第二百一話 制限ルール
祝! 書籍発売!
この笑顔のファーリさんは、イラストを担当してくれた瑞色来夏さんが、二巻発売を記念して書いてくれた応援イラスト……
ではなく、一巻の時に書いてくれた応援イラストの別バージョンです!
いえ、こっちのバージョンも機会があったら紹介したいなー、と一巻発売当時に思ってたんですけど、見せる前にエタっちゃったんですよね!
二巻で「ファーリ要素が足りねえ」と思った方々、どうぞご査収ください!
「……そろそろ行かないと」
そう思って部屋を出たものの、僕はまだ少し、フィルレシア皇女の話を引きずっていた。
(……レイヴァン兄さん)
フィルレシア皇女の事情やリスティア親子も気になるけれど、時間を追うごとに存在感を増してきたのは、兄さんの「秘密」だ。
おそらく人間不信気味になっていただろうフィルレシア皇女が信用したのだから、口で使えると言った訳ではなく、子供ながらに実際に闇魔法を使ってみせたはず。
いや、それを抜きにしても、全ての魔法が均等に使える時点で、兄さんの得意属性は闇で間違いない。
つまり、〈エレメンタルマスター〉と呼ばれ、学年で一番の魔法使いだと讃えられている状態すら、兄さんの本気じゃない。
得意魔法ではない、四大属性だけを使ってトップを張っているとしたら、その、本当の実力は……。
僕は無意識に、ごくりと唾を飲みこんでいた。
(それに……)
僕、〈アルマ・レオハルト〉の適正属性は、光。
九年間の苦行じみた熟練度上げで無理やり使えるようにしているだけで、四大属性の適性は控えめに言ってカスだし、闇属性も全く得意じゃない。
対して、兄さんの適正属性は、闇。
けれどほかの四大属性にも優れた適性を持ち、闇以外の属性についても使いこなしている。
僕と兄さんの魔法適性が、あまりにも綺麗な対比になっているのが、ちょっと気にかかる。
(しかも、原作のアルマくんが自分の光属性の適性に気付くのがいつか、全然分からないしなぁ)
隠された力を秘めた不出来な弟、優秀で完璧すぎる兄、闇属性、そして、石影 明ボイス。
もはや、嫌な予感しかしない。
「……信用、していいんだよね? 兄さん」
僕は虚空にそう問いかけるけれど、脳内のイマジナリー兄さんは何も答えてはくれなかった……。
※ ※ ※
(……当たり前だけど、やっぱり〈ディテクト・アイ〉は使えないな)
交流戦の会場に向かう途中、ダメ元で〈ディテクト・アイ〉を使ってみたけれど、やはり文字化けした表示が見えるだけで、一切の情報が得られない。
ただ、意外なことに、
(頭の上のHPMPゲージは、普通に見れてるんだよね)
しっかりと確かめた訳ではないけれど、表示内容がおかしくなっているということもなさそうだ。
おそらくそれは、これが道具を使ったものではなく、転生者である僕個人が持つ、ゲーム由来の特殊能力だからだろう。
考えてみれば〈ディテクト・アイ〉や〈おてがルーペ〉でも、現在HPやMPの表示はなかったし、完全な別システムなのかもしれない。
などと検証しながら歩いていると、ほどなく交流戦の会場が見えてきた。
「あ、アルマくーん! こっち、こっちだよー!」
会場に着いて、さてどこに行くかと周りを見回していると、ぴょんぴょんと跳ねながらセイリアがこっちに手を振っているのが見えた。
少し照れ臭い思いをしながら、足早にそちらに向かう。
悪目立ちしないように、急いでセイリアの左隣に立ち、ずっとここにいましたよ、という顔で紛れ込もうとすると、
「……レオ、遅い」
なぜか、僕の左隣からファーリがにょきっと生えてきて、そんな文句を言う。
「い、一応、僕らは別のチームだと思うんだけど」
そんな風に一応釘を刺すものの、
「そんなの今さら。毎日一緒に訓練してたのに」
と、ぐうの音の出ないほどの正論をかまされて、僕は口を閉ざすしかなかった。
……このセイリアとファーリは、二人とも原作ヒロイン。
つまり、〈ファイブスターズ〉の一員なので、この大会では別チームで、ある意味では最大のライバルだ。
ただ、チームが分かれてからも、セイリアやファーリは態度を変えず、たまにチーム練習で分かれる以外では、結局普通に教室でも放課後でも一緒に過ごしてきてしまった。
「あはは! まあ今はルールの説明とかがあるだけなんでしょ! 今日は気にしなくてもいいと思うな!」
そうとりなすように口にしたのは、セイリアだ。
確かに、学校から聞かされていた予定表によると、初日は実質移動と出場選手たちの顔合わせだけ。
会場でやることは対戦の組み合わせ発表やルール説明だけで、そこから現地に一泊して、翌日に本格的な対戦が始まるという話だった。
「それなら、まあ……」
