第二百十二話 守護られた原作
あけましておめでとうございます!
久しぶりのアルマ視点です!
――リスティア戦は、終わってからも大騒ぎだった。
審判によって、僕たちの勝利が宣言された直後、即座に兄さんたち帝国貴族と、他国の重要人物と思われる人たちが動いて、リスティアたちを拘束。
――「大会で不正行為を行った疑いがある」とアナウンスされて、そのまま奥に連行されていってしまった。
果たしてリスティアたちの悪行はきちんと明らかにされるのか、そして、交流戦は続行されるのか。
普通なら気が気でなくなるところだろうけど、僕は全く心配していなかった。
去り際、兄さんが僕の方を向いて、こっそりと片目をつぶってみせていたからだ。
あれはきっと、「大丈夫だよ、アルマ。あとは全部僕に任せて」と伝えたかったに違いない。
(うんうん。持つべきものは、やっぱり完璧な兄さんだね!)
ちょっとばかし秘密はあるようだけれど、公明正大が服を着たような兄さんのことだ。
きっとリスティアにも過不足のない処分をしてくれるだろう。
それよりも気になるのは、試合で僕がやらかしたポカのこと。
(最後はついノリで魔法を使って倒しちゃったけど、まずかったかなぁ?)
向こうがなんとなく最終決戦感を出して魔法を使ってきたから、こちらもなんとなくで同じ魔法で応じてしまったけれど、原作ではどうやって切り抜けたのか気になる。
(ま、まあでもこのくらい、大した問題ではない……よね?)
大会の構成を見ても、決勝戦が本番なのは明らか。
この準決勝については、とりあえずリスティアの不正を暴いて勝っておけば、おそらく大筋に変化はないはずだ。
唯一の懸念点というか、原作から逸脱してしまった可能性は、そもそも「毒」が差し入れられる流れがイベントではなかった場合くらいだけど……。
(――流石にその可能性はないか!)
世界一ファクトリーは、プレイヤーを絶対に甘やかさない。
闘技大会ではレベル100超えの猛者やシギルとかいうバグみたいな性能のキャラと戦わなきゃいけなかったし、討伐演習ではいきなりレベル90台のモンスターがわんさかいる深層に放り込まれた。
それを踏まえると、敵がプレートのHPやMPを操作したり、たまに麻痺を付与してきたり、というしょぼい反則程度ではどう考えてもぬるすぎる。
こっちが武技も魔法も使えないくらいのハンデがあって初めて、リスティアチームは障害になりえると言えるだろう。
(だから、あの差し入れは間違いなくイベント! Q.E.D.!)
そして、イベントの流れを想像するに、今回の僕のムーブは100点とは言えないまでも及第点は超えていたはず。
(うん、やっぱり僕は、今回も原作を守護れたんだ!)
会心の手応えに、僕が一人、うんうんとうなずいていると、
「――アルマ様っ!」
会場の外から、メイド服の少女が駆け寄ってくる。
てっきり僕の目の前で止まると思った彼女だったけど、
「わ、わわっ!?」
勢いのままに、僕の胸に飛び込むように抱き着いてきた。
「メ、メイさん? もう、演技はしなくても……」
「演技なんかじゃありません!」
僕の胸に手を置いた彼女が顔を上げると、その潤んだ瞳と目が合った。
「アルマ様には、本当に感謝しているんです! 救いなんてどこにもなくて、もう死ぬしかないかもしれないと思っていたわたしを、アルマ様が救ってくれました!」
その真剣な口調には一片の曇りもなく、彼女が本気でそう言っていると伝わってくる。
ただ、僕がやったことなんて本当に、原作の流れを想像してレイヴァン兄さんにちょっと「お願い」しただけだ。
「お、大げさだよ。僕は全部兄さんに丸投げしただけだし」
「もちろん、あとでレイヴァン様にもお礼をお伝えします! でも、わたしが一番感謝しているのは、アルマ様なんです!」
それでも彼女の熱は留まることはなく、僕をキラキラとした目で見つめながら、熱弁する。
「わたしの身の安全のために、わざと『毒』の入ったクッキーを食べて試合に出て、おまけに両親の店のことも気にかけていただいて……。そんなこと、普通のお貴族様なら絶対にやってくれません!」
「え、いや、それは……」
試合の方はメイさんのためというより原作通りの流れにしたかっただけだし、両親のお店の方は「こっちでリスティアの悪事の証拠が見つかるかな」という下心もあった。
(実際、兄さんに頼んで人をやったら、店で暴れようとしてたリスティアの配下の人を捕まえられたみたいだし)
大会での細工は、所詮はただの不正行為で大した罪には問われない。
だからストーリーの都合上、きっとリスティアを決定的に失脚させるような要素が別であるだろうと思って、ご両親の安全確保を兼ねて、兄さんに店の警護を出してくれるように頼んだに過ぎない。
