第百九十二話 窮鼠
ちょっと懺悔しますと、前回のファーリイラストの左上にあったクソダサフォント謎タイトルは実はこっちが勝手に付け加えたもんなんですよね
いや、だって左上にコメント入れてもいいよって渡されたので「なんか書かなきゃ!」って無駄な義務感に駆られてですね……
セイリアが二段階もランクの高い精霊と契約した嬉しさも、モブキャラのはずのレミナが光の超級精霊を呼び出した驚きも、それ以上の衝撃を前に消え去ってしまった。
――精霊のレベルは見ることが出来ない。
だとしたら、学園に初めて来た日に僕が見た「250レベルのナニカ」は、フィルレシア皇女の精霊ではなかったことになる。
……あの時見たモノが一体なんだったのか、可能性は色々と考えられる。
一番穏当なところでは、精霊の中でも大精霊は特別だから、例外的にレベルを見ることが出来た、とか。
フィルレシア皇女の本当のレベルは250で、僕に見られたあとに98レベルに偽装した、とか。
あるいは、あの「ナニカ」が精霊のフリをして皇女を騙している〈魔王〉そのもので……なんて可能性だってないとは言えない。
真相がなんであれ、これは間違いなく、僕が原作の舞台である学園にやってきてから知った中でも一番大きな秘密だ。
そんな、とんでもない「秘密」を知ってしまった僕は、
(――あぁ、よかった)
心の底から、安心していた。
……実を言うと、これまで上手くやれていると自分に言い聞かせながらも、心のどこかに不安を抱えていた。
原作を守護ると言っても、原作ミリしらな僕には、本当に原作通りにイベントが進んでいるのか確かめるすべがない。
だから実は、「僕はことごとく原作を守護るのに失敗していて、原作はもうベコベコのボッコボコになるまで改変されている」のではないか、なんて、妄想じみた不安に取りつかれ、眠れない夜を過ごすこともあった。
……でも、それは杞憂だった。
確かに、枝葉末節の部分は原作と違っているかもしれない。
いや、もしかすると、普通は変わらないような大きな箇所も原作と異なる展開をしていることだってあるかもしれない。
だけど、大丈夫だ。
あのフィルレシア皇女の「秘密」は、明らかにゲームの根幹をなすもの。
ゲームのメインストーリーはいまだにこの学園にどっしりと根を下ろしていて、僕らがやってくるのをじっと待ち構えている。
僕は「その時」に最善の行動を取れるよう、備えるだけでいい。
(それに……)
この「秘密」に早い段階で気付けたことは、かなりの情報アドバンテージだ。
おかげで、ようやく原作におけるフィルレシア皇女の「立ち位置」も透けてきた。
彼女はおそらく、「序盤は思わせぶりなことばかり言ってストーリーに関わらず、ゲーム終盤になってようやく目的が分かる」タイプのキャラクターだ。
――何しろ、250というレベルはあまりにもぶっ飛びすぎている。
帝国最強と言われている元英雄の父さんや、剣聖であるグレンさんですら、レベル150前後。
それを100も上回るというのは、はっきり言って通常の手段じゃ到達不可能だ。
この世界では格下を狩るだけでは成長出来ない。
演習の時に深層のモンスターを千匹狩っても大してレベルが上がらなかったことを考えると、250レベルになるためにはもっと高レベルの敵を倒す必要がある。
(でも、僕の知る範囲では250どころか、200に迫るレベルの敵すら見たことがない)
僕が見た一番高いレベルの敵は、〈世界樹の落胤〉の180レベル。
あとは可能性があるとしたら〈終焉の封印窟〉の敵だけど、経験値の上がり幅を見ると、200を超えているということはないだろう。
(一応、例外として僕が育てたボム三郎たちもいるけど……)
あれは仕様の裏をついて作ったものだから、原作で想定されているものじゃないはず。
それに、養殖したモンスターは表記上のレベルは高いから熟練度上げには最適だけど、強さも経験値も大したことがない。
