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第百六十二話 深淵の先


 ――この状況をどうにかするには、その元凶を叩く必要がある。


 それが僕の出した結論だったけれど、同時にそれが大きなリスクを伴うこともまた、事実だった。


 まず、第十階位程度のバースト魔法などで魔法戦をする場合。

 つまりは、深層の魔物が数匹程度の集団で襲ってきても圧倒出来る程度の火力があるけれど、群れの数が大きくなれば対応し切れないし、


 僕らが深層の魔物相手に安全に戦えているのは、闇属性の攻撃を無効化する〈シャドウトーテム〉の貢献が大きい。


 もちろん、世界樹の方に向かっても、〈シャドウトーテム〉の効果自体は続く。

 ただ、長い時間〈シャドウトーテム〉を離れたら、トーテム自体が破壊される可能性はある。


(トーテムには闇属性の攻撃は効かないし、魔法のレベルが上がったことで、トーテムのHPも高くなっている)


 塔と間違えるほどに強化されたこのトーテムは、雑魚に殴られただけで一瞬で消える低レベルトーテムとはまるで別物のような耐久力を誇る。


 それでも深層の魔物に取りつかれ、間断なく攻撃を受けてしまえば、破壊されるのは時間の問題だろう。


(それに……)


 単純に、立ち位置の問題もある。

 背後に〈シャドウトーテム〉を背負っている状況だからこそ、僕らは通路の一方だけを見張っていればよかった。


 しかし、打って出れば全方位からの攻撃を警戒しなければいけないし、待ち伏せや遠くからの狙撃などの危険性もある。

 そして、それで危険に晒されるのは僕よりもレミナだ。



「……行きましょう」



 けれど、僕の提案を聞いたレミナは、ためらうことなくそう言い切った。


「危ないのは、分かります。でも、これ以上戦いが続くのは、もっとまずいですから」


 普段は弱気なように見えていても、そう口にするレミナの目には、しっかりとした意志の灯が宿っていた。


(……これじゃ、どっちが主人公か分からないな)


 内心で苦笑いをしながら、僕も覚悟を決めた。


「絶対に、この魔物の発生の原因を見つけよう。それで、二人で森の外に帰るんだ」

「はいっ!」


 こうして、僕らの二人だけの反攻作戦は始まった。



 ※ ※ ※



「――〈ファルゾーラ〉! 〈ファルゾーラ〉! 〈ファルゾーラ〉!」


 出し惜しみせずに〈ファルゾーラ〉……もとい〈ファイア〉をまき散らしながら、道を駆ける。


(幸い、世界樹はすぐ近くだ。それなら下手に小細工をするより、駆け抜けた方が早い)


 特に火力に補正がない状態でも、僕の魔法はおそらくレベル100越えの魔法使いクラスの威力を持っている。

 中級魔法の〈ウィンドバースト〉であっても魔物たちを圧倒出来るし、鍛え抜いた〈ファイア〉なら強い火耐性持ち以外は瞬殺可能だ。


(まあ、流石にセイリアのお父さん……剣聖のグレンさんとかが相手だとしたら、これでも全然倒せる気がしないけど……)


 とはいえ、確かグレンさんのレベルは146。

 レベルは100を超えると1レベルごとの能力の上昇量が大きくなると聞くし、146は明らかに人類最高峰。


 逆に言えば、レベルが100にも届いていないこの深層のモンスターに対しては、この魔法は絶対の破壊力を発揮する。


「〈ファルゾーラ〉! 〈ファルゾーラ〉! 〈ファルゾーラ〉!」


 分岐を見つける度に、敵がいるかいないかにかかわらず、とりあえず〈ファイア〉をぶっぱなして先に進む。


「レオハルト様!」

「うん、僕にも見えた!」


 すると、ようやく視界の端に木が、小さな体育館くらいの太さがありそうな巨大すぎる木の幹が見えてきた。


「仕上げだ! 〈ファルゾーラ〉! 〈ファルゾーラ〉! 〈ファルゾーラ〉! 〈ファルゾーラ〉!!」


 滑り込むように走り込みながら、世界樹に群がるように集まった魔物を、〈ファイア〉の連打で叩く、叩く、叩く!


「……よし」


 幸い、集まっていた中に火属性を無効化する相手はいなかったらしく、魔法の余波が収まったあとに魔物の姿はなく、それを裏付けるかのように、僕の頭の中に勝利BGMが流れ始めた。


 これでようやく、第一段階クリアだ。


「なんとかなったね。大丈夫?」


 僕が振り向いて尋ねると、レミナは僕を見て、ゆっくりとうなずいた。


 ただ、その顔はどうにも明るくない。

 どうしたんだろう、と思いながら条件反射のようにルナ焼きを口に放り込んでいると、


「わたしは平気、です。それより、レオハルト様の方が、無理、してませんか?」

「え、僕?」


 突然の言葉に、ルナ焼きを味わうことも忘れて聞き返してしまった。


 今回も、傷を負うことなく敵を完封出来た。

 だからどうして僕の方が心配されるのか、本当に分からなかったのだ。


「だ、だって、レオハルト様はずっと戦ってて! 終わる度に何個もルナ焼きを食べてますけど、それじゃあ……」


 レミナの、その心から僕を心配しているような言葉と表情に、ようやく僕は気付いた。



(――あ、そうか! レミナは僕が使ってるのが〈ファルゾーラ〉だと思ってるから……)



 本来の〈ファルゾーラ〉の消費MPは66。

 流石にフィールド全体攻撃である〈絶禍の太刀〉ほどのぶっ飛んだ消費MPではないけれども、気軽に連発出来るような魔法じゃない。


(あ、あれ? まずくないか?)


 レミナは〈ファルゾーラ〉の正確なMP消費は知らないだろうけど、少なくともルナ焼き数個程度の回復量で賄えるとは思わないはずだ。


 その魔法を、僕は戦闘一回につき一回、場合によっては複数回使用していた。


 つまりレミナから見れば、僕は自分の最大HPをガリガリ削りながら大魔法を連発しているという訳で……。


(いや、そりゃ心配もされるよ!)


 じとりと変な汗が噴き出す。

 気遣わしげなレミナの視線を遮るように、僕は慌てて口を開いた。


「だ、大丈夫だよ。僕はほかの人より生命力が多いし、何よりこれがあるからさ!」


 これ見よがしに新たなルナ焼き十粒ほどをつかみ取ると、一気に口に放り込む。


「うまぁああああ!! ……ほ、ほら、これで元気になったから!」

「あっ」


 そんな僕になおも何かを言いたげなレミナだったけれど、そこで彼女は大きく目を見開いた。


「レオハルト様、あれ!」


 僕の背後を示し、怯えた声で警告する。

 そして、振り返った僕が、目撃したのは……。


「なっ!?」


 荘厳さすら感じる世界樹の内側から、おぞましい「闇」が噴き出す、その瞬間。



 ――そうして同時にそれは、この魔物の大量発生の原因が世界樹にあることを示す、決定的な証拠だった。



明かされる闇!

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ついでににじゅゆも


― 新着の感想 ―
鍛え上げ過ぎた弱魔法を隠す為に最強魔法と偽る事と、伝説の最強魔法習得済みを隠す事、どっちが不味いでしょう? どっちも不味い、隠したいなら使うな、使うなら使う方だけでも隠すな、中途半端な誤魔化しが一番駄…
[良い点] 全然気が付きませんでした 心配されているのは満腹度でしたか
[一言] >>(……これじゃ、どっちが主人公か分からないな) ほんとだよ
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