本来のチームメンバーと一緒にいないと、原作イベントが起きた時に困る、というだけで、別に僕もチームにこだわっている訳じゃない。
僕はうなずいて、二人と一緒に交流戦の説明を受けることにした。
※ ※ ※
「……〈トーチ〉、……〈トーチ〉、……〈トーチ〉」
「失礼だし目立つから、人が説明している時に魔法の練習するのはやめようね」
「むぅ……。レオはけち」
……なんて一幕があるくらい、最初のうちは退屈な時間が続いた。
トーナメント表はすでに見てきていたし、各チームのメンバーの発表も、違う学園の人の名前だけを見せられても、こっちには誰が誰やら分からない。
しかし、案の定と言うべきか、
「――それでは次に、不肖このリスティア・ロブライトが、今大会の『新ルール』を発表いたしますわ!」
ルール説明で、金髪ドリルお嬢様が仕掛けてきた。
「今までの交流戦では一般の観衆を入れてはいたものの、試合内容を理解するには相応の知識が必要で、ショービジネスとしてはお粗末なものでしたわ。ですからわたくしたち〈特区〉は、その問題点の改善に取り組んでまいりましたの」
リスティアは、大仰な仕種で会場の人々に語りかける。
「これまでの対戦では、決闘場のシステムを用い、出場選手の気力か魔力が尽きた時点で敗北が決定するようになっておりました。ですが、それではどの選手がどの程度消耗しているか、傍目には分かりにくい。その問題を解決すべく開発しましたのが、この装置ですわ!」
そこで意気揚々とリスティアが掲げて見せたのは、長方形をした、赤と青のプレートだった。
「この魔道具は、装備者の気力や魔力の消費を一定量肩代わりする装置。これを我が〈特区〉の技術力により決闘場とリンクさせ、このプレートの気力や魔力残量が尽きた時にも会場から排除されるように、システムを変更いたしましたわ! さらに、このプレートであれば、試合場のモニターにその消耗状態がはっきりと映し出せますのよ!」
彼女が論より証拠、とばかりに青いプレートを身に着けると、背後にある大型のモニターに、
リスティア ――――――
と、彼女のプレートの魔力残量を示すであろうバーが表示される。
さらに彼女が、天に向かって〈ファイアアロー〉の魔法を放つと、プレートの青い部分と、そこにリンクしたモニター上のゲージが、ぐぐっと減少した。
それを目撃した会場の人たちが「おおっ」と歓声を上げるが、
「……むぅ。姑息」
隣でリスティアをつまらなそうに眺めていたファーリは、口をとがらせながらそうこぼした。
そこでようやく僕も、リスティアの思惑に気付く。
「……あ、そうか」
あのプレートは、「一定量」の気力や魔力の消費を肩代わりする、と言っていた。
言い換えればそれは、本人の持つHPMP量を無視するということ。
「ど、どういうこと?」
首を傾げるセイリアに、説明する。
「選手本人が、どんなにたくさんの魔力を持っていても、あのプレートの魔力が尽きた時には負けになる。……つまり実質的に、あのプレートを使うと、もともとの気力や魔力が高い人間も、低い数値にそろえられてしまうってことだよ」
「って、ことは……」
思い当たっただろうセイリアに、僕はうなずいた。
「位階が高い僕ら帝国チームは、気力や魔力の量を大きく制限されるだろうね」
観客のための仕様だなんて、とんでもない。
これはおそらく、HPMPの多い僕ら帝国側を弱体化させるための、特殊ルール。
さらに、ファーリが口を開く。
「……それだけじゃ、ない。見て」
彼女が指さしたのは、会場のモニターに表示された、リスティアの残りMP。
「〈ファイアアロー〉であれくらい減るなら、プレートの魔力量は、〈トーチ〉二十五回分くらいしかない」
初級魔法のMP消費は2。
ということは、あのプレートのMPはたったの50しかないということになる。
「……そうか。魔力が少なければ、大きな魔法は使いにくくなる。それで、高位魔法のアドバンテージを消すつもりなのか」
とことんまで、選手の能力差を打ち消そうとするような調整。
帝国チームを狙い撃ちにしようとしているのは、明らかだった。
それを聞いたセイリアは、激昂した。
「そ、そんなのひどいじゃん! い、今すぐ大会側に抗議をして……」
セイリアはそう訴えかけるが、ファーリは首を振った。
「うちの学園側は了承している。無駄。それに……」
彼女はそこで言葉を区切ると、眠たげな目を一瞬だけ開いて、
「――小細工させたまま、力で叩き潰す方が、おもしろい」
そう、好戦的に笑ったのだった。
応援イラストに引っ張られたのか、リスティア回のはずがファーリ回に……
今回ちょっと遅れましたが、まだまだ更新継続中!
連載の応援と、ファーリが一瞬しか出てこない書籍二巻もよろしくお願いします!