第二百四話 卑怯者の賛歌
五分間だけ低位魔法の威力を半減させる〈ホーリー・ブレス〉の魔法と、四分間の試合時間。
そして、プレートの採用によって、高位の魔法が十分に撃てないように制限されたMP。
全ての要素が、リスティアチームを勝利に導くように計算されていた。
「――あなた方がこの試合のルールを受け入れた時点で、もう勝ち目はなかったんですのよ」
嗤うリスティアに、少年はかろうじて反駁する。
「ふ、ふざけるな! あのルール変更は、帝国打倒のためと……。皆が足並みをそろえれば、必ず帝国も打ち倒せると……」
少年の必死の反駁。
それを聞いて、リスティアは笑みを深くして、言った。
「ええ、ですから。帝国にも勝ちますわ。……あなた方のような、思いあがったバカを処断したあとでね」
「き、貴様はぁあああああああああああ!」
激高した第五学園の選手たちが、リスティアに向かって一斉に走り出す。
一見自暴自棄になっただけに見えるが、魔法が通用しないなら、肉弾戦に切り替えるというのは、理にもかなった策だ。
しかし、それをリスティア側が予期していないはずもなかった。
「……トーリ、コシ。おやりなさい」
落ち着き払ったリスティアの指示を受け、彼女の取り巻きたちが一斉に魔法を放つ。
「〈ファイアアロー〉!」
「〈ウォーターアロー〉!」
それは、先程の第五学園よりもレベルの低い、第二階位の魔法。
「侮るな! この程度の魔法で……なに!?」
しかし、魔法の矢が突き刺さると、彼らのプレートが、そして会場に表示されている彼らのHPゲージが、みるみるうちに削られていく。
それを、くすくすと笑いながら眺めるリスティア。
「わたくしの従者たちは優秀でしてよ。あなた方のような雑魚の基準で考えないでほしいですわね」
レベル20台のはずのトーリたちの、第二階位魔法によって大きなダメージを負っていく第五学園選手たち。
不自然な光景に見えたが、自分の地域の学園が押しているからか、声援はただ大きくなるばかり。
第五学園の選手たちは、速度と取り回しに優れた魔法の矢を避け切れず、次々に被弾。
一人、また一人と退場していくが、
「なめるなぁああああ!!」
最後の一人、リーダーの少年だけは違った。
決死の覚悟で魔法の弾幕に飛び込み、ついにはリスティアの下までたどり着く。
「なっ!?」
この展開は予想していなかったのか、表情を強張らせるリスティア。
そんな彼女に向かい、少年は気合と共に剣を振り上げ、
「これで、俺たちの勝――あ?」
その動きが、一瞬だけ、不自然に止まった。
そして、その隙が勝負を分ける。
「――隙あり、ってね」
「――斬らせてもらう!」
動きの止まった少年に、リスティアチームの前衛の二人が、強烈な一撃を叩きこんだ。
「がっ!?」
無防備なところに攻撃を食らった少年はひとたまりもなく、そのまま地面に倒れ伏す。
「ま、だ……」
それでも必死に顔を上げ、反撃を試みようとする少年。
その頭上から、声がかかる。
「雑魚の分際で、やってくれましたわね」
端麗な顔に怒りの表情を貼り付け、少年を見下ろすリスティア。
彼女は左手で右手首をつかみ、右手だけを前に向ける、独特な姿勢を取って、
「燃え尽きなさい。――〈フレアボム〉!」
次の瞬間に放たれた第五階位魔法によって、少年の身体が燃え上がった。
「ぐぁ、うぁあああああ!!」
攻撃を受け、地面に倒れたままの少年に、それに抗う手段などあるはずもない。
少年は炎にのたうち叫び声をあげるが、やがてHPを失って、会場から消えていく。
それが、この試合の決着になった。
そうして、
「――勝負あり!! リーダー戦闘不能により、勝者、第六学園リスティアチーム!」
審判がリスティアチームの名を呼ぶと同時に、爆発的な歓声が会場に響いたのだった。
※ ※ ※
次の第二試合は、僕たちの出番だ。
仲間と共に、無言で待機場所に向かう。
粛々と対戦の準備を続けながらも、頭の中には先ほどの不自然な試合がずっとちらついていた。
事前の根回しやら交渉やらがあったとしても、表向き、リスティアたちは作戦によって勝利を収めたように見えた。
(でも、何か引っかかる……)
あの試合を額面通りに受け止めてはいけないと、直感が警鐘を鳴らしていた。
そうして、そうやって抱えていた違和感は……。
「……なんだよ、これ」
試合前に配られたプレートを見た瞬間に、怒りへと変わっていた。
〈気力プレート(アクセサリ):
決闘場で受けたダメージを肩代わりするプレート。
エリックによって特別な調整がされ、耐久値が半分に削られている。
また、外部からの操作で装備者を一瞬だけ麻痺させることが出来る。
耐久値 50 / 50〉
ルールの悪用とか、不利な調整、なんて話じゃない。
この交流戦は、徹頭徹尾イカサマだらけだった。
(……舐めたこと、してくれるな)
さっきの試合。
第五学園のチームがあからさまに弱い攻撃でみるみるダメージを受けていたのも、最後に少年の動きが止まったのも、全てがリスティアたち、特区側の仕込みだった訳だ。
ギリ、と唇を噛む。
不正を告発するのは大前提。
けれど、それとは別に、直接殴ってやらなければ気が済まなかった。
ただ、そのためには……。
「みんな……。みんなに、協力してもらいたいことがあるんだ」
僕一人じゃ、無理だ。
チームのみんなの、協力がいる。
首を傾げながらも、こちらに視線を向けるチームのみんなに、僕は言った。
「次の試合、作戦を変更しよう。プランDでいく」
「お、おい。プランDって、それ……」
ディークくんが驚いた声をあげるけれど、それも当然。
――プラン「デストロイ」。
それは、以前にディークくんが悪ふざけで言い出した作戦。
全員がそれぞれ別々の相手に最大火力の攻撃を叩きこむことにより、理論上は開幕十秒で勝利出来る、超速攻戦術だった。
次回、特に関係のない奴らへの怒りにより、圧倒的な暴力が第三学園を襲う!
果たして彼らは生き残れるのか!
(交流戦は安全にも配慮して行われております)
次回、第二百十五話「実現不可能な命題」
お楽しみに!