第百七十九話 それってホントにニンゲンですか?
デデーン!
ということで、ミリしら書籍版一巻、2月28日に発売です!
いえ、もう知ってる方もたくさんいたみたいですが、せっかくだから書影解禁されてから告知したかったんですよね!
割と癖つよな絵柄の方なのでイメージ合う合わないあると思いますが、フィルレシア皇女とかめちゃくちゃいい感じなので楽しみにしていてください!
いいですねッ!
「……ティ、ティータ」
錬金術ショップの店員、スフィナをなんとか誤魔化せたと思った矢先、僕の前に立ちふさがったのは、怒れる精霊、ティータだった。
「ほんっとニンゲンって……ううん、アルマってワケわかんない! なんで飲んだら死んじゃう薬なんて自分で飲んじゃうのよ!」
ティータは僕が即死薬の〈バブルポーション〉で即死耐性上げをしたことにご立腹なようで、分かりやすく肩を怒らせている。
空中に仁王立ち(?)するティータに、僕は必死に言い訳する。
「それは、ほら。死んでも大丈夫なようにしてくれた、ティータのおかげというか……」
おずおずとそう口に出したのだけれど、どうやらその答えはティータには気に入らなかったらしく、
「もう! もう! もおおおお!! アタシは、そんな無茶をさせるために魔法をかけたワケじゃないんだからね!」
と、さらにおかんむり。
それをなだめるために、慌てて、
「きょ、今日はもうやらないからさ」
と言ったのだけれど、それを聞いたティータはまた目を吊り上げた。
「今日は、って、あんな目に遭ったのにまだやるつもりなの!?」
「それは……うん」
また誤魔化そうかと思ったけど、やめた。
しっかりと顔を上げて、ティータの目を正面から見つめて、言う。
「――僕は、無茶でもなんでも、強くなりたい。ならなきゃ、いけないんだ」
僕だって、何もただの趣味で耐性上げをしている訳じゃない。
これは、必要に駆られてのこと。
思い出すのは、遠征で遭遇した〈世界樹の落胤〉との戦い。
時間にすればほんの十数秒ほどの出来事だったけれど、あれは間違いなく学園に入学して以来最大の危機だった。
――そして、これからゲームのストーリーを進めていくなら、あのくらいの危機は何度でも訪れるだろう。
入学前に抱いていた、甘い考えはもう微塵もない。
この〈フォールランドストーリー〉の世界がいかに鬼畜なのかは、あの百ウェーブも続く魔物の襲撃で、はっきりと分かったから。
「僕は、ティータの言う通り、か弱い人間だから。危ない目に遭わないために、強くならなきゃいけないんだ」
今まで僕は、即死耐性なんてどうせ無効装備をつけるから必要がないって思っていた。
でも、常に即死耐性装備を身に着けていられるかは分からないし、即死耐性に枠を割く必要がなくなれば、それだけ装備の自由度も上がる。
耐性を安全に上げられる手段があるなら、それを無視出来るような余裕はない。
「それは、そうかもしれない、けど……」
僕の言葉に納得したのか、一瞬黙り込むティータ。
けれど、それでもとばかりに勢いを取り戻して、必死に僕に食い下がった。
「で、でも! やっぱり即死は危なすぎるわよ! 耐性を上げるなら、いきなり即死じゃなくてもいいじゃない! まずは睡眠とか麻痺みたいな安全なものから上げて、それから……」
「何、言ってるんだよ」
ただ、苦し紛れに言い放ったその言葉は、やっぱりあまりに的外れだ。
だって……。
「ほかの耐性上げなんて、全部終わってるに決まってるだろ」
「え、えぇぇぇぇぇぇっ!?」
僕の当然の答えに、なぜかティータは小さい妖精ボディに似合わない大声をあげたのだった。
※ ※ ※
「ニンゲン、ニンゲンこわい……」
僕が即死以外の全ての耐性を育てたと言ったら、ティータはこの調子になってしまった。
「普通、だと思うけどなぁ」
「絶対普通じゃないわよ!!」
思わず漏らすと、食いつくようにしてティータに反論されてしまった。
でも、考えてみてほしい。
「そりゃ、全部が全部即死みたいに致命的な状態異常だったらそうだけどさ。僕が〈バブルポーション〉なんてややこしいものを買ったのは、即死が『治せない状態異常』だからなんだよ」