(要するに、世界一ファクトリーのゲームだったらスパッと解決出来るはず、ってメタ読みしただけなんだよね)
ストーリーの本筋に関わらないサブキャラ、モブキャラについては「序盤よくしてもらった村にゲーム後半で行くと一面焼け野原になっている上に、廃墟から当時なついてくれていた女の子が持っていた人形が見つかる」とか、「こいつら人の心とかないんか?」と思うほどにひどい描写も多いけれど、メインストーリーに限っては基本的に勧善懲悪。
プレイヤーが上手いこと行動すれば、関わった善人全てが救われるようなシナリオになっている。
だからこそ万が一がないように行動しただけなんだけど、それがメイさんの目には優しさのように映ってしまったらしい。
彼女はますます瞳を潤ませ、ほおを紅潮させながら僕に迫って……。
「あ、あの! アルマ様は、わたしや両親が望むなら帝国に誘ってくださるとおっしゃってくれましたよね。わたし、アルマ様のためなら……」
「――ス、ストォォップ!」
だがそこで、僕らの間に飛び込むように、トリシャが割って入ってきた。
「レ、レオっち! まだ交流戦は終わってないんだから、気を抜くのは早いと思うな!」
彼女は僕とメイさんをやんわりと引きはがすと、ビシッと僕らを指さして、
「と、というか! 人前で抱き合うとか、は、破廉恥だよ! そういうのはもっと節度と慎みを持って、まずは手紙でお互いの気持ちを確かめるとか……」
なぜかしどろもどろの口調で、焦ったような、怒ったような調子でまくしたてるトリシャ。
言っていることはあんまりよく分からないけれど、正直助かった。
「ごめんなさい! わたし、すっかり舞い上がってしまって……」
「あはは。今後については、またあとで話そうね」
トリシャが間に入ったことで、メイさんも我に返ったのだろう。
顔を真っ赤にして、僕から離れてくれた。
……あの、だからトリシャ?
まるでメイさんから僕を守るみたいに、ゾーンディフェンスしなくてもいいんだよ?
「さ、さっきは庇ってくれて、ありがとうございます!」
「へへっ。やったな、レオハルト!」
それにつられて、なのか、あいかわらずリーダーなのにおどおどとしたレミナや、太陽のように笑うディークくんなど、チームメイトも集まってくる。
「みんな、ありがとう。おかげでリスティアの企みを暴くことが出来たよ」
今回の作戦。
リスティアに自分の策が上手く行っていると錯覚させることが出来たのは、チームのみんなが協力してくれたおかげだ。
僕が頭を下げると、最後にやってきた眼鏡の魔法使い、ルークスくんが挑発的に鼻を鳴らした。
「ふん! この戦いは所詮は通過点。これで満足なんて、していないよな?」
「……もちろんだよ!」
僕の目標は、あくまで優勝して「魔王に至る鍵」を手に入れること。
準優勝で満足するつもりなんて毛頭ない。
僕の答えがお気に召したのだろう。
ルークスくんはキラリと眼鏡を光らせると、
「それなら結構。……それに、あちらさんもどうやらやる気十分みたいだぞ」
会場の反対側に立つ、五人の人影を指し示した。
――〈ファイブスターズ〉。
帝国の誇る至宝であり、ゲームにおけるヒロイン。
おそらく、いや、絶対に僕らの前に立ち塞がるであろう、決勝の相手。
彼女らは闘志に満ち溢れた目で、僕らを見ていた。
特に、先頭に立つセイリアとファーリの身体からは黒い闘気が湧きあがり、やる気に満ちたその目が僕らを、というより僕を正確に捉えていて……。
「…………あれ?」
セイリアとファーリの僕を見る目。
なんだか妙に淀んでいるというか、やる気というよりも、殺る気がこもっているような……。
と、気を取られすぎたのがよくなかった。
「きゃっ」
気圧され、無意識に後ろに下がった僕は、近くにいたメイさんにぶつかってしまった。
「もう。お気をつけてくださいね、アルマ様」
「う、うん。ありがとう」
こちらからぶつかってしまったのに彼女は文句も言わず、メイドの包容力でもって、ぶつかった僕の腕を笑顔でさすってくれた。
……そして、なぜだろう。
僕がメイさんに支えられた瞬間、前の二人から感じる圧が、さらに力を増したような……。
「ああもう、レオっちさぁ……」
トリシャのどこか呆れたような声を聞きながら、僕はかつてない激戦の予感(?)に身震いをしたのだった。
最終対決へ!!
こっちが勝手に見つけただけなのでリンクとかは貼らないですが、書籍版でイラストを担当してくれた瑞色来夏さんがXでトリシャのイラストを描いてくれてました(昨年12月13日のポスト)
やっぱりトリッピィさん、ヒロインなのでは……?