第百九十八話 クソみたいな能力
なぜかヒロインのような立ち位置に居座るトリシャ=サン
都市全域に及ぶ鑑定妨害を発生させ、思わせぶりな言葉を口にした金髪ドリル……もとい、リスティアだったけれど、
「――キ、キィィィィィ! こ、この程度で勝ったと思わないことですわよ!」
その後、普通にフィルレシア皇女との口喧嘩に負け、涙目になっていた。
「え、えぇ……?」
さっきまでの強キャラムーブはなんだったんだよ、と言いたくなる即堕ちっぷり。
思わず僕の口からも、呆れの声が漏れる。
「リ、リスティア様。人が……」
しかし、隣のメイド少女に心配そうに言われて、ようやく自分がたくさんの人々に注目されていることを思いだしたらしい。
コホン、と咳ばらいをすると、今さらながらに態度を取り繕った。
「ふ、ふん! 今はせいぜいいい気になっていることですわね! トーナメント表を見ましたかしら? 決勝の舞台であなたをギタンギタンにぶちのめすのが、今から楽しみですわ!」
吐き捨てるように言い捨て、「行きますわよ!」と言いながら、取り巻きと共に去っていく見事なかませムーブ。
大袈裟に怒って逃げ出していく彼女の姿は、見ようによってはコミカルにも見える。
ただ……。
「このグズ! さっさと行きますわよ!」
重そうな荷物を持ったメイドさんに、八つ当たりのように蹴りを入れているところを見ると、どうやら見た目通り、性格はよろしくないようだ。
(漫画とかゲームなんかだと、ああいうコテコテのドリルお嬢様は、敵でもちゃんと誇りを持っていたり、ポンコツでどこか憎めなかったりするものだけど……)
あのリスティアは、どうやら心も含めて完全な悪役令嬢。
同情の余地もないような、完全完璧な悪役らしい。
「ああいう人の下にはつきたくないね」
去っていくリスティアの背中を見送っていると、いつのまにやら隣に来ていたトリシャがしみじみとそう口にした。
「……そうだね」
彼女が引き連れていたメイドさんのレベルは、鑑定妨害が入る前に見たところ、たったの2しかなかった。
そんなレベルで、あんな重そうな荷物を運ばされたら、そりゃあ遅れるに決まっている。
(それを、誰もたしなめなかった、ということは、特区の学校の治安には、あんまり期待しない方がよさそうかな)
うちの学校も大概ではあるけれど、そこはやはり学園モノのゲームの舞台。
トップを張るフィルレシア皇女が完璧にクラスをまとめていることもあって、うちのクラスの雰囲気はかなりいい。
そんなところにも、リスティアとフィルレシア皇女の格の違いが表れているようにも思えた。
「……でも案外、このトーナメントの最大の障害は、あの人なのかもしれないね」
「えっ?」
ぼそりとつぶやかれた言葉に、僕は驚いてトリシャの方を見た。
「い、いや、だけど〈特区〉の学校は新設校で、あんまりレベルが高くないって聞いたよ? さっきも、妨害が入る前に見たレベルは、みんな20程度だったし……」
もちろん、あれは取り巻きのレベルであって、大会出場選手のレベルじゃない。
けれど、学園の平均レベルがあのくらいなら、上澄みのレベルも低くなるというのが予想出来る。
僕の疑問に、トリシャは真剣な顔で答えた。
「もちろん、単純な強さだったら、流石にわたしたちの方が上だと思うよ。でも……」
それから、トリシャはリスティアが去っていった方向を険しい顔で見つめた。
「途中、鑑定妨害をかける時に、リスティア様が何を言ったか、覚えてる?」
「妨害の時? ええと……」
僕が記憶を探り出す前に、トリシャはその答えを口にした。
「――エリック、だよ」
人名と思しきその言葉に、僕は首を傾げた。
「〈エリック・アンダープルーフ〉は、〈特区〉が抱える天才発明家の名前なんだ。昔から、みんなが驚くような発明をして世間をにぎわせてた。ほら、前にレオっちがほしいって言ってた〈おてがルーペ〉もその一つだよ」
だとすると、相手は技術力では僕らの上を行っていることになる。
けれど、彼女の話は、そこで終わらなかった。
「ただ、一つ気になることがあるんだ。……エリックの発明は、これまで全部『魔物の脅威から身を守るため』のものだった。でも、この発明は違う」
「あ……」
言われて、気付いた。
例えばルーペであれば、魔物の強さを調べて戦闘を有利に運んだり、場合によっては回避したりと、魔物の脅威を減らすことが出来る。
なら、鑑定妨害の装置は?
魔物は、人を鑑定なんてしない。
これはどう考えても、人と人とが争う時にしか役に立たない発明だった。
「もし、あの発明を行ったのが、リスティア様やロブライト侯爵家の圧力によるものだったとしたら……」
それは、特区で一番の発明家をも手中に収める権力が、彼女にあるということ。
そうなれば……。
「――〈特区〉主催のこの大会は、全てがリスティア様に都合のいいように、改変されているかもしれない」
深刻そうな顔でそう口にしたトリシャだったけれど、そこで自分の口にしたことの危険性に気付いたらしい。
「な、なーんてね! 冗談、ちょっとしたジョークだよレオっち!」
もう、からかいがいがあるんだからー、とわざと軽薄な仕草で僕に身体をぶつけてくるトリシャ。
なかったことにしたい意図は分かるけれど、どうしても原作を守護りたい僕にとって、それは無視出来る言葉じゃなかった。
何よりも、
(あの世界一ファクトリーが、ただ格下の相手と戦闘するような、ぬるいイベントを設定するはずない!!)
という思いが、僕に嫌な確信を与えていた。
「あ、あの、ほんとにあんまり悩まないでね。証拠も何も、全然ない話なんだから」
確かに現状、これは言いがかりに近い疑いに過ぎない。
リスティアが単なる普通の対戦相手なのか、それとも僕らに立ちふさがる大きな障害なのか。
それを確かめる方法は、一つしか思いつかなかった。
「……トーナメント表を、見に行こう」
「えっ?」
唐突な僕の提案に、トリシャが驚いて声をあげる。
「彼女はトーナメント表はもう出てるって言ってたよね。それを見れば、彼女がどの程度の脅威なのか、判断出来ると思う」
それを聞いて、トリシャは理解出来ないという風に首を振った。
「も、もしかして、トーナメントの組み合わせが操作されてるかを見るってこと? でも、そんなの……」
「あはは。違うよ。……ただ」
混乱した様子のトリシャに、僕は少しだけ意地の悪い笑みを浮かべて、答える。
「――僕はちょっとだけ、未来予知が出来るんだ」
対戦順から敵の強さを予想するやーつ!
昨日カクヨムでの新連載の話をしましたが、皆さんの熱い応援のおかげで、ついに!
「バーチャル美少年ダンジョンチューバー」で検索したらちゃんと小説がヒットするようになりました!!!!
この日を夢見てずっと頑張ってきた甲斐がありました! 感無量です!!
……い、いえ、まあカクヨム知名度的にはまだほぼ0に近いと思うんですが、だからこそ検索にかかるようになったのは間違いなくここの人たちのおかげですからね!
引き続き応援よろしくお願いします!
次回更新は明日!
あ、あと宣伝全然出来てないですが、二巻もよろしくお願いします!