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第百七十話 進化する暴虐


 ――やっぱりもう一度、気を引き締め直さないといけないよね。



 流石はゲームの舞台、と言うべきか。

 入学してから数ヶ月で、本当に色々なことがあった。


 入学試験では同級生たちのレベルの高さに度肝を抜かれ、いざ入学しても直後にセイリアとの決闘騒ぎに不良とのいざこざ、ファーリの騒動と問題がひっきりなし。

 その後の武術大会ではなんやかんやあって優勝して、それから〈集団討伐演習〉ではトラップで深層に飛ばされて……。


 ……と、ゲーム世界にふさわしいイベントラッシュで、休む暇もなかった。


 ただ、問題なのはそんなことじゃない。

 万全の準備を整えたはずなのに、それでもイベントが難しすぎる、ということ。


(ゲームの序盤のイベントなんて、レベル25もあれば楽勝だって思うよね、普通は!)


 なのに、前回のイベント、〈集団討伐演習〉で飛ばされた先はレベル90クラスの敵がわんさか湧き出す森の深層。

 それがウェーブ制で間断なく押し寄せる地獄みたいな攻略難易度だった。


 いや、それだけならまだいい。

 僕の心臓を本当に縮こまらせたのは、深層のさらに先、世界樹の中心で現れた怪物。




  LV 180  世界樹の落胤




 あの魔物だけは、文字通りほかとレベルが違った。


 しかも、そんな魔物が、視界を覆いつくすほどの数、天井にひしめいていたのだ。

 裏技的なスキルの使い方で何とか切り抜けることが出来たけれど、僕が普通のゲーム主人公だったら、あそこで終わっていた可能性すらあった。


(……まったく、鬼畜難易度もほどほどにしてほしいよ)


 何しろ帝国における最強戦力のはずの剣聖ですらレベル146。

 あの魔物たちが世界樹の外に出てきたら、下手をすれば帝国が滅んでしまってもおかしくはない。


 そして、それだけじゃない。

 入学の初日にレベル250の存在に遭遇したことを思えば、あの怪物よりも強い怪物が、この世界にはまだまだ潜んでいる可能性が高い。


(もっと、もっと、本気で強くならないと……)


 今までだって、本気じゃなかった訳じゃない。

 九年間、魔法や技の訓練は人一倍、いや、人千倍くらいはこなした自負があるし、自分のレベルが学園の平均よりも低いと知ってからは、積極的にレベリングはしていた。


 でも、「原作から外れてはいけない」という枷を自分に課していたために、そこに甘えがなかったかと言われると、否定しきれない。



(――自重は、捨てよう。僕はまだ、弱い)



 そのために、何をするべきか。


 まず、〈終焉の封印窟〉でのレベリングは継続する。

 敵の復活は遅いようだけど、ここに通い続ければまだしばらくはレベルを上げることは出来るはずだ。


 ただこれで上がるのはレベルだけ。

 それだけで、今後出てくるさらなる強敵に対抗出来るかは分からない。


 だったら……。



 ――アレの力に頼るしかないか。



 手っ取り早い自己強化の心当たりは、ないでもなかった。


(色んな意味であとあと面倒なことになりそうだから、出来れば頼りたくなかったんだけど……)


 もうなりふり構ってはいられない。

 ちょうど時期もいいし、覚悟を決めて今から準備だけは進めておこう。


 それから……。



(――そろそろ、今まで避けてきたことにもチャレンジしないと、ね)



 僕は前回の戦利品を取り出すと、明かりに透かす。

 そこにあったのは、奇妙なほどの瑞々しさを保った、透き通った一枚の葉。



 ――〈世界樹の葉〉。



 あの世界樹の内部で手に入れた、いわくつきのアイテムだ。


(有名ゲームみたいに、これをかじると死んだ人が生き返る、なんていうのだったらよかったんだけど……)


 きちんと効果を見てみると、どうやらそれほど大したアイテムではないらしい。

 ただ、その代わり、新しい知見を与えてくれるものではあった。



《世界樹の葉(アイテム):世界樹の力を蓄えた葉。貴重な合成素材であり、生命の霊薬の材料となる》



 合成素材。

 つまり、素材アイテムだ。


(いい加減、この謎システムとも向き合わなきゃいけないよね)


 正直に言うと、合成や錬金のようなシステムがあることは、ほかのアイテムの説明などで分かっていたし、実際、この世界ではそういったことを生業としている人間もいるというのは知識として知ってはいた。


 ではなぜ僕が手を出さなかったか、というと、そんなことに気を取られてる暇があったら強くなって殴ればいい、という脳筋思考だったというのが理由の一つ。


 それから、もう一つの理由は……。


(難しいんだよね、めちゃくちゃ)


 僕も一応その辺りのことは調べなかった訳じゃない。


 しかし、実際に器具なんかを用意してもらって試してみても素人が一朝一夕に出来るようなものではなく、原作ゲームの主人公がそんなものを修めていたとはちょっと信じがたかったのだ。


(だから、ゲーム本編が始まれば、勝手にチュートリアルイベントか何かが起こって、お手軽にアイテム合成が出来るようになるんじゃないかな、なんて思ってたんだけど)


 今のところはその気配はない。


 条件が満たされてないのか、そもそも僕の勘違いなのか。

 何が問題なのかは分からないけれど、アイテム合成が将来的にストーリーの必須イベントに絡んでくる可能性がある以上、この要素をこれ以上見逃すのもよくないだろう。


 ……それに何より、昔と違い、今の僕には心強い味方がいる。


 この学園で一番の情報通、トリシャだ。

 トリシャならきっとアイテム合成についても絶対に詳しいだろうし、それに……。



(最悪、どうにもならなかったらこの世界樹の葉を渡して「これで霊薬を作れる人を探して」ってトリシャに丸投げしたら、きっと見つけてくれるよね!)



 その時、なぜか涙目で胃を抑えるトリシャの幻影が見えたけれど、きっと気のせいだろう。


(……うん。方針が固まってきたな)


 僕はもっと強くなる!

 強くなって、その力で原作を守護るんだ!!

熱い決意!!

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― 新着の感想 ―
[一言] トリシャをこれ以上いじめるなぁぁっ!
[一言] あけましておめでとうございます。 今年もよろしくお願います。 応援してます!
[良い点] “でも、「原作から外れてはいけない」という枷を自分に課していたために、そこに甘えがなかったかと言われると、否定しきれない。” それ以上はRTA走者の領域な気が…… “(――自重は、…
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