第百八十五話 プレゼント効果
予告通り、今回は現代でのゲームパートになります!
「……来い来い来い来い来い来い!」
テレビ画面に向かってぶつぶつとつぶやきながら、決定ボタンを連打する。
そうして、もはや親の顔より見た「鑑定中………………」という焦らしメッセージの「…」がゆっくりと増えていくのを、私は血走った目で見守って、
〈闇夜の煌めき(貴重品):月をモチーフにした首飾り。闇夜に月が煌めくように、絶望の中でこそ希望は輝く。プレゼント専用アイテム〉
そのアイテムが画面に表示された瞬間、
「やったぁあああああああああああああああああああ!!」
深夜にもかかわらず、喜びのあまりつい叫んでしまっていた。
すぐに我に返って慌てて口を押さえ、隣の部屋から壁ドン(嬉しくない方の奴)が飛んできたりしないことを確認して、ホッと胸をなでおろす。
ふたたびゲーム画面に向き直るとバザー会場から出て、間違って消してしまわないように二ヶ所にセーブをすると、ようやく息をついた。
(……ほんと、何やってるんだろ、私)
あの「転生が報酬のアンケート」に落選してから〈フォールランドストーリー〉熱が再燃してしまった私は、忙しい仕事の合間を縫うようにフォルストのプレイを続けていた。
(こーんなガチるつもりはなかったんだけどなぁ)
今日やっていたのは、いわゆるリセマラによるランダムアイテム厳選。
一年の前半に行われるバザーイベントを何度もやり直し、攻略に有用なアイテムが出るまでリセマラしていたのだ。
ちらりと時計を見ると、時刻は深夜二時。
作業を始めたのが十時過ぎだったはずだから、大体四時間といったところか。
(まあ割と早かった方、かな?)
バザーで売り出されるアイテムは購入時点では中身が分からず、鑑定を行った時に何種類かの候補の中からランダムでどのアイテムかが決まる。
今回私が狙っていたのは、バザーの端の店で低確率で売りに出される「ペンダント?」というアイテムを鑑定した時、ごくごく低確率で出現するこの〈闇夜の煌めき〉というユニークアイテムだ。
明日は休日とはいえ、私が夜更かししてまでこのアイテムを掘り当てたのは、ほかでもない。
――何を隠そうこの「ペンダント」こそが、私の最推しの攻略対象である「ハルト様」を最強キャラ足らしめる、最重要ピースなのだ。
※ ※ ※
このゲームは乙女ゲームであるからして、当然好感度やプレゼントという要素がある。
そして、誕生日にプレゼントを渡すと普段よりも効果が高いのだけれど、特に仲間に誘えるキャラクターは、誕生日に「そのキャラに合わせた専用のアイテム」を渡すことで、好感度が爆上がりする上に戦闘能力までパワーアップするのだ。
もちろん当時の私は全キャラの専用プレゼントを割り出して、その能力変化を調べた。
その結果、そういった専用アイテムは全て作中に一個しか存在しないユニーク品で、どれも入手は困難を極めるが、重要キャラクターほどアイテムの入手難易度が高く、パワーアップの量も多い傾向があると分かった。
ただ、徹底した調査をしても専用プレゼントが見つけられなかったキャラが一人だけいて、それが太っちょのマルマインくん。
もうほかの人の専用アイテムだと分かっているものだけを除いて、全てのプレゼント可能アイテムを総当たりして試したのだけれど、この子にだけはどれもヒットしなかったのだ。
代わりに食料アイテムをあげると、能力に変化はなくとも専用プレゼントくらい好感度が上がったので、きっとこれが専用アイテム代わりなんだろう。
……ちなみに食べ物ならなんでもいいらしく、HPMPを全快する超貴重品の満漢全席でも、購買で一ゴールドで売っているパンの耳(HPを1回復する)でも同じだけ喜んでくれる辺り作中最高にチョロ……エコないい子である。
(まあマルマインくんは全然使っていなかったし、作中の扱いからして仮に専用プレゼントがあっても大きくパワーアップすることはないだろうから、問題はないんだけど……)
攻略対象キャラになると、そうも言っていられない。
――攻略対象に専用アイテムを贈った時のパワーアップの内容は、「能力値の割合上昇」と「技の習得」。
例えば、モブ筆頭の地味子ちゃんは、主人公が最初に潜るダンジョンの宝箱にある〈青い薔薇〉が専用アイテムになるが、それを渡した時のパワーアップは魔力が5%上昇するだけ。
対して、メインキャラの一人であるDくんは、専用アイテムが複数の高難易度ダンジョンを横断するサブイベントをクリアしないと入手出来ない代わりに、それを贈るだけで体力の現在値が50%アップして、さらに〈スパイクガード〉という有用なガード技を習得出来る。
50%アップというのは、SRPGにおいてはゲーム性を変えてしまうほどの強化だ。
そのあまりの強化具合から、「キャラ性能はプレゼント効果も込みで考えるべき」とネットでは言われていたほど。