対して普通の状態異常、例えば毒や麻痺程度なら、安全圏でやればなってしまってもすぐに治せばいいだけで危険はない。
要するに判定に失敗させる必要がないので、即死よりもずっとお手軽に耐性上げ出来るのだ。
「まあその分、一回の耐性上昇量が即死みたいに大きくなかったから、面倒は面倒だったけど……」
僕には九年もの時間があった。
それなのに限界まで耐性を上げないというのは、ゲーム主人公として逆におかしいだろう。
「う、そう言われると、そう……なの?」
ちなみにメニュー画面の説明を見る限り、これで上げられる耐性は本来五十パーセントが上限っぽい。
まあ例によって僕には成長上限がないので、全部の耐性が無効になるまで上げさせてもらった。
「……でも、即死耐性だけは、どうしても手が出せなかった」
状態異常確率の下限は一パーセントで、それ以下にするとゼロパーセントになって、耐性を育てられなくなってしまう。
でも、たとえ一パーセントの確率でも、計算上、百回試せば六割以上の確率で即死が発動する。
「だからティータには、感謝してるんだよ」
「アルマ……」
突然かけられた言葉に、ティータは目をぱちくりとさせている。
でもこの際だから、僕は全てをぶちまけてしまう気でいた。
「ティータは、人間はすぐ死んじゃう、弱っちい生き物だって、そう言ってたよね」
「それは……」
ティータは気まずそうに眼を逸らすけれど、僕は続けた。
「いいよ。僕も、そう思うから」
……そう。
ティータがこれくらいのことで怒るのは、僕を心配しているから。
だったら解決する方法も、簡単だ。
「――だからこそ、僕は強くなるよ。即死毒を飲んだり、獄炎竜やベヒーモスに轢かれた程度じゃ心配かけないくらい、強く」
原作を守護りたい、という想いは変わらない。
でも、良くも悪くも原作の難易度が想定以上だったことで、強さを自重する意味はあまりなくなった。
少なくとも、「耐久力」という部分については一切の自重をなくしても問題ないはずだ。
僕の言葉に、何を思ったか。
「……アルマ。ちょっとこっち来て」
「え?」
「いいから!」
ティータに近寄った僕に、彼女は真剣な顔をして手をかざした。
そして、
「――〈リアレイス〉!」
言葉と同時に、僕の視界を光が覆う。
真っ白な羽根が周囲を舞い、まるで天使に祝福されたようなエフェクトが、僕の身体を包み込んだ。
「これは……」
「分かってると思うけど、この魔法は一日に一回しか使えないから。今日の間はぜっっったい、即死耐性上げやったらダメだからね!」
ティータが怒ったような口調で、早口にそう告げる。
でもそれは裏を返せば、明日になったら即死耐性上げを再開してもいいということ。
「ティータ、ありがとう」
その言葉に、ティータは「ふん」とばかりにそっぽを向きながら答える。
「しょ、しょーがないから! アルマがムチャしないように、アタシがちゃんと監視してあげるわよ!」
僕の真心が通じたのか、ちょっとツンデレ気味な台詞で協力を約束してくれるティータに、自然と僕のほおも緩んだ。
「うん、よろしく頼むよ」
そう言って伸ばした、僕の人差し指に、
「まあ、その……よろしく」
ティータの手が照れたようにコツンとぶつけられて、僕らは仲直りをしたのだった。
※ ※ ※
ティータと二人、他愛のないことを話しながら寮に戻ると、時間はあっという間に過ぎた。
そして、たどり着いた寮の入り口で、
「僕宛ての、手紙?」
僕にはもう一つ、思いがけない贈り物が届いていた。
(もしかして……!)
心当たりは、ある。
慌てて封を切ると、中には僕が予想していた通りの内容が書かれていた。
「そーんなニヤニヤしちゃって、どうしたの?」
僕の様子に好奇心を刺激されたのか、横から覗き込んでくるティータに、手紙を見せる。
「もうすぐ、僕の十六歳の誕生日が来るんだ。だから――」
手紙と僕の顔を往復させるティータの視線に微笑みながら、僕は答えた。
「――久しぶりに、里帰りをしようかと思ってね」
故郷へ!!





