語ってくれたところによると、残ったチームが帝国ばかりだったことと、ほかチームが談合してルール改定を行った負い目からか、話し合いは帝国主導で進められたそうだ。
そこで兄さんは交流戦の続行とプレートシステムの廃止を訴え、すんなりと要望を通してきたとのこと。
「今の状況をディスプレイに映すのはいいアイデアだと思ったから、エリックくんに働いてもらって、現在の気力や魔力をディスプレイに表示するようにはしてもらったけれどね」
「し、仕事早いね……」
さらっと今回の件で捕まえた発明家のエリックくんをいいように使っている辺り、兄さんのしたたかさが見えるけれど、それはともかく……。
これ以後の戦いでは自前のHPやMPで戦い、どちらかがゼロになった時点で脱落、という旧来のルールに戻ったようだ。
観客も今さらプレートシステムを信用出来ないだろうし、試合続行のためには必要なことだったんだろうけど、
(それでMP問題が解決、とはいかないんだよね)
おそらくゲームにおけるアルマ・レオハルトの戦闘スタイルは、少ないMPを豊富な最大HPで代用する設計になっている。
ティータの成長率アップ効果によって能力値の伸びは大きく変わったけれど、HPMPだけは据え置きだったため、僕のMPはレベルと同じ112。
だから僕が頑張って覚えた強力な技、例えば消費MP255の〈絶禍の太刀〉などは、使った瞬間MP全損で負けになってしまう。
一方、ファーリやセイリアを見る限り、向こうのチームメンバーはどいつもこいつも魔力お化け。
彼女たちのMPは少なく見積もっても500程度か、人によっては1000にも届くかという感じなので、これは明確に不利だ。
(これも世界一ファクトリーの難易度調整の一環なのかもしれないけど……)
今回ばかりは、流石に設定ミスを疑うレベルの厳しさだ。
せめて仲間キャラの一人が弱体化、とかなら分かるけれど、主人公である僕にピンポイントで厳しいルールを持ってくるのはちょっと意地悪すぎる気もしてしまう。
同じことに思い至ったのか、チームのみんなも若干浮かない顔をしている。
ただ、あまり暗い顔をしてばかりいても始まらない。
幸い、決勝が始まるのはまだ先だ。
僕は雰囲気を変えようと、慌てて声をかけた。
「と、とりあえず、次はもう一つの準決勝だよね! まずはその戦いを見て、対策を……」
僕がそう言いかけた時だった。
「ああ、そのことなんだけど……」
兄さんがなんでもないことのように、口を開く。
「〈ファイブスターズ〉の対戦相手が棄権を表明したから、次が決勝になるね」
「……え?」
そうして、突然梯子を外されて呆然とする僕に、
「――それじゃあ期待しているよ、アルマ」
兄さんは嫌になるほど様になったウインクを決めて、颯爽と部屋を出ていったのだった。
マイペースな兄さん
前回言っていたトリッピィ絵、瑞色来夏さんがこちらに気付いて宣伝に使っていいよー的なことをおっしゃってくれたようなので、XのURL載せておきます!
https://x.com/Mz_Raika/status/1867517322560504092
ほかにも素敵なイラストがたくさんあるので、ぜひ見ていってくれれば!
そしてもちろん、そんな素敵なイラストが載っている書籍1巻2巻もよろしく(久しぶりの宣伝)