ではその中で、私の推しであるハルト様のプレゼント効果はどうだったか、というと……。
(――メインキャラの中では一番パッとしない、って言われてたんだよね)
ハルト様の専用プレゼントアイテムである〈闇夜の煌めき〉は、ゲーム時期で入手方法が変わるめずらしいアイテムで……。
一年目の場合、私がやったようにバザーイベントの激レア枠を引き当てる。
二年目になると、二年生になってから入れるようになるダンジョンで拾う。
さらに三年目になると、秘密の店の販売リストにしれっと追加されている。
と、年々入手難易度が下がっていく。
そんな仕様のためかプレゼント効果自体も比較的地味で、主要能力、つまり「腕力・体力・魔力・精神・敏捷」が全て10%ずつ上がり、〈オーバーチャージ〉という技能を覚えるという効果になっている。
まず、〈オーバーチャージ〉は「スキルに通常より多くの魔力を注ぐことで威力を上げる」という技能だけれど、これははっきり言ってあまり役には立たない。
(せめて、もっとMPに余裕があるゆるーいゲームなら使い道もあったんだろうけど……)
チャージをするのに余計なターンとMPを使うため、そんなことをするよりは同じくらいの技を二回使った方が強いし消費も少ないし、最大ダメージチャレンジをする時にくらいしか出番はない「外れスキル」と言える。
じゃあ能力値上昇はどうなのか、というと、一つの能力を五割増しにするとはっきり強くなったと分かるけれど、全部の能力を一割ずつ上げられても、正直目に見えるほどの変化はない。
……というのが、最初の頃のネット評価。
(まあそれも、周回が流行るにつれて覆っていったんだけど)
プレゼントでどのくらい能力が上がるかは、「プレゼントした瞬間の能力値」から算出されるので、元の数値が高いほど効果は高くなる。
だからレベルを上げて強くなってからプレゼントをした方が効果が高いのだけど、実は一度に上げられる能力値は99が限界らしく、強くすれば強くするほど、その上限に引っかかってしまうと分かったのだ。
(初見はともかく、引き継ぎ二周目だと絶対に99制限に引っかかっちゃうんだよね)
例えばDくんなら「体力の50%」が上昇値になるから、体力が198を超えるともう上限にかかってしまうため、体力が300でも1000でも10000でも、プレゼントを贈った時の体力上昇量は99から変わらない。
一方でハルト様の場合、上昇するのは「主要能力の10%」なので、能力値が990を超えるまで上限の影響を受けないし、仮にそこまで行っても五つの能力で99の能力上昇を受けられるので、最終的にはほかのキャラの五倍の恩恵を受けられることになる。
さらにさらに!
ハルト様は攻略対象キャラの中でも誕生日が早く、しかも専用アイテムの入手が比較的容易なため、
「引き継ぎニューゲーム」→「ハルト様にプレゼント」→「ハルト様パワーアップ」→「特殊エンディングで早期クリア」→「引き継ぎニューゲーム」
をひたすら繰り返して最強のハルト様を作る、通称「ペンダント周回」なんていう技まで生まれていて……。
(――ま、そんなのはまだ一周目をやってる私には、ぜんっぜん関係ないんだけどね!)
とりあえず戦力がカツカツな初周は、少しでも即戦力が欲しい。
タイミングとしても本当は、ハルト様のプレゼントの有用性が際立ち始めるレベル100以降に使いたいところなんだけど、まあ仕方ない。
(初期レベルが高いハルト様なら一年目にプレゼントしても十分に効果はあるし、誕生日までに〈闇夜の煌めき〉を用意出来ただけでもよしとしなくっちゃ!)
私はボタンをポチポチと操作して、四時間の作業の成果である〈闇夜の煌めき〉を画面の奥のハルト様に渡す。
『ありがとう。この首飾りを君だと思って、大切にさせてもらうよ』
なんて言ってくるハルト様のイケボににやけながら、ふと思う。
このゲームでは首飾りの入手方法は三つあるけれど、システム上、専用プレゼントアイテムはユニークなアイテムというルールのためか、どこか一ヶ所で手に入れるとほかの方法では入手出来なくなってしまう。
でも、もし、もしもこのゲームの世界に転生したら……。
(――三つの首飾りを全部ハルト様に渡して、最強のハルト様を作れるのになぁ)
しばらくありえないことを妄想して、私はぶんぶんと頭を振った。
(ああ、もう!)
この前変なアンケートを見たせいか、おかしなことを考えてしまった。
実際には転生なんてある訳ないし、あったとしても私には関係のない話。
今はゲームを進めて、「次」に備えないと。
何しろ、次の学校行事は、作中最高難易度と名高い例のバトルイベント。
――「初周での完全クリアは理論上不可能」とまで言われた、最凶イベントなのだから……。
次なる刺客!