仮にレベルを千まで上げた〈リトルボマー〉を倒しても、せいぜいレベルが一つ上がるかどうかというところ。
少なくとも、250レベルを目指すには全く足りない。
――250なんてレベルは、「存在している」こと自体がおかしいのだ。
もちろん、「到達の難しさ」という以前に、純粋な強さの問題もある。
レベルは100を超えると、1レベル当たりの必要経験値量が増える代わりに、能力上昇値が大きくなる。
実際、レベル100弱の深層モンスターと、レベル180の〈世界樹の落胤〉を比べると、倍どころでは済まない戦力差を感じた。
たとえ深層モンスター百体が束になってかかっても、〈世界樹の落胤〉一体に勝てないだろう。
――だったらそれをはるかに上回るレベル250は、と考えると、その異質さがよく分かる。
こんなもの、スライムの群れの中にしれっとドラゴンが一匹紛れ込んでいるようなものだ。
(……でも、だからこそ逆に安心出来るっていうのもあるんだよね)
そんなぶっ壊れキャラが味方にいればどんな強敵も倒せるし、敵に回れば主人公たちはあっさり全滅してしまうだろう。
この世界の元ネタがゲームである以上、そんな展開になるはずがない。
つまりは原作を逸脱しない範囲で進めれば、「皇女の秘密」がゲーム前半にはあまり関わって来ないことが保証されているのだ。
(……切り替えていこう)
フィルレシア皇女の秘密には気付いていないフリをして、原作の守護を優先する。
未来に目を向けすぎて、目の前のイベントを取り落とすのが一番まずい。
(……なぁんてこと言っても、次のイベントは楽勝そうなんだけどね)
次の学校行事は、〈学園交流戦〉と呼ばれるイベントだ。
帝国には英雄を育てる学園は一つしかないのに、ここが『第一』英雄学園と呼ばれているのはなぜか。
それは、帝国以外の国家にも、「英雄を育成する学園」が存在するからだ。
各国に一つずつある「学園」は、それぞれがバチバチにライバル意識をむき出しにしていて、それがぶつかり合うのが次の学校行事。
――早い話が、その各学園の代表者が集まってトーナメントを行う、というのが〈学園交流戦〉の概要になる。
通い慣れた学園を一時離れ、まだ見ぬ強敵との熱いバトルが繰り広げられる……のが、本来の流れなんだろうけど。
(ただはっきり言って、そんな強敵はいなさそうなんだよね)
武を重んじる気風の帝国は、当然ながら「学園」のレベルも高い。
だからこの〈学園交流戦〉でもその実力を遺憾なく発揮していて、この十数年、交流戦での優勝を逃したことがないらしい。
(たぶん、入学時にクラスメイトよりも弱い主人公に合わせて、主人公でも活躍出来る手ごろな敵を用意してくれているんだろうけど)
今となっては、僕のレベルは同級生と比べても抜群に高い。
さらに言えば原作アルマくんと違って魔法だって普通に使えるし、いざという時の切り札だってある。
クラスメイトよりも弱いであろう、ほかの学園の新入生に負ける要素がないのだ。
(それに、強くなったのは僕だけじゃない)
無限指輪や養殖魔物による熟練度上げや、本来今の時期に手に入るはずのない強武器やレアエンチャント。
直近で言うと精霊の更新なんかも行って、セイリアやファーリたちも入学時とは比べ物にならないくらい強くなった。
盤石も盤石。
もはや負ける方がおかしいレベルだ。
(むしろ、原作から外れないように、やりすぎないことの方が大変かもしれないな)
その考えを裏付けるように、僕は当然のように交流戦の代表に選ばれて、セイリアたちと一緒に〈学園交流戦〉の説明会へと赴いた。
けれど、
(――な、な、なんだよ、これぇ!!)
僕はそこで、〈世界一ファクトリー〉の作るゲームがいかに鬼畜なのかということを、思い出すことになるのだった。
ついに牙をむく原作!!
交流戦の具体的な内容については次回!